アニメ『約束のネバーランド』の世界にスリルを与える劇伴 小畑貴裕が生み出す音楽の魅力
『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画を原作とするダークファンタジー作品『約束のネバーランド』。2019年1月からはTVアニメSeason 1が放送され、主人公・エマたちのグレイス=フィールドハウスからの脱走までが映像化された。そしてそれから2年を経た今年1月からSeason 2が放送中。脱走後の外の世界での、15人の子どもたちのサバイバルを描いている。そんな本作に、音楽面から緊張感を与えているのが、劇伴を手掛ける音楽家・小畑貴裕。彼がこの作品にあてて生み出した楽曲の魅力について、本稿では語っていきたい。
グレイス=フィールドの“内”と“外”を明確に区分したSeason 1の音楽
小畑の音楽家としてのキャリアは、ジャズピアニストとしてスタート。その後は様々なライブでキーボーディストを務め、劇伴音楽やTV番組テーマ曲のレコーディングにも奏者として参加しつつ、2015年には劇伴作曲家としてのデビューを飾る。以降、徐々に担当作を増やし続けていた彼が初めて全面的に担当したTVアニメの劇伴が、この『約束のネバーランド』のSeason 1だった。
前述したように音楽的ルーツこそジャズである小畑だが、生み出す音楽は実に多彩。そんな彼が本作の劇伴のなかで、全体のテンション感のコントロールの役目を担わせたのが、ストリングスだ。
とりわけSeason 1においては、その特徴がより顕著。「爽やかな朝日のように」では木管楽器とともに、穏やかな日常を音からも描いてみせたかと思えば、緊迫感あるシーンで用いられる「冷徹なイザベラ」では細やかな高音のストリングスを重ねて迫りくる危機を体現。他にも「エマの苦悩」ではチェロの低音を利かせて暗い心情を表現したりと、あらゆるシーンをストリングスを駆使して見事にコントロールしている。
だが他方、“鬼”の絡むシーンでストリングス以上に重用されているのは、デジタルサウンド。グレイス=フィールドとは別世界の存在であることを、そういった点からも明示しているかのようだ。また、特に「Tight Tension」は歪ませた重低音の奥に響く粘着質なパーカッションが、まさに食欲が高まりすぎてヨダレを垂らす“鬼”のおぞましい姿のよう。ダークな世界観の楽曲において、本作にとってはこれ以上ない、素晴らしく恐ろしい取り合わせだ。
そして“鬼”側のサウンドの特徴は、Season 2でも共通のもの。シリーズの序盤、森の中の逃亡劇中に用いられた「レイと鬼の対峙」を思い出せば、おわかりいただけるはず。この曲でも重低音が強調されており、絶望感をも与えるような仕上がりとなっているのだ。
その一方で、Season 2ならではのポイントも存在する。そもそもSeason 2は、主な舞台が“外の世界”へと移ったもの。そのためSeason 1の劇伴にはなかった要素を補うような、より個性的な楽曲が次々誕生した。例えば「ミネルヴァのペンの導き」は、浮遊感ある曲の中にビブラフォンの音色を利かせることで神秘的な空間にたゆたっているかのような印象を与えるし、1000年前からの鬼と人間との“約束”が明かされるシーンで用いられた「人間と鬼の約束」は、メインにパイプオルガンを用いることで語られる内容の神話性をさらに高めてくれたりと、いずれもSeason 1以上に粒ぞろいな楽曲だ。