『The Covers’ Fes.2020』インタビュー第1弾
『The Covers』プロデューサーに聞く、番組誕生秘話と“カバーの意義” 「昔の曲から今の音楽までを繋げられることこそが大切」
NHK BSプレミアムにて放送中の音楽番組『The Covers』。パイロット版として初回放送されたのが2013年10月、レギュラー化したのは2014年春である。毎回豪華なミュージシャンがゲストとして登場し、それぞれ思い入れのある楽曲をカバーするという、一風変わった音楽番組。しかし、そこで飛び出す音楽話はかなり深いものばかりで、ミュージシャンとしてのルーツや幼い頃の思い出、名曲についての解説、今の活動に影響を与えた出来事など、多岐にわたるトークを貴重な生パフォーマンスとともに堪能することができる、実は“最も音楽番組らしい番組”こそが『The Covers』なのである。そして、宮本浩次のカバーアルバム『ROMANCE』がキャリア初のアルバムチャート首位に輝いたことが象徴するように、歌謡曲や昭和の名曲の魅力が、“現在の視点”を通して再解釈され、注目を浴びている。そんなシーンの動きを先読みするかのように放送されていたのが『The Covers』であり、この番組が日本の名曲の素晴らしさ、カバーすることの意義を様々なアーティストに発信していったと言っていいだろう。
今回リアルサウンドでは、12月27日の『The Covers’ Fes.2020』テレビ放送に向けて、2回にわたる『The Covers』インタビューを行う。第1回は、番組プロデューサーであり、『The Covers』の企画立ち上げから関わっていた川村史世氏を迎え、7年にわたる番組の軌跡、印象的だった出来事や音楽シーンに対する見解まで、たっぷりと話を伺った。ぜひインタビューを読んで、『The Covers’ Fes.2020』放送や、これからの『The Covers』を楽しみにしてほしい。(編集部)
「今のスターたちが心の中にある大切な名曲を歌ってくれたら」
ーーまず、川村さんは『The Covers』という番組にどのように関わっているのか、簡単に教えていただけますでしょうか。
川村史世(以下、川村):私が行っているのは、主に番組の全体像を作る総合演出と、制作統括というプロデューサー業務です。2013年にパイロット版の番組が始まってから7年が経っているんですけど、企画を立てた当時はディレクターでした。
ーー現在はアーティストのブッキングも担当されているんでしょうか。
川村:そうですね。ブッキングと、「ゲストの方にどういう歌を歌ってもらうか」という大きな企画コンセプトを考えます。「宮本浩次ナイト!」「松本 隆ナイト!」といった企画がまさにそれですね。番組スタッフ、ご本人や関係者の皆さんとお話して、どういうセットでどういう風にパフォーマンスいただくかを決めるんですけど、やっぱりカバーは選曲が肝じゃないですか。意識しているのは、いかにも企画っぽく歌わされるのではなくて、「自分の思い出の中にある曲」「今歌いたい曲」だということで。それをどういう風に見せて、どんな深みのある話をしてもらうかという内容も一緒に考えて構成を練り、収録に臨むという流れです。
ーー選曲提案はどのように行うのでしょう?
川村:「この曲を歌ってもらったらどうかな」と思いついたものから、ゲストの過去の発言に関連して提案することもありますし、逆にご本人から提案いただいて決まっていくパターンもあります。スタッフとも候補曲を出し合って、そこはとにかく一番時間をかける、大切にしている行程ですね。「〇〇さんにこの曲をカバーしてほしい」なんて、最初は夢みたいな話じゃないですか。海外だと、The Beatles、The Rolling Stones、ボブ・ディランなど、カッコいい誰もが知るアーティストたちが昔の曲をカバーしているので、きっと文化として根付いているんですよね。日本でもそういう番組があればいいなと思って、あまりカバーをやらなさそうな人に歌ってもらうべく、初回のパイロット版で斉藤和義さんと渋谷すばるさんにお越しいただきました。本当に思い入れのある曲を歌ってもらって、ゲストの素顔が見えたり、音楽を志すきっかけや初めて買ったレコード、母親がよく歌っていた曲とか、そういう思い出に紐づく話ができればいいなと。それが形になってきた7年間ですね。
ーー「夢みたいな話」を見事に具現化されてきた7年間だったと思いますが、川村さんがカバーに興味を持ったのは、そもそもどうしてなんでしょう?
