藤川千愛というすごいボーカリストとの出会いーー変幻自在の歌声に魅せられた『新宿の夜』を振り返る

藤川千愛『新宿の夜』ライブレポート

 2018年11月に活動を開始して以降、リリースとライブを精力的に続けるシンガーソングライター の藤川千愛。2020年1月19日、今年初となるワンマンライブ『新宿の夜』を新宿BLAZEにて開催した。

 時間になり、紗幕がかかったままのステージに藤川が姿を見せると、「ライカ」からスタート。紗幕に歌詞とバラやユリといった花々を映し出しながら披露された。1stフルアルバム『ライカ』の1曲目で、リードトラックでもある同曲は、憂いを帯びほの暗い雰囲気。彼女の切なくも強い歌声がよく映えていて、すぐさま会場にいる全員を釘付けにしていた。そんな空気の変化で、彼女の力量がよくわかる。ソロデビュー直後に行われたライブでは緊張が滲んでいたが、今ではその欠片も見られなくなっていた。

 そして、少しの沈黙の後に「引き寄せられて夢を見る」へ。こちらも紗幕に歌詞を映し、純粋に音楽を届けていた。ちなみに同曲は、昨年11月から行っている4カ月連続リリースの第1弾。「ライカ」とともに、先陣を切るにふさわしい楽曲でライブのオープニングを飾った。紗幕が落ちた直後のMCでは、「早いもので1月も下旬になってしまいますが、明けましておめでとうございます」という、ちょっとかしこまった挨拶をして照れた様子。この日はじめて笑顔を観客に向け、場内をほっこりさせると「みんな、盛り上がれる!?」を3回繰り返し気合い注入。「ゴミの日」など、アップテンポなナンバーを3曲連発した。

 藤川からタイトルがコールされたり、イントロがかかったりするたびに観客からは待ってましたとばかりの歓声がわき、クラップやジャンプにも力がこもった。とくに、レスポールをかき鳴らし披露された「葛藤」では、ヘビーな曲調に合わせて歌声にも重さが加わり観客を圧倒。サビを締めくくる〈なにもないんだろ?〉には、希望や期待を失ったことへのやるせなさが滲んで、一層強い歌声となっていた。ともあれ、その後のMCでは「ライブをいっぱい観て刺激受けたい! 出不精だから今はもっぱらDVDだけどこれからは生で観ます」と宣言する場面が。さっきまでまくしたてるように歌っていたとは思えない、可愛らしい言葉で癒やした。

 ライブ後半は、「私にもそんな兄貴が」から幕開け。音楽好きの兄がいたら……という淡い憧れを歌い、続く「あさぎ」で音楽に対する覚悟を歌い、「夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして」で夢を形にできない自分を憂いた。そこで気づいたのが、この3曲は藤川千愛自身のストーリーだということだ。一度は地元・岡山の工場で働くも、子どもの頃から抱いていた音楽への道に進もうと一大決心をして東京へやってきた彼女。その裏にはこんなにも複雑な感情が渦巻いていたのだ。ますます気持ちがこもった彼女の歌声は、全身にビシビシと刺さり気づけば身動きがとれないほどになっていた。

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