『HiKiKoMoRi』インタビュー
「現状維持のままでいると、終わってしまう」 藤川千愛が語る、歌手として常に“変化”を求め続ける理由
藤川千愛がアニメ『無能なナナ』のEDテーマ「バケモノと呼ばれて」、ドラマ『科捜研の女 season20』季節外れのの主題歌「ありのままで」などを収録した通算3枚目のアルバム『HiKiKoMoRi』をリリースした。前作『愛はヘッドフォンから』からはわずか7カ月しか経っていない。また、彼女がソロデビューを果たしたのが2018年11月だから、2年間でなんと3枚ものアルバムを制作したことになる。しかも、彼女はこの3枚でボーカリストとして驚くほどの変化と進化を遂げている。
本作を聴いてもらえればわかるのだが、ウィスパーボイスや語りなどの技巧的な部分だけではなく、歌声の響きそのものが前作とは違っているのだ。どうして彼女はこれほど短いスパンで多くの楽曲をリリースしてきたのか。そして、どうしてこれほど鮮やかな成長曲線を描けるのか。彼女が音楽に没頭する理由と変化や成長に焦点をあてて聞いた。(永堀アツオ)【最終ページにサイン入りチェキプレゼント有り】
ご飯よりも大切なくらい、音楽がないと生きていけない
ーー前作からわずか7カ月、デビュー2周年で早くも3枚目のフルアルバムとなります。とてもハイペースで制作されてますね。
藤川千愛(以下、藤川):特に理由や意図があるわけではなくて。私にとって、歌を唄ったり、曲を作ったりすることは、ご飯を食べたり、寝たり、息をしたりするのと同じで、すごく自然なことなんですね。コロナ禍の自粛期間で暇だったのでいっぱい曲が出来ちゃったっていうだけですね。
ーー少し振り返ると、2ndアルバム『愛はヘッドフォンから』のリリースが4月8日でしたね。
藤川:そうですね。すごくいいものができたなって思ってたんですけど、発売日の前日に緊急事態宣言が出てしまって。インストアライブも中止になってしまったし、ツアーも全部延期になってしまって、すごく悔しくて。だから、自粛期間は最初、音楽を聞きたくないなっていう時期も正直あって。
ーーステイホーム期間中はどう過ごしてました?
藤川:その時期は趣味を増やしてました。私は今まで、趣味があんまりなくて。インタビューで「趣味はなんですか?」って聞かれても、「歌うことですかね」って面白くない答えしかできなくて(笑)。だから、趣味を増やそうと思って、花染めを始めて。真っ白い生のお花を自分の好きな色に染めるっていう実験にハマったり、運動もできないのにスケボーをやり始めたりしてました(笑)。その時は、テレビから流れてくる音楽を聴くだけで悔しい気持ちになってたんですよね。唄えないし、ボイトレにも行けないし、音楽を遠ざける時期もあったんですけど、そうしてると、段々と生きてる感じがしないというか、無気力になってしまって……。
ーーどうやって乗り越えました?
藤川:やっぱり、唄うしかなかったですね。自粛期間が空けて、ボイトレに行って歌を唄ったら、心と体に栄養が行き渡る感じがあって。やっぱり自分は歌を唄いたいんだな、唄わないとダメなんだなと思って。世間ではライブハウスでクラスターが起きて、音楽は生活必需品じゃないみたいな感じになりましたけど、私にとっては絶対に必要なものだし、なんならご飯よりも大切なくらい、音楽がないと生きていけないんですね。もしかしたら、そんな自分の歌を必要としてくれている人がいるかもしれないし、そういう人のために音楽を作ることをやめたくないっていう気持ちになりました。こういう時こそ届く歌もあるんじゃないかな、こういう時だからこそ生まれてくる曲もあるんだろうなと思って、アルバムを作り始めて。
ーー何かコンセプトやテーマを設けていましたか。
藤川:テーマは特に決めてはいなかったですね。ただ唄いたい曲、ただ伝えたい曲を作っていった感じです。アルバムのタイトルも申し訳ないんですけど、深い意味はなくて(笑)。引きこもることで生まれた曲たちなので、単純に『HiKiKoMoRi』って付けて。ローマ字とか大文字小文字にも意味があるわけじゃなくて、視覚的な感覚ですね。でも、スタッフさんと「前作よりもポジティブな気持ちを唄ってる曲が増えたね」って話していて。今回のアルバムを通して、やっぱり人は絶望を感じると、ポジティブを求めるのかなって思ったし、“引きこもり”だけじゃなく、“悲喜こもごも”っていうニュアンスもあっていいなって思いました。