U2が鳴らした新世紀のはじまりーー20年越しに紐解く、傑作『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』の真実

U2が鳴らした新世紀のはじまりーー20年越しに紐解く、傑作『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』の真実

 シンプルで、メロディアスで、落ち着いていて、美しく、新鮮で、親密で、そして力強い。U2の通算10枚目のアルバム『オール・ザット・ユー・キャント・リーヴ・ビハインド』は、そんなアルバムだ。

 2020年10月30日は、同作の発売20年目にあたる。それを記念して同日にリリースされる20周年記念盤は、新たにリマスターされるオリジナルアルバムに加え、シングルB面曲やアウトテイク(初CD化3曲)、2001年6月のボストンでのライブ(『エレヴェイション2001: U2ライヴ・フロム・ボストン』としてDVD化されたものを初音源化)、同作のリミックス集(未発表バージョン4曲)の計5枚のCDをコンパイルしたボックスセットである(オリジナルアルバムとライブの抜粋版の2CDデラックス盤も同時発売)。

 『アクトン・ベイビー』(1991年)、『ZOOROPA』(1993年)、『ポップ』(1997年)と続いた90年代U2のエクスペリメンタルかつ冒険主義的でエレクトロニックなサウンドは、いわばロックンロールバンドの旧来的なフォーマットを脱構築する試みだった。それは、1997年から1998年ごろをピークにひたすら市場規模を広げてきた音楽産業を背景に、より巨大なコミュニケーションを求め、活動のスケールを拡大してきた彼らの歩みと軌を一にしていた。だがロック史上空前の規模となった『ポップマート・ツアー』の終了とともに、そんな時代は終わりを告げようとしていた。

 初のベストアルバム『ザ・ベスト・オブ U2 1980-1990』のリリースや、ボノ原案/ヴィム・ヴェンダース監督の『ミリオンダラー・ホテル』のサウンドトラック制作、さらにボノの「ジュビリー2000」(最貧国の債務帳消しを推進する団体)代表としての活動などをはさみながら、1998年ごろから『オール・ザット〜』の制作は開始され、2000年半ばまで続いた。

U2 – Elevation (Live From The FleetCenter, Boston, MA, USA / 2001)

 アダム・クレイトンは新作の制作期間中に「自分たちは『ポップ』で身分不相応な実験をしたという思いがあった。一つのバンドとしてどうあるべきか? U2をU2たらしめているのは何か? 4人が一つの部屋で一緒にものを作ることが、U2をU2たらしめている。ぼくらはしばらく、そういうことをやっていない。もう一度そっちに目を向けるべきじゃないかと思うんだ」と語っている。また、ジ・エッジもこの発言を裏付けるように「とにかく一つのバンドのアルバムだ。みんなで演奏して、すごくシンプルで、たぶん初期の何枚かのアルバムに戻ったような感じかな」と語っている。

 つまりU2にとって、『オール・ザット〜』とは、「バンドとは何か」「U2とは何か」という自らへの問いかけだった。『ZOOROPA』や『ポップ』で、“ロックバンドとしてのU2”を解体してみせたU2が、もう一度バンドとして再生するために何が必要で、何が必要でないのか、再び検証する作業だったのである。その結果が『オール・ザット〜』のシンプルでメロディアスなバンドサウンドだった。それは一言で言えば「原点回帰」という言葉に集約されるかもしれないし、上記のジ・エッジの発言にも、それを認めるような言葉がある。だが、90年代を通じて果敢な実験と脱構築の作業を繰り返し、ロックの現在形を更新し続けてきたU2が、そんな安直なタームに回収されるはずがない。『WAR(闘)』(1983年)から17年、『ヨシュア・トゥリー』(1987年)から13年という歳月を経て、経験を積みスキルを研ぎ澄まし、さまざまなノウハウを得たU2はすっかり大人の表現者へと成長していた。

 90年代に培ってきた様々な脱ロック的手法の数々は、『オール・ザット〜』にもしっかりと活かされている。たとえば、一聴してオーソドックスなU2節に聞こえるシングル曲「ビューティフル・デイ」にしても、単にクラシックなU2サウンドを再現したのではなく、ドラムマシーンやシーケンサーなどのエレクトロニックデバイスを使って、80年代の自分たちとは比べものにならない、複雑で手の込んだアレンジとなっている。プロデュースを担当したブライアン・イーノやダニエル・ラノワの貢献も大きかった。それがU2らしいエモーショナルで大らかなメロディやフックのある構成と融合することで、21世紀に向けての新たなアンセムとして提示されたのだ。だからこのアルバムは、そっと優しく抱きしめられるような親密感と共に、瑞々しく沸き立つような新鮮な衝動をも感じさせるのだ。

U2 – Elevation (Live From The FleetCenter, Boston, MA, USA / 2001)

 彼らは『ポップ』の制作の際、ツアーのスケジュールが先に決まっていたためアルバムの内容を詰め切れなかったという思いがあった。だから『オール・ザット〜』ではサウンド面でも演奏面でも、そして歌詞の面でもじっくりと納得がいくまで時間をかけた。ジ・エッジはこう語っている。

「完成まではかなり苦労したけど、考えてみれば僕らのアルバムは毎回簡単じゃないからね。というのも、もしそんなに単純で何の苦痛も伴わないプロセスなら、僕らのレコードはこれほどまでのテンションや共鳴を呼ぶ作品にはならなかったと思うんだ。やっぱりうんと深いところをを抉り出すような、血管を引き裂くような思いをして、自分にとって本当に大事な問題を探し出すようなことをしないと」

U2 – The Ground Beneath Her Feet (Official Music Video)

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