安藤裕子が語る、活動休止から“音楽”を取り戻すまでの日々「自分の道を切り開くために必要な時間だった」

安藤裕子が語る、活休から再生までの日々

自分が作る曲より自分らしく歌える

ーー明るい曲だけではないですが、全体としてすごく開けた感じがありますよね。トオミヨウさんやShigekuniさんとは、どのように制作を進めていきましたか?

安藤:この作品の全体像を私が見ているとして、Shigekuniくんは主にサウンド面をディレクター的にまとめてくれていて、トオミくんはもう少しピンポイントに参加してくれた感じです。例えば、私が公に作品を出す時にどんな曲がいいかという話をすると、トオミくんは歌謡曲的な歌を私に歌ってほしいと言ってくれて。

ーートオミさん作曲の「曇りの空に君が消えた」は、たしかに歌謡曲的なサウンドが特徴的ですね。

安藤:そうですね。80~90年代の日本のポップスを意識してメロディを作ってくれていると思います。あと、「空想の恋人」も王道のJ-POPにしてくれたんですけど、録り音と参加ミュージシャンは変わったものにしたいという話をして、ギタリストはTKくん(凛として時雨)にお願いしたんです。TKくんに相当弾いてもらったんですけど、そのままミックスしてしまうとこの曲だけ浮いてしまうので、わざと深いリバーブをかけて、すごく遠くで鳴らしているようにしました。もし私がシンガーソングライターとして一人でアルバムを作っていたら、よりパーソナルな作品になってしまうと思うし、きっと間口が狭くなると思うんです。そういう部分をトオミくんやShigekuniくんが解消してくれましたね。

ーーあと、今回は安藤さんがよりボーカルに寄り添っている印象も受けました。

安藤:そうなんです。今回はすごく歌いやすかった。ずっと自分で作曲はしていたんですけど、音楽の素養がないせいか、私が作るとメロディに突拍子もない部分がかなりあって。そのメロディの拍子や音階が壊れないように細かくコードをつけることで、今までの安藤裕子の音楽は出来上がっていたんですよ。細かすぎて、どんだけコード変わるんだ、みたいな(笑)。そうなると歌ももちろん大変で、昔は歌入れが大嫌いだったんです。歌入れになると「お腹痛い」「熱が……」みたいに逃げるんですけど、スタッフのみんなに「はいはい」って怒られながらレコーディングするみたいな(笑)。その点、今回はShigekuniくんが半分くらい作曲してくれているし、私が途中まで作って別の展開部分はShigekuniくんのメロディをもらったり、トオミくんも作ってくれているので、断然自分の曲より歌いやすいんですよ。

ーーお二人も安藤さんのことを理解した上で作っているのかな、と。

安藤:はい、すごくフィットしました。彼らの作曲家としてスキルがすごいんだと思うんですけど、自分が作る曲より自分らしく歌える部分もたくさんありましたね。

ーー以前安藤さんにインタビューをした際に、“絵は理詰めで描くけど、音楽は専門的な知識がないから、限界なく色々なことができる”という趣旨のことをおっしゃっていたことが印象に残っています。今もその感覚はありますか?

安藤:それが仇となって、音階がめちゃくちゃになっちゃいました(笑)。よく「キーを教えてください」って言われるんですけど、私は声が出ればなんでもいいんじゃないかとずっと思っていたんですよ。だから自分のベストのキーも全然わからないし、それこそ周りのスタッフの方がよくわかってるんじゃないかな。私はファルセットも低域も割と出る方だから、本来であればベース音や上モノで鳴っている楽器かもしれないところも関係なく、単純に歌いたいものを歌っちゃうんです。トオミくんやShigekuniくんは、そういうボーカルにとって余分なところをちゃんと分けて、私が歌っていて気持ち良いと感じる部分だけを回してくれたのかなって思います。

ーーそれでも、メロディの自由度は高いと感じますが。

安藤:「バロメッツ」が序曲だとして、「一日の終わりに」「Little bird」「Tommy」ぐらいまでの前半が私の個人的な世界というか。「一日の終わりに」は、2018年の9月頃に久々に私個人で作った曲で。最初はアルペジオでポロポロ作った曲だったんですけど、ライブやイベントで「箱庭」と一緒にこの曲も歌って、その時点でずいぶん変わったんですよ。小声で歌うものから、歌い上げる曲になった。ライブの楽器演奏と一緒に歌うことでこんなに育つのか、と驚きました。1年くらいは「箱庭」と「一日の終わりに」は歌い倒しました。で、「Little bird」や「Tommy」に関してはデモ段階で自分で楽器のフレーズを入れていて、これを活かしながらアレンジしてほしいとお願いしたんです。「Tommy」はShigekuniくんが後半のメロディを作ってくれたり、大きな展開を入れてくれたんですけど、そこでできた間奏部分にコーラス枠を作ってみんなに歌ってもらったりして。音楽で遊ぶ感覚が特に出ているのが、この3曲だと思いますね。

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