川村:個人的なルーツの話ですけど、私が小さい頃にエジプトに住んでいた関係で、洋楽やエジプトの音楽の方が日常的に聴いていて、日本の歌謡曲は逆に洋楽を聴くような感覚で、新鮮なものとして聴いていた時代があったんです。エジプトでは、マドンナやマイケル・ジャクソンなど当時流行っていたアーティストのカセットテープを聴いていました。そんな中で日本で暮らす祖母から、録画した『ザ・ベストテン』とか『NHK紅白歌合戦』がVHSでたまにエジプトに送られてきて(笑)。それで久しぶりに日本の曲を聴いてみたら、めちゃめちゃよくて沁みたんですよね。松田聖子さんや少年隊など当時のスターたちの名曲がすごく響いて、それがずっと自分の心に残っていたというのは、きっかけとしてあるかもしれないです。番組の企画を考えるようになった時に、今のスターたちが、私と同じように心の中にある大切な名曲を歌ってくれたら素敵だなって。
ーー川村さんご自身の人生のルーツが、こうして大きな番組企画へ繋がっていったんですね。
川村:でも、決して私だけの想いでもなくて。番組を一緒に作り上げる制作スタッフや技術・美術スタッフ、あとはNHKでずっと音楽番組を作ってきた当時のプロデューサーとか上司たちは、『The Covers』に出てくるアーティストと同じくらいの世代の人が多いので、どっぷり歌謡曲に触れてきた世代なんですよね。造詣も深いし、愛もあるから、そういう番組をやりたいっていうみんなの想いが合致して生まれたんだと思います。
あと、アーティストの皆さんや関係者の方々が協力的なこともとても大きいです。音源でリリースするわけでもないのに、わざわざこの番組のためにカバーを練習してもらうって、課してることがとても重いと思うんです。だから最初は、レギュラー化して続けていけるとは本当に思っていなかったですね。アーティストの方も、カバーする曲に対する責任もあるし、自分の歌を歌う以上にすごく緊張されるじゃないですか。でも、アーティストご本人はもちろん、それを面白がってくれる事務所やレコード会社の方がいてくださって、賛同してくれているからこそ、ここまで実現できたのかなって思います。
番組コンセプトを支えるリリー・フランキーの存在
ーーそんな川村さんが「『The Covers』やっていけるな」と確信を持てたのはいつだったんでしょうか。
川村:それは、リリー(・フランキー)さんがいてくださることが大きいです。「こういう音楽番組をやりたい」という想いと同じくらい、リリーさんが司会の番組をやりたいと思っていたんですよ。自分の言葉を強く持っている方だし、相手の言葉を引き出す余裕もあり、それでいて面白くてエッジも立っているので「もうリリーさん最高!」と思っていて。必ずゲストの方が気持ちよくなって帰れるようなお話ができて、カバーしているご本人も気づかないようなことを言ってくださるので、リリーさんがいることでひとつ完成している部分はあると思います。パイロット版収録で斉藤和義さんと、そしてレギュラー放送初回に横山剣さん(クレイジーケンバンド)とリリーさんで喋ってもらった時に「これは素晴らしい!」と思いました。
ーーしかもリリーさんがMCをされることで、音楽談義の幅が広がりますよね。音楽についてしっかりトークする音楽番組って意外と少ないと思うんですけど、『The Covers』ではゲストのルーツになった音楽について深く話を聞けるから、素晴らしいなと思うんです。
川村:リリーさんご自身がイラストレーターであり、小説家であり、作家であり、俳優・音楽家でもあるから、やっぱりものづくりの人じゃないですか。常に一緒に作り上げてくれますし、その上で台本以上の情報量を持っていて、想像を超えるような話を引き出してくれるんですよね。一方で、「歌い継がれていく」ことをテーマにしているので、ゲストと新鮮な目線で話してくれる平成生まれの女性MCがいてくれるのもすごくいいことで。夏菜さん、仲里依紗さん、そして池田エライザさんといった歴代の女性MCとリリーさんの話が聞けるのも、面白いことだと思っています。下の世代との間を繋いでくれる人として、今は池田エライザさんがいます。
ーー池田エライザさんは、MCでありながら歌うっていうのも素晴らしいですよね。しかも選曲は誰よりも渋いんじゃないかっていう(笑)。
川村:激シブです(笑)。でも、若者がそういう曲を歌っているのって素敵ですよね。最近では宮本浩次さんが岩崎宏美さんの「ロマンス」をカバーして、「男性がこんなにロックに『ロマンス』を歌えるんだ!」という驚きもありました。それを見てちょっと歌ってみたくなるというか、高尚さではなくて、“ポップで身近なもの”としてカバーを感じてもらえたらいいなと思います。
井上陽水さんにもご出演いただきましたけど、2001年に『UNITED COVER』という、日本のカバーアルバムの先駆け的な作品を出されていた方なんですよね。そんな陽水さんがご出演くださったのも、同郷で仲良しのリリーさんあってのことなので。福山雅治さんが弾き語りのカバーで出演してくださったのも、リリーさんがいてくださったからなんです。
ーー福山雅治さんが「さらばシベリア鉄道」をカバーしたのは、個人的に『The Covers』の名シーンの1つで。カバーアルバム『魂リク』にも収録されていましたけど、普段はなかなか見れないギターの弾き方や、自身の声質に合わせてアレンジを変えた話など、ディープな福山さんの音楽談義がテレビで見れるのは貴重だなと思いましたよ。
川村:信太さん、よく見てますねえ(笑)。嬉しいです。
ーーちなみに『The Covers』というベストマッチな番組タイトルはどのように決まったんですか。
川村:スタッフでアイデアを出し合ったタイトルの中のひとつだったと思います。初めてリリーさんに「番組MCをお願いしたいです」とお会いしに行った時は、まだタイトル案がいくつかあって仮タイトルでした。その時にリリーさんが、「『The Covers』っていうタイトルいいですね」と言ってくれて。「英語だし、昭和歌謡とか日本の匂いがあまり乗っていない。このタイトルならどんな人でも出られるし、どんな曲でも幅広くカバーできる」って言われたことをすごく覚えているんです。
ーーリリーさんの後押し、心強いですね。
川村:あとはスタッフ間でも、最終的にシンプルなものがいいねという話もあって、『The Covers』になりました。RCサクセションの名盤に『COVERS』という作品もあって、リリーさんやこの番組に出る世代の方たちってRCをルーツに持っている方も多いし、これはいいねという話にもなりました。『The Covers' Fes.』を初めてNHKホールでやったのが2016年で、エレファントカシマシとBRAHMANにご出演いただきまして、その時にRCの『COVERS』に入っている「明日なき世界」をエレカシの宮本さんとBRAHMANのコラボでやっていただきました。すごく感動しましたし、1つ達成できたような感じはしましたね。