三浦大知が語る、ニューシングル『Antelope』誕生の背景 今この時代を生きる全ての人に届けたい愛

三浦大知が語る『Antelope』誕生の背景

 10月10日に自身初のオンラインライブ『DAICHI MIURA ONLINE LIVE The Choice is _____』を開催し、時空を超える映像美と渾身のパフォーマンスで視聴者に感動を与えた三浦大知。そのライブの生配信セクションで初披露された新曲「Antelope」を含む3曲入りのニューシングルが完成した。美しいアカペラで魅了するタイトル曲に彼はどんな思いを込めたのか。6月に先行配信されていた「Yours」を作ったきっかけ、さらに「Not Today」の制作現場の様子など、各曲が生まれた背景を大いに語ってもらった(猪又孝)。

今の時代、「いいから愛の歌を歌わせて!」って

――新曲「Antelope」は、いつ頃、どのように制作が始まったんですか?

三浦大知(以下、三浦):ここ最近、UTAさんと一緒に曲を作らせていただいてる中で、前々からずっと「またバラードを作りたいですよね」と言っていたんです。とは言いつつも、ドラマ(『病室で念仏を唱えないでください』)主題歌の話をいただき「I'm Here」が生まれたり、決意が見える強い曲をやりたいということで「Yours」が生まれたりしていて。何か「これをやろう」と思っていても、全く違うものが生まれてくるのは、クリエイティブな現場では当たり前にあることなんですけど、ずっと根底に「UTAさんと一緒にめちゃくちゃいいバラードを作りたい」という思いがあったんです。

――2人渾身の一発を作ろうと。

三浦:そう。その思いがようやく形になったという感じですね。

――確かに「Antelope」は素晴らしいバラードですが、1番のパートが丸々アカペラになっています。このアイデアはどこから生まれたんですか?

三浦:バラードを作りたいということとは別に、「声だけでやるのも面白そうだね」っていうアイデアがずっとあったんです。で、UTAさんといろいろ作っているときに、「それを今回やってもいいんじゃないですか?」という話になった気がします。

――まずトラックを作って、アカペラ部分は伴奏の音を省くという作り方をしたんですか?

三浦:そうじゃないんです。確か最初はガイドのピアノの上で歌っていた気がする。そのときに「コーラスをめちゃくちゃ積むのをやりたいですね」っていう話をして。で、コーラスをたくさん積んでいく中で、「声だけでやりたい」という話を以前していたし、「声だけでもすごくいいじゃん」って。「じゃあ1番は声だけでやって、2番からピアノが入ってくるのがエモーショナルだね」という話になりました。

——これまでアカペラのパフォーマンスはライブで何度も披露していますが、楽曲でここまでアカペラをフィーチャーするのは初めてですよね。

三浦:そうです。だから、意外とチャレンジング。毎回そうですけど(笑)。

――というか、J-POPのシングルとしても、ここまでのアカペラを打ち出した曲はあまり類を見ない。

三浦:なかなかないですよね。ハーモナイザーが流行った時期があって、それぐらいの時からずっと声だけでやるのも面白いよねと話していて。でも、今回はそういうエフェクティブなものじゃなくて、リアルにコーラスでやろうと。

――何人の三浦大知がここにいるんですか?

三浦:何人いるかわからないです(笑)。めちゃくちゃいる。ひたすら重ねる作業だったからレコーディングは結構時間がかかりました。オーケストラの弦を重ねていくような感じで、ひたすら(声を)重ねていって。コーラス作りはUTAさん主導でしたけど、「こういうラインがあったらどうか?」とか「ここに高音の成分が欲しいので、こういうのはどうですか?」とか、お互いにキャッチボールしながら作っていきました。

三浦大知
(Photo by 池村隆司)

――「Antelope」の歌詞は、アリゾナ州にあるアンテロープキャニオンから着想を得て書いたそうですね。

三浦:僕のツアーに来てくれている人だったら「(アンテロープキャニオンを用いたデザインが)グッズになっていたな」って思うかもしれない。『DAICHI MIURA BEST HIT TOUR』(以下、『BEST HIT』)の日本武道館と大阪城ホールの限定グッズで使った『BEST HIT』の影のところに、アンテロープキャニオンをイメージしたロゴを作りました。

——ありましたね。

三浦:『BEST HIT』の時は、自分の積み重ねというか、歴史みたいな、そういうところがテーマにあるなと思って。もともとアンテロープキャニオンが好きだったので、地層をデザインにしたいというアイデアから入れたんです。

――そのアンテロープキャニオンが今回の歌詞にどのように結びついていくんですか?

三浦:タイトルは後につけたんですが、この曲も「Yours」と内容は違いますけど、今の時代だから生まれた曲だと思っていて。今どうしてもヘイトが目立つというか。嫌なこととか、しんどいニュースとか、そういうのが目に付きやすいじゃないですか。誹謗中傷的なこともそうですけど、それを見たり聞いたり読んだりして、心を痛めたり、悲しいなって思ったり、私はこの人好きだけどなぁって思っている人はたくさんいると思うんです。でもやっぱり、(表に)出てくるものは、そういうヘイトな方向のものがとても多くて。

――誹謗中傷の方が目につきますからね。

三浦:そう。そういう言葉はとても強かったりするから、そうやって刺さるもののほうに注目がいっちゃうけど、その裏に、それを見て苦しかったり、共に悲しんだり、愛を届けたいのにと思っている人たちがいっぱいいるよな、と思っていて。そういう愛があるんだ、ということを曲の中に入れられたらいいな、と思ったのが始まりなんです。表には出ないけど、裏にはたくさんの愛があると信じているから。

——なるほど。そういう愛の歌なんですね。

三浦:そう考えたときに、向かい風に立ち向かったり、いろんな時代の流れに打たれていくのは自分の身を削っていくことだと。でも、そこで削れたものは愛で、その愛がいろんな人のところに流れ着けばいいのにと思ったんです。その姿は削れていくけど、とても美しいな、と思って。そこでアンテロープキャニオンじゃん! と思ったんですよ(笑)。アンテロープキャニオンも風や水によって削られてあの形になっている。だけど、あそこに行ってみんな削れた姿にとても感動するわけじゃないですか。自分もそういう気持ちで歌いたいと今回思ったんです。自分の身を削ったとしても、削れたその愛みたいなものがいろんな人に届く。小さくて、細かくて、みんなの目には見えないかもしれないけど、そういう愛みたいなものがこの世界にはあるんだということが、聞いた人に伝わるといいなと。今の時代、「いいから愛の歌を歌わせて!」って(笑)。

――話し方に熱がこもってます。

三浦:でも、それが一番の気持ちです。どうしても今は、しんどいことも多いから、もっと現実的なことを話したがるし、それはそれでいいと思う。それは間違っていない。けど、愛の話もしたっていいじゃんと。本当に好きだと思っていることを好きって言えばいいし、愛していると思ったらそれを愛せばいいと思うし、って。

――ということは、歌っているときは大知くんが風を受けているイメージ?

三浦:そうです。でも、みんなそうだと思う。みんな時代のいろんなものに傷ついていると思うし。SNS上とか関係ないじゃないですか。今までだったら有名税みたいに言われて、表舞台に出ている人だから何を言われてもしょうがない、とかありましたけど、もはや今は表に出ていない人もいる。何かひと言、それを言っただけで揚げ足を取られたりとか、すごく多いじゃないですか。

――一般人もSNSにさらされて炎上したりしますから。

三浦:そう。でも、そういう生きづらさとか苦しさみたいなものは絶対あって。だけど、人が持っている愛のようなものは、絶対届いてて欲しいなって思うんです。

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