空音、ラッパーの在り方を更新する早熟な才能 「SPLASH」で歌う“次世代を担う覚悟”

空音「SPLASH」で歌う“次世代担う覚悟”

 さらにそこから半年足らずでリリースされたのが、「宝箱」を意味するタイトルが冠せられた3rdアルバム『TREASURE BOX』(2020年)である。高校生の頃から憧れの存在だったバンド、クリープハイプを率いて縦横無尽なラップを聴かせたかと思えば、TENDREこと河原太朗によるスタイリッシュなトラックに、熱量たっぷりのメッセージを注入。いつものトラックメイカーに加え、今作にはSIRUPなどの楽曲も手がけるビートメーカー A.G.Oや、Chilly Sourceのillmoreといった新たな布陣も参加。もはや「Hug feat. kojikoji」リリース時に謳われていた「チルラップ」といった言葉では語りきれない、バラエティ豊かな作品に仕上がっている。

 例えば冒頭曲「scrap and build」では、自らのヘイターたちへのアンサーリリックを、トラップのリズムに乗せて繰り出している。しかもそれを、「ただのディスではなくカッコいい曲にしようと思いました。そもそも僕に向けられたヘイトはストレスにはならず、日々を頑張るための「ガソリン」になっているんですよ」と、屈託のない笑顔で話す空音(※4)。一方、尾崎世界観と制作した「どうせ、愛だ feat. クリープハイプ」では、セクシャルマイノリティの生きづらさを普遍的なラブストーリーへと昇華させた。こうした「自己肯定感」の追求、社会問題への関心の高さは、Z世代を代表するアーティストならではと言えるのかもしれない。

空音 / scrap and build -Official Music Video-
空音 / どうせ、愛だ feat. クリープハイプ -Official Music Video-

 さて、そんな空音による新曲「SPLASH」は、冒頭で述べたとおり爽やかで疾走感あふれる楽曲である。ヴァースのリリックは軽やかに韻を踏みながら、〈(毎日 右から左に)/流れる嫌なニュース/それに加え 降る雨 水を差す〉と、まるでコロナ禍で立ち行かなくなった日常への苛立ちを綴っているかのよう。ブリッジでリズムが半分になり、トラップのようなトリッキーなフロウを披露したのち、フックではフューチャーベース仕立てのトラックの上で、〈負け試合なんてない/身構えてる/だって次は俺らの番だろう〉と、次世代を担う覚悟を歌う。二番では、〈自分でぶっ壊して/創造してるのさ〉〈枯れてたって 水をやって Bloom !!〉と、自身の過去曲を彷彿とさせるフレーズを散りばめながら、例え転んでも失敗しても、「誰かの定規の上」で「操り人形(マリオネット)」になることなく進んで行こう、と同世代のリスナーにエールを送っているかのようだ。

空音 / SPLASH -Official Music Video-

 以前、空音はチャンス・ザ・ラッパーやビリー・アイリッシュ、サム・ヘンショウに「音源を聴いてほしい」と直接メールを送ったことがあるという。そうやっていろんな人たちにメールを送り続けた結果、BASIと繋がりコラボを果たすことができた彼は、まだ無名だったトラックメーカー Shun Marunoに仕事を依頼するなど、若くしてすでに後進のフックアップにも積極的だ。

「今やShunくんは引っ張りだこですからね。これからも気になる人はどんどんフックアップしていきたいです。『我こそは』という人は、僕のところにもどんどん作品を送ってきてほしいし、(中略)僕と一緒に何かやりたいと思っている人は、遠慮せずに送ってきてください!」(※5)

 軽音楽部に入り、バンド活動をしていた時期もある空音は、「たまたま自分には、ヒップホップのリリック制作がしっくりきただけで、表現形態としては何でもいいのかなと今でも思うし、だからこそ色んなことがやりたくなる」し、現在は映画音楽に強い関心があると話す(※6)。すでにヒップホップというカテゴリーからも、ラッパーという肩書からも逸脱し始めている空音。この先彼は、どんな才能を発揮してくれるのだろうか。

※1:https://realsound.jp/2019/07/post-384145.html
※2、3、6:web会報誌『オアシス』
※4、5:https://realsound.jp/2020/12/post-682421.html

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。
ブログ:https://oto-an.hatenadiary.org/
Facebook:https://www.facebook.com/takanori.kuroda
Twitter:https://twitter.com/otoan69

■リリース情報
 空音「SPLASH」
『BOAT RACE 2021』テーマソング
2021年4月28日(水)配信 ダウンロードはこちら

■空音 関連リンク
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