宮本浩次、カバーアルバム『ROMANCE』が自身初のオリコン1位に 類稀なる表現力で刻み込まれた“歌い手としての生き様”

宮本浩次『ROMANCE』に刻み込まれた生き様

 11月18日にリリースされた宮本浩次による初のカバーアルバム『ROMANCE』が、発売直後から好調なアクションを見せ、11月24日発表のオリコンCDアルバムチャートで見事ウィークリー1位を獲得した。素晴らしい。彼が1位を獲るのはエレファントカシマシを含めても初めてのことだ。ソロアルバム『宮本、独歩。』に続き、彼の歌が今いかに求められているかをこのカバー集が証明する形となったわけだが、それにしても、我々はどうして彼の歌にこんなに心を揺さぶられるのだろう。

宮本浩次-カバーアルバム「ROMANCE」全曲ダイジェスト

 ソロプロジェクトをスタートさせた時点から構想としては固まっていたというカバー集には、小坂明子「あなた」から宇多田ヒカル「First Love」まで、時代を超えた日本の名曲12曲が収録されている。原曲の乾いた切なさを儚げなファルセットで体現する久保田早紀「異邦人」(楽曲のエキゾチックで退廃的な世界観を宮本が見事に演じるミュージックビデオもすごい)に、溜まった感情を吐き出すように歌う中島みゆき「化粧」、プロデューサー・蔦谷好位置とタッグを組み、ループ感のあるトラックに乗せてエモーショナルな歌を響かせる松田聖子「赤いスイートピー」。同じく松田聖子「白いパラソル」では原曲のテイストを活かしたシティポップアレンジを軽やかに乗りこなし、かと思えばちょうど今の時期の街に流れ出すクリスマスソングである松任谷由実「恋人がサンタクロース」や、テレビでのパフォーマンスも話題となった岩崎宏美「ロマンス」ではロック魂を炸裂させ、歪んだギターの弾き語りを基調とした「First Love」では透き通るようなハイトーンを聴かせる。1曲1曲、聴きどころだらけのアルバムだが、すべてに共通しているのはオリジナルに対する全身全霊のリスペクトと、まるで着古して馴染んだ洋服に袖を通すようにして、様々な楽曲を着こなす宮本の姿だ。

宮本浩次-異邦人

  宮本自身が子どもの頃から親しんできた楽曲から、今回カバーアルバムを作るに当たって新たに出会った楽曲まで、その“歴史”の長さこそ違えど、ここで歌われているのは彼自身が強烈な愛着を抱いた曲ばかりだ。こういうカバーアルバムを作る場合、普通なら多少は客受けを意識した選曲の視点が入ってくるもの。そしてこの『ROMANCE』にも国民的な名曲がずらりと並んでいることに違いはないのだが、それはあくまで結果論にすぎない。宮本自身が歌う上でいかに感情を乗せられるか、その曲にどれだけ“近づける”か、それだけが選曲の基準だったのだろう。このアルバムを聴いているとそう実感する。蔦谷好位置や小林武史という気心知れたプロデューサーと組んだのも、新奇さよりもストレートさ、歌とがっぷり四つで取り組む姿勢を優先したからかもしれない。彼が類稀な表現力をもった“歌い手”であり、それ以前に歌をどこまでも愛する“聴き手”であることを、今作は改めて明らかにしているのである。

 その“聴き手”と“歌い手”としてのすごみを、もしかしたら本編以上に伝えるのが、初回限定盤のボーナスディスクに収録された弾き語りデモ音源である。新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言下で録りため、『ROMANCE』の出発点ともなった(宮本はこのボーナスディスクに収録されたものを含めて、10数曲のデモをもって小林武史のもとを訪れたという)この音源には、あまりにも無造作に、そして誠実に歌に向き合う宮本の姿が記録されている。ピックアップされているのは竹内まりや「September」、りりィ「私は泣いています」、赤い鳥「翼をください」など全6曲。右チャンネルから聴こえてくるギターと、その辺にあるマイクで録音したようなローファイなボーカルは、宮本が文字通り呼吸するように歌う“歌い手”であることをダイレクトに示している。

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