amazarashi、バーチャルライブが示した一体感と社会のあり方 『朗読演奏実験空間“新言語秩序” Ver. 1.01』から考える

 amazarashiがデビュー10周年を迎えた2020年6月9日、YouTubeにてオンライン配信『朗読演奏実験空間“新言語秩序” Ver. 1.01』の1週間限定無料配信を行った。

amazarashi『amazarashi LIVE 朗読演奏実験空間 新言語秩序』(通常盤)

 今回の配信では2018年11月に開催され、ライブクリエイティブおよび演出が、第23回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門の優秀賞を受賞した『朗読演奏実験空間 新言語秩序』が本編となり、そこに秋田ひろむ(Vo/Gt)による書き下ろし楽曲「令和二年」を含む3曲の弾き語り自宅ライブ映像が加わった。

 『朗読演奏実験空間 新言語秩序』は、amazarashiの楽曲群、秋田による書き下ろし小説『新言語秩序』を軸に、照明や映像が加わり、さらにスマホアプリが連動した公演として行われたもので、特に手に持ったスマホを通して、観客がライブの演出の一部として加わることができたのはライブ表現としては革新的な部分だった。

 今回の配信ではアップデートされたアプリ『新言語秩序』を通じて、当時のライブに参加できなかったファンも配信される映像とともにコンテンツに参加できる。例えば、「リビングデッド」、「月が綺麗」、「独白」などが披露された際は、アプリの検閲解除アラートが通知され、スマホのライトが点灯。自宅にいてもライブと連動する形で、バンドが奏でる音、ステージと客席の間に設けられた半透化スクリーン上に映し出される歌詞や映像とリンクすることで、バーチャルライブでありながらもリアルタイムに参加できる“参加型ライブ”になっていたことはファンにとっては大きな意味を持つだろう。その大きな意味とはひとえに“一体感”に他ならないのではないだろうか。

 新型コロナ禍における新たなライブエンタメの可能性として注目を集めたのは、Travis Scottの『フォートナイト』ライブのような体験型のバーチャルライブであることはすでに広く知られるところだが、今回の配信では“体験”よりもamazarashiのライブ演出が描きだす世界観にファンがアプリの機能を通して、演出の一部になれるという意味での一体感があったように思える。これはもともとのライブ自体が楽曲、小説、照明、演出によって作られるベースにファンがアプリとともに加わることで完成するアートフォームであったことが大きいはずだ。

 特にコロナ禍においては、感染拡大の懸念から緊急事態宣言が解除された現在でも、ライブハウスの営業再開はまだ許可されておらず、コロナ禍前のような“ライブに参加できる日常”を、まだ我々は取り戻せていない。また、現在「日本音楽会場協会」が検討中のガイドラインでも観客は無言でいることが求められていることもあり、仮にもし、これが実現した場合は、これまでのようにアーティストの歌声にあわせて合唱することで一体感を得るという、ライブの醍醐味となる部分を実感することが難しくなる。そんな“ニューノーマル”のことを考えると、このタイミングでバーチャルライブ配信を視聴することでライブ会場との一体感を得ることができるこの演出は、2018年当時よりもさらに重要なものになったと言えるだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる