鬼頭明里、降幡 愛、楠木ともり……メディア評価の変化&魅力的な新星が生まれた、2020年女性声優シーンを振り返る
世界中が新型コロナウイルス感染症による影響を大きく受けた2020年。声優らも自身のライブや出演予定であったイベントの延期・中止に加え、アニメなどの制作においては人数の限られたアフレコによって先輩の“技術を盗む”機会や直接掛け合う機会が失われるといった、ユーザーの目に見えない、しかし業界にとっては非常に大きな損失を被らざるを得なかった1年だったように思う。だが一方で、未来へとつながる期待の存在も次々と登場していた。本稿では2020年の女性声優シーンを、環境の変化も含めて振り返ってみたい。
“声優”を取り巻く環境が変わった2020年
2020年は、メディアが声優というものを取り上げる機会が非常に増えた1年だったように思う。まず1年の幕開けを飾ったのが、正月に放送された声優アーティストやアニソンシンガーが集結した番組『オダイバ!!超次元音楽祭』(フジテレビ)。いたずらに“お客様”扱いせず、各々をいちアーティストとして取り扱っていたことは、長年の声優ファンには嬉しい出来事だったはずだ。加えて、この春のテレビ番組の視聴率測定リニューアルに伴う若年層へ向けられた意識や、『鬼滅の刃』の大ブームなどの様々な要因が、この1年の変化を生んだのではないだろうか。
その『鬼滅の刃』で竈門禰豆子を演じる鬼頭明里は、2020年の女性声優シーンを語るにあたって外せない存在だろう。実は彼女、声優アーティストとしても今年大きな役割を果たしている。それは今秋成功させた、有観客での1stライブツアーの開催だ。観客数を絞るなど感染予防によるガイドラインを遵守しながら、生配信も併用するというファンへのフォローも行なった上で、東名阪での計3公演を無事完走。当然彼女の一存ではなくチームとしての決断ではあっただろうが、夏の大型フェスも次々と中止になっていた中での開催と成功は、様々な立場の人に勇気を与えたはずだ。もちろん、声優としても引き続き幅広い役柄を好演。今はどうしても世間が“鬼滅声優”の枠にはめてくるだろうが、今年だけでも正統派ヒロインからおっとりした少女、ちょっとドジでキュートなキャラクターなど、数々の作品でメインキャストを務め上げている点も忘れてはならない。さらなる研鑽を経て、2020年代を引っ張る声優のひとりになることを期待したい。
明確な個性を持って登場する魅力的なニューカマーたち
また、2020年も数多く誕生したのが、アーティストとしてソロデビューを果たした女性声優たちである。今年は特に自身のネガティブな部分を前面に出して“ニノミヤユイ”名義でデビューした二ノ宮ゆいや、主にラブソングに軸足を置いた和氣あず未など、活動開始時から明確に方向性を打ち出すケースが増加しているように感じられた。そんな中でとりわけ個性際立っていたのが、9月にミニアルバム『Moonrise』でデビューを果たした降幡 愛だ。彼女は本間昭光をプロデューサーに迎え、自身の好む80’sシティポップを発信。リード曲「CITY」では自身が歌詞も手掛け、Aqoursとは全く異なる、大人びた歌声でラブソングを表現。同曲のMVでは、ビデオテープのようにノイズの混じった、画面比率4:3のアニメパートを含むなど細部にまでレトロ感を織り交ぜている。発売されたばかりの2ndミニアルバム『メイクアップ』でも踏襲したその世界観を、今後どう追究していくのか目が離せない。
加えて、今年EP『ハミダシモノ』でメジャーデビューを果たした楠木ともりも、今年忘れずに押さえておきたい声優アーティストのひとり。表題曲では作詞も担当し、EDを飾ったアニメ『魔王学院の不適合者 〜史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う〜』(TOKYO MXほか)にも寄り添いながら、自身を“ハミダシモノ”と感じている人への力強いメッセージをその歌声とともに届けた。また、表題曲以外の収録曲は、2018年から続けてきたインディーズでのCD制作やワンマンライブなどの活動から生み出されたもので、楠木が全曲作曲にも携わったものばかり。メジャーデビューを経て、そのソングライティングがどう磨かれるのかにも注目だ。
すでに高野麻里佳(2月)や大西亜玖璃(3月)らが、2021年のアーティストデビューを発表済み。彼女たちが音楽とともにどのような表現を行なうのか、またライブ開催の際にはどんな世界を作り上げてくれるのか楽しみである。