2020.11.20 12:00

三浦大知、新シングル『Antelope』から溢れ出る音楽愛に触れて　閉塞感漂う現代に放つ、強い意義を秘めた3曲

文＝白原ケンイチ

　さて、「Antelope」のサウンドプロデュースを手掛けているのは、とりわけここ数年、三浦大知とのユニークなタッグが続いているUTAである。「Antelope」も言わずもがな、両者の相性の良さを物語る名バラードとなったわけだが、今回のシングルに収録されているあとの2曲でも、彼らのシナジーが目覚ましい効果を上げているので特筆しておきたい。

　まず、2曲目の「Yours」。今年の6月に先行してデジタル解禁され、三浦大知史上もっともトリッキーに振り切れたナンバーとして好評を博した。その決定打はやはり、UTAが用意した独創的なトラックだろう。おどろおどろしい雰囲気も演出しながら加速していくソリッドな音像は、ドロップへと向けて未体験の爽快感を運ぶ。BTSなど海外勢との仕事も増加しているUTAらしい、ワールドワイドなセンスに溢れた衝撃の一曲である。一方の三浦大知も、自分の人生は己でリードしていくのだという強い意志をリリックと歌唱でダイナミックに表現したほか、YouTubeで公開されているコレオビデオでは楽曲の世界観そのままに大胆不敵なダンスを披露するに至っている。

三浦大知 (Daichi Miura) / Yours -Choreo Video-

　NHKアニメワールド『アニ×パラ』車いすバスケットボール編のテーマソングに起用された「Not Today」は、SUNNY BOYも加えた三位一体スタイルで制作。曲名からは「Perfect Day Off」（シングル『Be Myself』収録曲）のようなのどかなテイストを勝手にイメージしていたものの、蓋を開けてみれば申し分のない緩急を有した符割りとエネルギッシュなサウンドが渦巻くアッパーチューンで、思わず仰け反ってしまった次第（ともあれ、嬉しい誤算である）。題材となった車いすバスケットボールは筆者も体験したことがあるが、想像を絶するレベルの激しい競技である。それを意識した上で聴くと、車いす同士がぶつかり合う臨場感、駆け引きにおけるスリルを生々しく立ち上らせた3人がいかに辣腕なのか、あらためて実感できるはずだ。

　閉塞感が漂い始めて久しい現代。三浦大知のように、一級品のエンターテインメントを通じて我々に活気をもたらしてくれる存在はとてつもなく尊い。今回のシングル『Antelope』が彼の身体的スキルのみならず、より幸福ある社会を願わんとするひた向きな精神まで色濃く投影した作品であるからなおのことだ。来る2021年のアップデート＝躍進への期待も込めて、今は本作からとめどなく溢れる音楽愛を存分に味わい、日々の糧にしていこうと思う。

■白原ケンイチ
日本のR&B作品をはじめ、新旧問わず良質な歌ものが大好物の音楽ライター。当該ジャンルを取り上げるサイトの運営、コンピレーションCDのプロデュース、イベント主催の経験などを経て、現在はささやかに音楽ライフを満喫する日々。Twitter