ケンドリック・ラマー、Haim、The Chainsmokersも参加 U2最新作を“いま”聴くべき理由
U2の通算14枚目となる最新作『Songs Of Experience』がリリースされ、初登場全米1位を記録するなど好調な出だしを見せている。これで彼らは80年代、90年代、00年代、10年代のすべてで全米1位を獲得した史上初のグループとなっただけでなく、このアルバムは現在のところ2017年のロックアルバムで最も高いセールスを記録している。
とはいえ、1980年のデビューから約37年が経過している現在、特に10代~20代前半の若いリスナーにはU2がどんなバンドなのか掴みづらい部分もあるのではないだろうか。そうした人々に一言で説明するならば、「00年代以降、多くのバンドにとってスタジアムバンドのひな型になったのがU2だった」という見方が一番伝わりやすいかもしれない。たとえば、現在の音楽シーン屈指のスタジアムバンドの一組であるColdplayが、特に3rdアルバム『X&Y』以降の大きな影響源としていたのが『The Joshua Tree』(1987年)期のU2で、他にも00年代以降英米でスタジアムクラスの人気を獲得していったThe KillersやKings of Leon、Arcade Fireといった多くのバンドは、多かれ少なかれこの頃のU2を参考にしていた。そして前作にあたる2014年の『Songs of Innocence』は、Appleと提携する形でiTunesユーザー全員に無料配布。この方法は「頼んでもない作品を勝手に入れられた」と賛否を呼んだが、この大規模な施策が実現できたのはU2だったからに他ならない。加えてライブでも360°ツアーを敢行するなど先進的な試みを続け、スタジアムバンドとしての可能性を追究したのが近年のU2だった。そして、『The Joshua Tree』からちょうど30年後にリリースされたのが、最新作『Songs Of Experience』だ。
このアルバムは、タイトルからも分かる通り、もともと前作『Songs of Innocence』と対になるアルバムとして制作をスタートしている。『Songs of Innocence』は、デビュー当初はポストパンクの文脈から登場し、スタジアムバンドの階段を駆け上っていったU2が自身のキャリアを一度解体し、無垢(=イノセンス)な初期衝動を作品に収めようとしたことが伝わる作品だった。とはいえ、制作は難航したようで、当初彼らが形にした音源があまりにインディー風の音になり過ぎてしまった結果、最終的には外部から様々なプロデューサーを招集。デンジャー・マウスにライアン・テダー、ポール・エプワースといった人気プロデューサーを加えて作品を完成させた(制作中にはデヴィッド・ゲッタとの共作まで行なわれていたそうだ)。今考えるとこれは、リアム・ギャラガーのソロ作『As You Were』がそうであったように、ロックミュージシャンが10年代のポップシーンの大きな基盤となっている分業制を取り入れるための試みでもあったのかもしれない。
そして、今回の最新作『Songs Of Experience』は、その『Songs of Innocence』制作時から「『Songs of Innocence』とは異なる、今のU2を表現した作品になる」と宣言されていた作品。全体の印象としては、ポストパンク期を抜け出して現在に繋がる王道ロックバンドとしての歩みをはじめた『The Joshua Tree』以降の系譜に連なる、まさに現在のU2のサウンドが詰まった作品だ。とはいえ、全編を聴くと、彼らがここ数年の間に経験した/刺激を受けたと思しき様々な要素が顔を出し、文字通り『Songs Of Experience』というタイトルに相応しい内容になっている。たとえば、1曲目「Love Is All We Have Left」や2曲目「Lights of Home」の壮大なコーラスは、2016年にカニエ・ウェスト、Francis And The Lights、Bon Iverなどの作品を通して顕著だったゴスペル再評価と見事に共振するもので、この作品の制作がボノの事故によって遅れたことを考えると、恐らくこれは当時のシーンとリアルタイムで共振するものだったのだろう。
