三浦大知、新シングル『Antelope』から溢れ出る音楽愛に触れて 閉塞感漂う現代に放つ、強い意義を秘めた3曲
春の日差しを思わせる穏やかなムードのシングル『I’m Here』から幕を開けた三浦大知の2020年。4月になると新型コロナウイルスの影響によって“ステイホーム”が各所で叫ばれるようになり、音楽活動の縮小を余儀なくされるアーティストが相次いだが、三浦大知はというと、YouTubeやInstagramを活用して自宅から歌を届けたり、10月には初となる単独オンラインライブ『DAICHI MIURA ONLINE LIVE The Choice is_____』を開催するなど、時代性も考慮した彼なりの手法で以前と変わらぬ存在感を見せた。3つの楽曲を収めた最新シングル『Antelope』は、そんな激動の日々を泳ぎながらも、彼がいかに勇敢な姿勢を崩さず音楽に挑んできたかを我々に指し示す新たな試金石として、この上なく強い意義を秘めた力作となっている。
先日公開されたリアルサウンドのインタビュー記事で自ら「チャレンジング」と語ったのが、清廉たる趣の表題バラード「Antelope」。歌い出しから1コーラスの終わりにかけて丸ごとアカペラのみで編成されているのが大きな特徴で、何人もの三浦大知が奏でる美しい歌声の調和を贅沢にも味わうことができる。ピアノが併走を始める2コーラス目以降も、繊細なハモリがメインボーカルを手厚く支える構図は変わらず、とにかく歌の本質的な魅力を届けたいという三浦大知の並々ならぬこだわり、さらには既存のバラードのイメージにとらわれない向上的な姿勢までもがおのずと伝わってくる。ライブの演出などで培ったアカペラに対する手応えも、同曲の潔い編成に少なからずの影響を与えたことだろう。
また「Antelope」は、聴く人を選ばないスタンダードな愛の歌として絶大な魅力を放つ。閉塞的な時代情勢やSNSを飛び交う誹謗中傷といった昨今のもどかしい世相を〈目を開けている事も/耳を澄ます事も/鬱陶しくて/飲み込まれそうな/今だからこそ〉と臆さず表現した上で、そんな逆境と言える世界でも温かい何かを信じ、一途に思い続けることの素晴らしさを、一点の曇りなく伝えていく。ただでさえ麗しい時間が流れる曲調に、彼の誠実な人柄に裏打ちされた、てらいのないメッセージが重なるという妙。それは例えるならば、タイトルの着想を得るきっかけになったアンテロープキャニオンでもまま見られる、暗闇に差し込む一縷の光そのものであり、安寧を求めるすべての人に寄り添う神秘的な力を纏っているとすら素直に感じられる。