今考えるべき“アイドルとSNS”の関係性 神宿マネジメント 柳瀬流音に聞く、リスクと利点
一ノ瀬みか、羽島めい、羽島みき、塩見きら、小山ひなの5人からなるアイドルグループ・神宿。アイドルでありながらも、YouTuberとしても活動する彼女たちは、Twitter、Instagram、YouTubeはもちろん、直近では新しくClubhouseを活用するなど、様々なプラットフォームでグループや個々人の発信を積極的に行っている。
アイドルも自己プロデュースすることがスタンダードとなった昨今、SNSをはじめとする発信プラットフォームの重要性は非常に高まっているが、その一方で予期せぬ炎上など配慮すべきリスクも増えている印象だ。今回、リアルサウンドでは、彼女たちが所属する株式会社神宿 代表取締役社長の柳瀬流音氏にインタビュー。同氏も2021年からTwitterやClubhouseを始めたというが、アイドル運営という裏方の存在がSNSを通して発信するメリットとは? そして、現代におけるアイドルとSNSの関係性を発端に、神宿独自のアイドル運営論について話を聞いた。(編集部)
神宿はYouTubeの登録者数や再生回数を追っていない
ーー神宿の運営として、柳瀬さんはこれまでSNSとどのように向き合ってきましたか?
柳瀬流音(以下、柳瀬):多くのアイドルは目的を持ってそれぞれのSNSを活用していると思うんです。Twitterであれば文字と写真で演出ができる、Instagramには加工した写真を簡単に載せられる、TiKTokはプロの人たちが編集するような技術を簡単に短い動画で表現できる。つまり、それぞれのプラットフォームならではの特色があって、アイドルはファンの方たちとコミュニケーションを取ったり世の中に知ってもらうという意味で、目的を持ってSNSを活用している。ただ、それは一方でアイドル側の都合でしかなく、それぞれのSNSにルールやできること/できないことがあるので、そこを理解しつつ、ファンの方たちはどういう使い方をしているのかを考えた上で運用してきたところがあります。
先日、僕はClubhouseで「神宿はYouTubeにおいて、登録者数や再生回数を追っていません」と話しました。具体的に言うと、YouTubeでは神宿の日常的な姿を切り取って、メンバーひとりひとりのキャラクターを理解してもらうためのプラットフォームにしたいと。例えば、一緒にゲームをしている姿やメンバー同士でコミュニケーションを取っているバラエティ動画など、音楽作品だけだと伝わりきらない、メンバーの人間性を伝えるプラットフォームという使い方をしている。なので、認知が広がったらそれでいいとかそういう考え方ではないですし、認知を広げることを何よりも重要とは考えていません。
ーー今Clubhouseの話題が出ましたが、柳瀬さんは今年の2月中旬からClubhouse を活用されています。その直前にはTwitterも始めましたが、このタイミングにSNSを始めた理由は?
柳瀬:この年末年始に「2021年の神宿はどう戦っていくべきか?」ということを考えていく中で、今年の9月に迎える結成7周年について考えてみたんです。ありがたいことに、このコロナ禍においても神宿はメンバーそれぞれが成長することができたし、チームとしても成長することができた。ファンの方々ともいいコミュニケーションが取れた、すごく実りの多い1年でした。極端な話、この感じで続けていけたらなんの問題もない。
ただ、女性アイドルグループとして考えた場合、この調子で10年やっていけるかというと、そういうわけにもいかないかもしれない。チーム神宿において僕が大事にしているのは、一人ひとりの人生がどうなのかということ。それはメンバーだけじゃなくてスタッフにおいても同じで、どう考えて生きているのか、どうなっていきたいのかということと活動が矛盾しないようにしないといけない。昨年、最年少メンバーの一ノ瀬みかが20歳になったことで、メンバー内でも今までとは違う空気もできていますし、みんなにとっての未来像がより具体的になってきた。だからこそ2021年はより加速する1年にしたいと考えたんです。加速していくためにどうすればいいか、そこで鍵になってくるのが“認知”だと考える人は多いと思うんですけど、僕はその認知というものに対してのアプローチを2021年の1年を通して変えようと決意した。認知を取りにいくというのが最初のフェーズであってはならないと感じたんです。
ーーそれはどういったことでしょう?
柳瀬:例えば神宿がテレビに出て、たくさんの方に知っていただいたとします。その次に僕たちが何をすべきかというと、おこがましい言い方になりますが、知ってくださった方々対して「神宿はこういうグループで、ライブがあったらこういうレギュレーションで、こういうふうに楽しんでもらう必要があるんですよ」と“教育”していくことなんじゃないかと。認知が増えれば増えるほど、その教育コストって計り知れないくらい大きくなると思います。例えば、僕たちは限られたリソースの中でしか戦えないので、広告費を10億投入するのはなかなか難しい。となったときに、認知を最初に持ってくるのではなくて、ファンのエンゲージメントを高めることを第一に考えるべきであって、そのエンゲージメントが高いファンの方々がその世界観を広げていく。そこを加速させるためにはどうしたらいいかと考え、SNSという存在が密接に関わってくるという結論に達しました。
僕はもともと周りの方にあまり知られたくなくて、表立った活動をしたくなかったんです。加えて、アイドル運営と呼ばれることにもしっくりきていなかった。運営とかプロデューサーってすごく定着した言葉ですが、今ではその言葉以上の意味を孕んでしまっている。そこを一度脱却して考えたいんです。僕たちはマネジメントではあるし、時には僕がMV含めてプロデュースという形で関わらせていただくこともあります。ただ、それは厳密にプロデューサーという定義の中でそういう役割をしていますよということだけの話であって、基本的には「自分はマネジメントです」とお話ししています。プロデューサーの方って、最近は表に出ることが多いじゃないですか。表に出るのが当たり前になってくると、そこに承認欲求や目的が見えてしまい、意図が若干ズレてくるのが気になっていて。そこに違和感を持っていたからこそ、自分は出たくなかった。ただ、ファンの方や関係しているすべての方との関係性を発展させていくためにSNSを使おうと、年明けにメンバーにも相談して決めたんです。