『The Covers’ Fes.2020』インタビュー第1弾
『The Covers』プロデューサーに聞く、番組誕生秘話と“カバーの意義” 「昔の曲から今の音楽までを繋げられることこそが大切」
「今の曲たちも時代を越えて歌い継がれていったら」
ーー『The Covers』が果たしてきたことで言うと、若者がフラットな気持ちで昭和の名曲に触れていたり、歌謡曲のよさが再評価されるようになった昨今において、レギュラー番組として続いてきた『The Covers』が担ってきた役割はすごく大きいんじゃないかと思うんです。
川村:ありがとうございます。役割を果たしているかはわからないですけど、今は時代の気分として、新しく尖ったものに向かうより、「ちょっと懐かしいけれど本気で作られているよきもの」に触れたい感じが何となく世の中にもある気がするし、今年は特にコロナ禍で番組を見てくれる人の数も増えたんですよね。小林武史さんがご出演された時もおっしゃっていましたけど、ちょっと懐かしいんだけど、実は本当に精巧に作られていて、本気で音楽に向かっている人たちの大切な想いが込められているものが、いま改めて響く時代なのかなっていう感じはしますよね。
ーー音楽の流行り廃りが、ここ5年くらいですごくインスタントなものになってきていて、国民的な楽曲が生まれにくい世の中ですけど、『The Covers』を見ると、やっぱり音楽って歌い継がれるものなんだということを感じられますし、若い世代にはそういう音楽の在り方が新鮮に映ることもあると思うんです。
川村:そうですよね。音楽が多様化している中で、テレビで音楽をやることの意味も問われます。みんなスマホの小さい画面で見るデジタルな時代の中で、『The Covers' Fes.』みたいに大きな編成のバンドがステージで転換したりするのって、デジタルと真逆の燃費の悪さじゃないですか。手間暇かかりすぎてますし(笑)。でも、そういうフィジカルで厚みのある、本当に人が生でやっているものって、逆にテレビだからこそやるべきことだと思うんです。アーティストの人たちが心の中にある曲を大切に練習してきて、プロのミュージシャンたちと一緒に生でガーっと鳴らすというやり方があってこそ、今の時代に響くのかなと思ったりしますね。みんな、それを大切にしていきたいという意識が合致している感じがします。
ーー『The Covers』が過去の昭和歌謡のアーカイブ番組と決定的に違うのは、そこですよね。アーティストがリスペクトする曲を生で披露するからこその緊張感がありますし、今のアーティストを通して過去の曲を知ることができるっていうのが、何より素晴らしいことで。
川村:そう言っていただけて嬉しいです。始めた当時は、カバーされる曲をリアルタイムで聴いてきた世代の方が主な視聴者層だったんですけど、だんだんやっていくうちに、流行っていた当時を知らないけどいい曲として親しんでくれる若い視聴者が増えてきたのは、この7年間の大きな出来事ですね。歌い継がれていくことでスタンダードになって、もともと歌われていた時代じゃない人にまで届いていくというのは、番組コンセプトとしてもありがたいことだなって思います。
しかも、番組の中ではカバーを2〜3曲やってから、ご自身のオリジナル曲も披露していただくんですけど、それがまたいいんです。『The Covers' Fes.2020』でも皆さん歌われましたけど、今のアーティストの新曲のよさも一層伝わってくるんですよね。「こういうカバーをする方が、今やりたい音楽はこれなんだ」というのがわかって面白いから、私は今の曲をますます聴くようになりましたし、カバーをテーマにした番組ではありますが、昔の曲だけをありがたがるのではなく、今の音楽まで繋げられることこそが大切だと思うんです。
ーー過去にしか参照点がないとなかなか新しいものは生まれないですけど、『The Covers』は今を起点にして、過去と未来を繋ぐようなコンセプトで考えられているから、これからも続いていく意義がある番組ですよね。
川村:ありがとうございます。『The Covers' Fes.2020』は宮本浩次さんの「喝采」(ちあきなおみ)から始まりますけど、宮本さんのソロデビュー曲「冬の花」には、ちあきなおみさん的な匂いというか、昭和歌謡のエッセンスが強く感じられて。そうやって時代を越えてどんどん音楽が循環していくことになったらいいなって思うんです。あとはカバーって、下の世代が上の世代の方の曲をカバーすることが多いじゃないですか。ルーツを辿る発想だとそうなるのですが、逆に後輩の曲を先輩がカバーするっていうのもグッと来るんですよね。覚えているのは、鈴木雅之さんが斉藤和義さんの「歌うたいのバラッド」をカバーした時で。バラードの王様であるマーティンさんが、後輩である斉藤和義さんのロッカバラードの名曲をカバーするのって、また新たなベクトルが生まれて面白いなという感じはありますよね。
ーーそれこそ井上陽水さんが宇多田ヒカルさんの「SAKURAドロップス」をカバーした時も、陽水さん流の解釈でまた違った曲になっていたんで、さすがだなと思いました。
川村:まさにそうですね。そうやって自由度高くやっていけるといいなと思います。今の曲たちも時代を越えて歌い継がれていったらいいなって。『The Covers』も、もともと昭和の名曲をカバーすることがコンセプトでしたが、時代は今や令和ですから。平成も30年以上あったなかでたくさんの名曲が生まれているので、これからはカバーされる曲の間口を広げてアップデートしていくことも大切だと思うんです。カバーを通して曲の作りを学ぶことができるので、「やっぱり昔の歌すごいですね」となるけれど、今作られている曲だって素晴らしいですし、そういうことを毎回体感することができたらとてもいいなって。『The Covers』もカバーを起点に、新たな扉を開き続けていきたいと思っていますし、そんな想いを凝縮しているのが今年の『The Covers' Fes.』です。ライブ感を大切に、すべての出演者と関係者の皆さん、スタッフ、そしてお客様が一丸となって作りました。カバー曲からオリジナルまで名曲が詰まっているので、理屈抜きに、ストレートにどっぷり楽しんでもらいたいです。
※写真はすべて『The Covers’ Fes.2020』の模様。
■放送予定
『The Covers’ Fes.2020』
NHK-BS プレミアム/BS4K
12月27日(日)22:30~24:00
【MC】リリー・フランキー、池田エライザ
【出演アーティスト】
鬼束ちひろ、GLIM SPANKY、秦 基博、氷川きよし、宮本浩次(五十音順)
【LEGEND Guest】寺尾 聰
■パフォーマンス曲
鬼束ちひろ
「飾りじゃないのよ 涙は」(中森明菜/1984年)詞・曲:井上陽水
「焼ける川」(鬼束ちひろ/2020)詞・曲:鬼束ちひろ
GLIM SPANKY
「まちぶせ」(石川ひとみ/1981)詞・曲:荒井由実
「東京は燃えてる」(GLIM SPANKY/2020)詞:松尾レミ 曲:GLIM SPANKY
秦 基博
「春よ、来い」(松任谷由実/1994)詞・曲:松任谷由実
「泣き笑いのエピソード」(秦 基博/2020)詞・曲:秦 基博
氷川きよし
「GET ALONG TOGETHER -愛を贈りたいから-」(山根康広/1993)詞・曲:山根康広
「雪の華」(中島美嘉/2003)詞:Satomi 曲:松本良喜
「白い衝動」(氷川きよし/2020)詞・曲:岩崎貴文
宮本浩次
「喝采」(ちあきなおみ/1972)詞:吉田 旺 曲:中村泰士
「異邦人」(久保田早紀/1979)詞・曲:久保田早紀
「ハレルヤ」(宮本浩次/2020)詞・曲:宮本浩次
【LEGEND Guest】寺尾 聰
「HABANA EXPRESS」(寺尾 聰/1981)詞:有川正沙子 曲:寺尾 聰
「出航 SASURAI」(寺尾 聰/1980)詞:有川正沙子 曲:寺尾 聰
「ルビーの指環」(寺尾 聰/1981)詞:松本 隆 曲:寺尾 聰
MC:池田エライザ
「ゴッドファーザー~愛のテーマ」(1972)
詞:L.Kusik 曲:N.Rota 訳詞:千家和也
■番組情報
『The Covers』
NHK BS プレミアム
MC:リリー・フランキー、池田エライザ
放送:日曜22時50分~23時20分