村井邦彦×川添象郎「メイキング・オブ・モンパルナス1934」対談 第2弾

村井邦彦×川添象郎、特別対談 第2弾

 リアルサウンド新連載『モンパルナス1934〜キャンティ前史〜』の執筆のために、著者の村井邦彦と吉田俊宏は現在、様々な関係者に話を聞いている。その取材の内容を対談企画として記事化したのが、この「メイキング・オブ・モンパルナス1934」だ。

 第四回のゲストには、村井邦彦の盟友である音楽プロデューサー・川添象郎が再び登場。1960年、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジにて過ごしていた日々について語った前回に続き、今回はラスベガスのディナーショーでステージ・マネージャーを務めた話など、貴重なエピソードをたっぷりと聞いた。(編集部)

※メイン写真は1960年に川添象郎がステージ・マネージャーとしてショーを行っていた、ラスベガスのザ・デューンズ

1960年、18歳でロサンゼルス/ラスベガスへ

村井:象(しょう)ちゃんとやった前回の対談が好評なんですよ。

川添:へえー、どのあたりが受けたんだろうね。

村井:象ちゃんのやってきたことそのものが面白いんだよ。若い人も興味を持ってくれたんじゃないかな。

川添:映画の『フォレスト・ガンプ』の主人公みたいに、いろんな有名人に偶然出会っているからね。でもクニの経験もすごいよ。

村井:うん。まあ、そうなのかな。偶然の出会いがいろんなことに繋がっていくから驚いちゃうよね。たまたま出会った人と何かをやってのける。そんなことがお互いに多かったよね。

川添:そうそう。いきなりカナダのモントリオールに電話してさ、歌わせた少年歌手がグランプリを獲っちゃうとかさ。

村井:ルネ・シマールね。あれは1974年の東京音楽祭世界大会だったかな。僕の作曲した「ミドリ色の屋根」を歌ってグランプリを獲ったんだ。

川添:ルネのマネージャーにギ・クルティエと、もうひとりルネ・アンジェリルという人がいたでしょう。もう亡くなっちゃったけど、アンジェリルはセリーヌ・ディオンの夫だったんだよね。

村井:5年ぐらい前に亡くなったね。前回の対談ではニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジの話をしてもらったけれど、象ちゃんはその前にロサンゼルスとラスベガスに行っているんだよね。今回はそのあたりの話も聞きたいな。

川添:うん、1年ぐらいかな、ラスベガスにいたのは。スティーブ・パーカーっていう映画プロデューサーと知り合ってね、その奥さんが女優のシャーリー・マクレーンなのよ。

村井:僕は会ってないけどシャーリー・マクレーンは日本にいたんだよね? キャンティが始まった1960年より前の時代かな。

川添:キャンティが始まった頃もいたよ。

村井:へえー、あの頃も日本にいたんだ。

川添:すごくおかしな記憶があるんだ。シャーリー・マクレーンとイヴ・モンタンが共演した映画があったよね。『My Geisha』(邦題『青い目の蝶々さん』)っていう。

『My Geisha』のポスター

村井:うん、あったねえ。

川添:そのプロデューサーがスティーブ・パーカーだったわけ。スティーブがキャンティにシャーリー・マクレーンとイヴ・モンタンを連れてきていたんだよ。それで、ある日ね、シャーリーとイヴがキャンティでランチかディナーをしていたら、作家の大江健三郎さんが現れて哲学の話を始めたわけ。お世辞にも上手とはいえない英語でね。シャーリーとイヴはキョトンとしていたんだけれど、大江さんはとうとうと実存主義の話をするわけ(笑)。

村井:ありそうだね(笑)。

川添:キャンティらしい話でしょ。

村井:本当だね。後にノーベル文学賞を受賞する大作家だからね。そういえば、その前に文学賞を獲った川端康成さんもキャンティの常連だった。

川添:シャーリーは『ハリーの災難』(1955年)っていう映画でデビューしているんだ。

村井:アルフレッド・ヒッチコック監督だね。

川添:彼女はヒッチコックの映画で有名になって、後に『愛と追憶の日々』(1983年)でアカデミー賞の主演女優賞を獲ることになるんだ。ああ、それでスティーブがプロデュースして、シャーリーとイヴが共演した『My Geisha』に話を戻すとね、俺は制作部のアシスタントの、そのまたアシスタントの使い走りみたいな感じで参加させてもらったんだ。その縁でラスベガスに行くことになったの。

村井:なるほど。つまり『My Geisha』のロケは日本でやったわけ?

川添:そう。箱根あたりでずっとやっていたの。

村井:彼らはかなり長い期間、日本に滞在していたってこと?

川添:そうそう。だからしょっちゅうキャンティに来ていたわけよ。

村井:僕が覚えているのはね、南麻布の東京ローンテニスクラブでジェリー伊藤さんとスティーブ・パーカーがよくテニスをしていたこと。

川添:へえ。スティーブって人は、大の日本びいきでさ、奥さんのシャーリーをハリウッドに置きっ放しにして日本で暮らしていたんだ。だから、その感じで『My Geisha』を作ったんじゃない?

