「言葉と向き合う時間はとても長かった」ーー宮沢和史、不安抱える世の中で伝えたかったメッセージ

宮沢和史、今伝えたかったメッセージ

「詩の可能性はずっと信用してます」

――詩の朗読で聴かせる「最大新月」も印象的でした。宮沢さんは朗読会や詩の座談会をたびたび開催するなど、詩を伝えることも大切にされてきましたよね。

宮沢:詩を朗読するコンサートを始めたのは、2002年頃からかな。バンド活動と並行してずっとやってきました。2013年には朗読とギターの弾き語りだけで全都道府県を回ったりとかね。詩や朗読ってあまりやっている人がいないし、地味でつまらないイメージがあるかもしれないけど、意外とマルチメディアなんですよ。

――というと?

宮沢:歌詞と違って規制がないので、逆にいくらでも音楽的に表現できるんです。「最大新月」みたいにピアニストの方とバトルする感じに持っていくとか、何か柱を見つける喜びもあったり。とにかく楽しくて、詩の可能性はずっと信用してますね。ただ、僕は欲張りなもので、歌詞も朗読して成り立つものじゃないと嫌なんです。歌詞って本来は読むために作られるものじゃないから、その必要はないんですけど。

――詩や朗読にハマったきっかけというのは?

宮沢:尊敬する大先輩の音楽家、友部正人さんが詩の朗読をやってらっしゃって、一緒にやろうと誘われたんですよ。もう20年くらい前かな。当時は“小っちゃいライブハウスでやるから来てよ”“いやいや、僕やったことないんで!”みたいな感じでしたね。ちょっと恥ずかしさもあったし、その前に谷川俊太郎さんの表現力豊かな朗読を観ていたので、自分なんかにできるわけないという気持ちで。結局しぶしぶ出たんですけど、やってみたらこれがまあ楽しかった(笑)。読むだけで場を作っていくのが新鮮だったり、時には同じ箇所を繰り返して読んでもOKだったり、すごく自由なんだなって。それでいて、見えないオブジェクトを作り上げている喜びもある。お客さんが拍手をしてくれる。これもひとつの音楽だなと思ったんです。そこから好きになって、自分のやり方を探し始めました。ほかに影響を受けたのは、チャボさん(仲井戸“CHABO”麗市)。同じくライブで朗読をされていて、チャボさんはトーキングブルースというか、しゃべるようなスタイルで。こういうアプローチもあるんだなと勉強になりましたね。ぜひ、若いミュージシャンもトライしてみてほしいです。

――オフィシャルサイトの「Miyazawa Eyes」に“Super Moon”というタイトルの投稿(参照)がありましたけど、「最大新月」はあの時期に書かれた詩なんですか?

宮沢:そうです。例年のようにライブやツアーやレコーディングに追われていると、○○流星群とか○○ムーンを見るのってなかなか難しかったりするけど、去年はコロナ禍もあって家にいたので、どれどれちょっと見てみようって。そしたら、あまりの美しさにびっくりしましてね。本当にすごかったです、スーパームーン。月が好きで歌詞によく登場させてはいたんですが、こういうのは初めてで。“輪郭がぼやけるくらい眩しいものなのか”“眩しいってことは近くにいるってことか”“月って遠いよな”“でも、なんでこんなに近くに感じるんだろう”みたいな押し問答が自分の中であった末、遠く手の届かないところにいる人やもの、場所が今日はそばにいるように思えるっていう、この次に置いた沖縄民謡「白雲節」も同様に心と心の“距離感”を歌った歌です。

――ちょっと脱線しちゃうんですけど、この前「最大新月」を聴きながら夜道を歩いてたとき、空に火球が流れ落ちるのを見たんですよ。

宮沢:へえ~、そんなロマンティックなことがあるんだ。ちょっとうらやましい(笑)。コロナ禍以降って、見えるものがいい意味で変わってきた感じもしますよね。夜空だって、みんな前よりも見ている印象だし。物事をいつもより深く考える時間があると、景色も変わってくるじゃないですか。忙しい生活だとぜんぜん視界に入ってなかったものに気づけているのは、のちのち活きてくるかもしれない。美しいほうがメインにある、正常な方へ行けるとしたら。

――沖縄民謡の「白雲の如く(白雲節)」も素敵な曲ですね。

宮沢:沖縄民謡って星の数ほどあって、他県の民謡と比べると曲数がケタ違いなんです。その上、今でもなお新しい作品が次々に生まれていて。実は便宜上、民謡と呼んでいるに過ぎないんですよ。一般的な民謡は労働歌とかお嫁に行く風景を歌ったものとか“人間の営み”や“お国自慢”などが主流だけど、沖縄の場合はもうちょっとフォークソングや歌謡曲っぽい歌が多い。ラブソングもたくさんあったりして、ぜんぜん過去のものでもなく、民衆の流行り歌という感じなんです。

――それは知らなかったです。

宮沢:そんな恋の歌の中でも、「白雲節」はものすごく人気があるんですよ。なぜかというと、いろいろな人の人生が重ね合わせられるから。遠くにいて会うことはできないけれど、ずっと想っている。あの雲を見ると、あなたが目に浮かぶ。といった感じの普遍的な内容なんですが、これまでずっと聴いてきたにもかかわらず、会いたい人に会えないコロナ禍でこの曲が驚くほどしっくりきたんですよね。なので、沖縄民謡を知らない人にも今こそこの名曲を知ってほしいと思ったんです。

