『Slow Live '20 Keep Distance』で再確認した“生音で交歓する美しさ” KIRINJI、ハンバート ハンバート出演の一夜をレポート

『Slow Live '20』で再確認した“生音で交歓する美しさ”

 2020年9月12日、13日の2日間、日比谷野外大音楽堂にて『Slow Live '20 Keep Distance』が行われた。例年、東京都大田区にある池上本門寺で開催されていた同イベントだが、新型コロナウイルスの影響もあり公演会場が変更されている。9月12日と13日の2日間は日比谷野外大音楽堂で、また9月24日から9月27日の4日間は東京国際フォーラムホールCで開催された(配信視聴券が現在販売中)。今回は、ハンバート ハンバートとKIRINJIの2グループが出演した9月12日の模様をレポートする。

 イベントタイトルの「Keep Distance」にもあるように、会場は1席ずつスペースを開けての着席となり、観客数は本来のキャパシティの半分。入場時の検温、アルコール消毒、公演中の発声を控えるなど入念に感染症対策が講じられた上での開催となった。大声で盛り上がる、といった段階にはまだ達していないものの、おそらくほとんど観客にとっては、半年以上体験できなかった待望のライブであり、会場へ詰めかけた人々の高揚感はその場にいるだけで伝わってくる。これまで、音楽ファンが当然のように受け止めてきた「コンサート会場で演奏を聴く、体感する」ことの価値を改めて感じたこの半年間であったように思う。

 最初に登場したのはハンバート ハンバート。歌とハーモニカを担当する佐野遊穂と、ギター、キーボード、フィドル(バイオリン)などの楽器を器用に使い分けつつ、ボーカルも披露する佐藤良成の2人編成だ。予定していた本年度春のツアー、音楽フェスなどの出演予定が軒並み中止(あるいは延期)となり、観客の前に出るのは久しぶりの彼らだが、そうしたブランクを感じさせることなく観客を楽しませてくれた。ライブは「おなじ話」「永遠の夕日」と、2人のボーカルのかけ合い、ハーモニーの美しさが楽しめる人気曲からスタート。大きな会場でも歌詞が聴き取りやすく、どの曲も一聴すれば覚えてしまうキャッチーなメロディが印象的だ。カバー曲であっても、ふたりのボーカルが重なった瞬間に、完全にハンバート ハンバートの音楽になってしまう。公演中はあまり大きな声が出せない観客だが、たくさんの拍手で演奏に応える。

 また、曲の合間に披露される、佐野の日常生活にまつわるのんびりとした体験談は、佐藤のリアクションの絶妙さも合まって楽しい。「定食屋さんにうっかり帽子を忘れた話」や「家具を買ったが、なかなか請求書が届かない話」など、気の向くまま自由に語り続ける佐野と、独特の距離感で合いの手を入れる佐藤とのコンビネーションに、観客席には笑いが絶えなかった。いま私は会場でライブを見ているのだな、と感じる楽しいMCだ。佐藤がキーボードを演奏した「虎」、歌詞の味わいがすばらしい「ぼくのお日さま」などの楽曲が続き、観客もさらにステージから目が離せない。ライブ後半、佐藤が楽器をフィドルに持ち替えた「ホンマツテントウ虫」では、2人で息の合ったアイリッシュダンスを披露するくだりで観客から笑いと共に拍手が起こった。配信ではなかなか伝わりにくい身体を使った直接的なパフォーマンスに驚くとともに、旺盛なサービス精神にこちらも嬉しくなるばかりだ。最後はアップテンポの楽曲「メッセージ」で会場を沸かせ、演奏は終了となった。

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