村井:はあ、そういうことなんだ。スティーブってどういう人だった?

川添:かっこいい人だよ。ちなみにシャーリーの弟がね、ウォーレン・ベイティっていう俳優で。

村井:すごい才能の人だよねえ。

川添:うん。彼が主演した『俺たちに明日はない』(1968年)っていう映画が話題になったね。あの映画から「アメリカン・ニューシネマ」って言葉が生まれたんだよね?

村井:そうだね。『イージー・ライダー』(1969年)とか『明日に向って撃て!』(1969年)とか「アメリカン・ニューシネマ」の名作がしばらく続いた。それからウォーレン・ベイティでいえば、彼が自分で監督して主演した『レッズ』(1981年)っていう映画もあったね。ジョン・リードっていう共産主義にかぶれてロシア革命のすぐ後にソ連に行っちゃったジャーナリストの伝記みたいな映画でさ。あれはアカデミー賞の監督賞を獲ったよね。

『俺たちに明日はない』のポスター

川添:観た、観た。よくできた映画だった。

村井:彼の映画で覚えているのは『バグジー』(1991年)だな。

川添:ラスベガスにカジノを作ったマフィアの映画だ。

村井:すごい才能だよ、ウォーレン・ベイティは。息子(ヒロ・ムライ)が通っていた南カルフォルニア大学映画学部のパーティーで見かけたけど、すごく背の高いかっこいい男だよ。年を取ってちょっとヨタヨタしていたけど。

川添:もう随分なお年だよ。

村井:僕より7~8歳上だから80代前半かな(シャーリーは1934年、ウォーレンは1937年生まれ)。話は戻るけど、象ちゃんは最初にロサンゼルスに来たの?

川添:うん。いや、えーっとねえ、スティーブがラスベガスのザ・デューンズというホテルで「フィリピン・フェスティバル」という大きなショーをプロデュースすることになったの。舞台美術を担当していたのが中嶋八郎さんという日本人で、俺はその人のアシスタントとして連れていかれたわけさ。だから到着して2~3日はロサンゼルスにいたかな。スティーブやシャーリーと同じ飛行機に乗って空港に着いたら車が迎えにきてさ、それでシャーリーの自宅に行ったんだけど、家に着いたらキャビアが山盛りで出てきて、みんなでシャンパンを飲むんだ。俺は初めての外国だし、無理してちょっと付き合ったら酔っ払ってすぐ寝ちゃったんだよ。

村井:そうかあ。それは何年の話?

川添:1960年。

村井:じゃあ、キャンティが始まった年だ。僕が15で、象ちゃんは18くらいだね。

川添:そういうこと。それから俺は4年間、アメリカに行きっ放しだったから、その間はクニとは会ってないわけだな。

村井:そうなんだよね。僕らが会ったのは、象ちゃんがニューヨークから帰ってきた1964年くらいかな?

川添:うん、前回の対談で話題にしたオフブロードウェイのミュージカル『​6​人を乗せた馬車』(1964年)の舞台で日本に帰ってきたときに会ったんじゃない? 懐かしいねえ。

村井:本当だねえ、懐かしいなあ。それで象ちゃんがロサンゼルスに着いたときの話なんだけど、その頃、直行便はないよね。ハワイ経由?

川添:うん、ハワイ経由でロサンゼルスに着いたと思うな。結構、長かった記憶がある。着いたときはヘロヘロだったもん。

村井:それでシャーリー・マクレーンの家に行ったらキャビアがあって、シャンパンがあった、と。その家がどの辺りにあったか覚えている?

川添:ビバリーヒルズのどこかだよ。

村井:そうか、じゃあ今の僕の家からそんなに遠くはないな。

川添:そうだよね。

村井:それから2~3日たって、すぐにラスベガスに飛んでいったわけだ。

川添:そうそう。中嶋八郎さんも一緒に行ったんだ。ちなみに中嶋さんは松竹系の歌舞伎の舞台装置で有名な人だよ。

村井:えーっ、そうなの?

川添:うん。みんな「はっちゃん」って呼んでいたけどさ、俺はその「はっちゃん」のアシスタントをやっていたわけ。といっても、右も左も分からないし、中嶋さんは英語がちんぷんかんぷんだったから、俺が急きょ覚えてね、ずっと通訳していたわけよ。

村井:ははは、すごいね。

川添:後は毎日毎日、中嶋さんと大工仕事。要するに舞台装置だからね。でも向こうはユニオン、組合があって……。

村井:うるさいだろう?

川添:そうなんだよ。みんな終業時刻が来るとパッといなくなっちゃうわけよ。本番まであまり時間がないから、中嶋さんは「あいつら、役に立たねえな」とか文句を言っていたな。俺は中嶋さんの手伝いで、ずっと大工仕事をしていたわけさ。

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