――まさに、今に打ってつけですね。

宮沢:でも、原曲のままだと言葉の意味が通じなかったりして、沖縄に馴染みのない方にはちょっとわかりにくいんです。だから、曲の良さがちゃんと伝わるように、日本語の共通語に僕が訳して、リズムもあえてピアノを使ってバラード風にしてみました。三線は最後に少し登場させるくらいにしてね。そういえば、この前たまたま知ったんですけど、J-POPの歌詞でいちばん使われている言葉も“会いたい”らしいですよ。「白雲節」ってまさにそういう歌だし、会えない人に会いたいっていう想いが歌を生みやすいものなんだなと再認識しました。

――「旅立ちの時」を新録した理由は?

宮沢:もともとは1998年の長野パラリンピックのための楽曲で。ドリアン助川さんが作詞、久石譲さんが作曲・編曲してくださって、開会式では久石さんといっしょに披露して、そこで役目を終えたはずだったんですが、その後も学校で合唱曲として歌ってくれていたり、いろんな場所で愛されていった曲なんですね。当時は汗を流して夢を掴もうというパラリンピックのアスリートに向けたメッセージとして作った曲ですけど、スポーツの祭典もできない、僕らもコンサートができないこのコロナ禍において、愛され続けているこの曲をもう一度歌ったら、また別の意味をもって多くの人を奮い立たせられるんじゃないかと思って。久石さんにも“ぜひ歌ってください”と言っていただいたので、宮沢寄りのロック的なギターサウンドが際立つアレンジで新録させてもらいました。

――この曲も巡り合わせというか、今ならではのタイミングで。

宮沢:そうです。要するに、どの曲もすべてコロナ禍を踏まえたものになっている。最初に言ったとおり、今だからこその、この時代にしか生まれないアルバムなんですよ。

――コロナは今なお感染拡大が止まらず、宮沢さんも多くの公演が中止となってしまったりしていますよね(※取材は2021年1月下旬に実施)。

宮沢:この第3波と言われる急激な感染者の増加はイメージしてなかったですから。第1波・第2波のときにすべての仕事がキャンセルになって、その仕切り直しを2021年の年始に予定していたんですけど、これがまたダメになっちゃったのは正直キツいです……。先ほどもお話したように、やっぱり人間はゴールがあってこそ走れるものなので。2021年の春くらいかなっていう目測のもとで組み立ててきたものが崩れてしまって、ゴールを見失った感はありましたよね。だけど、こんな状況でもアルバムをリリースできる。スタッフのみなさんが協力してくれて、世に出せたことだけでも本当にありがたいことだから。今はこの『次世界』をどうやって1人でも多くの人に伝えるかを考えてます。キャンペーンで地方のラジオ局に行けないとなったら、自宅からZoomや電話を繋いだり、事前に録音したものを送ったりして、番組に出させていただくとか。移動しなくてもできることは意外とたくさんあるし、やれることはしっかりやろうと。

――最近の生活で意識されてることは何かありますか?

宮沢:変わらず、心と身体の在り方に気を遣うことです。どっちかがつまづくと、たぶん両方ダメになっちゃう。危ないと感じたときは心と身体のどっちかを健全にすると、もう片方がついてくるってこともあるので、僕はマメに身体を動かすようにしてます。家の中でもやるし、移動はできる範囲でたくさん歩きますし。そうすると自然とやる気が出てくるんです。今まで忙しくてやれなかったことを始めてみたり。何かを始めたら楽しくなってきて、バランスが整っていく。ひとつずつ良いほうへ向かうイメージかな。人間って、絶対に考え方なんですよ。そう信じて、日々過ごしていますね。それはこのアルバムで伝えたいことでもあるから。

■リリース情報
『次世界』
2021年1月20日(水)
Type-A(CD+DVD+Booklet付き/三方背BOX仕様):¥5,500
Type-B(CD):¥2,750
<CD収録内容>※Type-A、B共通
1.未来飛行士
作詞・作曲:宮沢和史、編曲:町田昌弘、米田直之
2.次世界
作詞・作曲:宮沢和史、編曲:町田昌弘、米田直之
3.歌い出せば始まる
作詞・作曲:宮沢和史 、編曲:高野寛
4.アストロノート
作詞・作曲:宮沢和史、編曲:町田昌弘、米田直之
5.最大新月 ~2020.08.15 Live ver.~
作詞:宮沢和史
6.白雲の如く(白雲節) 沖縄民謡
訳詞:宮沢和史 
7.旅立ちの時
作詞:ドリアン助川、作曲:久石譲、編曲:京田誠一

■ライブ情報
『宮沢和史 コンサート2021 【次世界】~NEW ALBUM「次世界」発売記念ライブ』
東京公演
2021年3月6日(土)開場 15:00 / 開演16:00
会場:EX THEATER ROPPONGI 
詳細はこちら

大阪公演
2021年3月8日(月)開場 17:30/開演18:30
会場:なんばHatch 
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<チケット料金>
¥7,000 全席指定・税込・ドリンク代別途必要・6歳未満の入場不可

<一般発売日>
2021年1月23日(土)10:00~ 各プレイガイドにて

宮沢和史公式HP

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