参加ゲストも特徴的で、前述の2曲目「Lights of Home」には米若手バンドを代表する存在のひとつ、Haimがコーラスで参加。そして4曲目「Get Out of Your Own Way」のアウトロと5曲目「American Soul」のイントロには、ケンドリック・ラマーが参加している。中でも「American Soul」は、実際に聴いてもらえば分かる通り、ケンドリック・ラマーの新作『DAMN.』でU2がゲスト参加した楽曲「XXX. feat U2」でボノが歌ったメロディと同じものが使われている。それ以外にも、6曲目にはレディー・ガガが、7曲目にはジョン・レノンの息子ジュリアン・レノンがコーラスで参加。加えて、12曲目にはColdplayとのコラボ曲「Something Just Like This」も記憶に新しいEDMデュオ、The Chainsmokersのアンドリュー・タガートも鍵盤で参加し、作品に新鮮な要素を追加している。歌詞の面でも、イギリスのブレグジットや欧州各国の右傾化、アメリカの保守化などを踏まえつつ、それを「愛」という大きなテーマで包み込むなど、今をテーマにしているのが印象的だ。
とはいえ、そうした今の要素を含みながらも、サウンド的にはどこまでも王道のU2であることが、本作の何よりの魅力になっている。実際、プロデューサーの多くもU2作品でお馴染みの面々になっており、9曲目「The Little Things That Give You Away」で鳴らされるエッジのギターやボノが歌うスケールの大きなメロディが「Where the Streets Have No Name」や「With or Without You」などを思わせる他、「Landlady」などにも近年のColdplayが直接的に影響を受けてきたU2の王道とも言える持ち味が広がっている。また、バンドによると、このアルバムの各楽曲は近しい人々への手紙になっているそうで、彼らの作品ではお馴染みのアントン・コービンが手掛けたジャケットには、ボノの息子イーライ・ヒューソンと、ジ・エッジの娘サイアン・エヴァンスが手を繋いだ写真が採用されている。今回のアルバムには、世界最大のロックバンドが「愛」という最も普遍的なテーマを堂々と表現することで、「ロックの/自身の王道」に改めて向き合っていくような魅力が感じられるのだ。様々なU2チルドレンがスタジアムを湧かせている今だからこそ、最新作『Songs Of Experience』を通して、U2の魅力に触れてみるのもいいかもしれない。
■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。
■リリース情報
『ソングス・オブ・エクスペリエンス』
発売中
価格:¥2,500+税
日本盤ボーナス・トラック1曲収録
試聴・購入はこちら
<収録内容>
1. Love Is All We Have Left / ラヴ・イズ・オール・ウィ・ハヴ・レフト
2. Lights Of Home / ライツ・オブ・ホーム
3. You're The Best Thing About Me / ベスト・シング ※ファースト・シングル
4. Get Out Of Your Own Way / ゲット・アウト・オブ・ユア・オウン・ウェイ ※セカンド・シングル
5. American Soul / アメリカン・ソウル
6. Summer Of Love / サマー・オブ・ラヴ
7. Red Flag Day / レッド・フラッグ・デイ
8. The Showman (Little More Better) / ザ・ショウマン(リトル・モア・ベター)
9. The Little Things That Give You Away / ザ・リトル・シングス・ザット・ギヴ・ユー・アウェイ
10. Landlady / ランドレディ
11. The Blackout / ザ・ブラックアウト
12. Love Is Bigger Than Anything In Its Way / ラヴ・イズ・ビガー・ザン・エニシング・イン・イッツ・ウェイ
13. 13 (There Is A Light) / 13(ゼア・イズ・ア・ライト)
14. Ordinary Love (Extraordinary Mix) / オーディナリー・ラヴ(エクストラオーディナリー・ミックス)
15. Book Of Your Heart / ブック・オブ・ユア・ハート
16. Lights Of Home (St Peter's String Version) / ライツ・オブ・ホーム(セント・ピーターズ・ストリング・ヴァージョン)
17. You're The Best Thing About Me (U2 VS Kygo) / ベスト・シング(U2 VS カイゴ)
18. The Blackout (Jacknife Lee Remix) / ザ・ブラックアウト(ジャックナイフ・リー・リミックス) ※日本盤ボーナス・トラック
<U2 紙ジャケット&SHM-CDシリーズ>
『ボーイ』(1980)から『ソングス・オブ・イノセンス』(2014)まで、U2の過去のスタジオ・アルバム13枚が 紙ジャケット仕様&SHM-CDで発売中
(完全生産限定盤 / 日本限定発売)