クラムボン ミトに聞く、バンドが危機的状況下で向き合うべき問題 「生活を守るために今の世界と戦わなければいけない」

クラムボン ミトに聞く、今向き合うべき問題

ライブで再現できないことを取り入れれたら面白いんじゃないか

ーークラムボンの活動全般にとって、今回のコロナ危機はほかにどういう影響を与えていますか。

ミト:僕らの場合は本当にそういった意味ではラッキーなんですけど、実は活動のカードはいくつかあるんですよ。コロナ禍になる前から、来年はこういうふうにしていこうって考えていた活動が、たまたまコロナで外に出なくてもある程度プロモーションもできて販売的なものもできる。なのでクラムボンというコミュニティの中では、活動が止まることはなかったです。例えばそれが、『エレメント』シリーズで。

ーー4月に『エレメント』シリーズの第一弾として新曲「夜見人知らず」を発表しましたね。

ミト:あれも実はコロナ禍になる前から、配信にもちゃんと手を伸ばせるような『エレメント』シリーズの活動と、『モメント』シリーズみたいな(ライブ会場やファン有志の店舗等での)実売直売的な活動を並行でやるのが私たちらしいんじゃないか、ってことは一昨年から考えてたんですよ。それを去年の年末ぐらいには出そうと思ってたんですけど、ちょっと色々あって延びてしまって。それで今年の4月ぐらいの桜が咲く頃に、「夜見人知らず」のリリックのテーマが桜だったのと、コロナでの閉鎖感と若干リンクすることだったので、急遽出したんです。それで、準備してる最中にその過程を思い返してみたら、これ本当に全部ソーシャル・ディスタンス・システムで作ってたんだって思って。

ーー具体的にはどういう制作方法だったんですか?

ミト:単純に僕がトラックを作る。そしてメンバーに確認をとる。その確認をとった後に、例えばリズムや歌のアイデアを出してもらったりとか。で、歌だけはうちのスタジオ兼作業場で録ったんです。(原田)郁子さんにはボーカルブースに基本ステイしていただいて。なので直接ではなく、板を一枚挟んでる状態で歌を録りました。(伊藤)大助さんはなんだかんだ他のプロジェクトで、バンドのレコーディングの活動はしてたりするんですよ。その最中に『エレメント』用のサンプルとかを、合間に録らせてもらって、それを僕が編集して。それで、ミックスやマスタリングはオンラインで大丈夫なので、エンジニアはニラジ(・カジャンチ。『モメント e.p.3』も担当)に全部お願いしました。

ーーなるほど。

ミト:たまたま今回は『モメント』でやったようなバンドでのレコーディングではなくて、『エレメント』というシリーズで、配信を専門とするクラムボンのプロジェクトを立てようってことだったので、普通にバンドでやるんじゃなくても、打ち込みとか普段ライブとかで再現できないことを取り入れてやったら面白いんじゃないか、と話してました。例えば郁子さんの声、あんなにいい声なのにわざわざ変調させたり歪ませたり。後は打ち込みだったりとか。そういうものを前面に出した感じで、『モメント』は『モメント』、『エレメント』は『エレメント』っていう雰囲気を出していけたらいいんじゃないのかなって思ったんですよ。

ーーバンド的な空気感を大切にする『モメント』シリーズがあって、一方で配信で発表することを前提とする、もっとインナーな雰囲気や打ち込みを中心とした『エレメント』の両面を考えていた。去年からその構想はあったけど、今回のコロナ禍によってライブも全員集まってのレコーディングもできない状況になってしまって、必然的に打ち込み中心の、インナーなクラムボンが表に出てきた。

ミト:そういうことなんですよ。そこにはサブスクにおけるラウドネス規格の影響もある。

ーーというと?

ミト:今日本のテレビの業界はラウドネス規格っていう音量調整基準が使用されてるんですけど。実はこれ音楽家にとっては非常に弊害があるんです。音が大きすぎないようにリミッターをかけるんですけど、こちらが大きすぎるとものすごい勢いで小さくなり、迫力もなくなるんです。ただ、そのラウドネス規格の音域って大雑把にいうと実は上側、ギターの音だったりボーカルの音だったり中高域が基本メインなんですよ。低域はあんまり重要じゃないんです。だからこそ僕はその低域を武器にしたらいいんじゃないかなと思ったんですよ。そうしたら、どんどんネットで配信されているサブスクのものも同じようなラウドネス規格を持ち始めて。

ーーSpotifyやApple Musicと、Amazon Music HDやmora qualitasのようなハイレゾ・ストリーミングの違いって、音はもちろん後者の方がいいんですけど、何が一番違うかっていうと中高域の透明感や伸びと空気感だと思うんです。だから、ローに関しては別にSpotifyもハイレゾ・ストリーミングもそんなに変わらないっていうか。

ミト:でも、ミュージシャンやバンド、タレントさんにとってはそこが一番重要なんですよ。どんなサブスクで聴こうが同じ音で聴けることがね。

ーーああ、空気感を重視しない方向っていうのはそういうふうなきっかけもあったっていうことなんですかね。

ミト:そういうことですね。

ーーミトさんがほとんど一人でトラックを作って、ドラムは大助さんの音をサンプリングして、歌は郁子さんが歌ってとっていうことだと、ミトさんが一人で作ってるアニソンやとかアイドルポップスとかのトラック作りとそんなに変わらなくなってくるってことですか。

ミト:うーん、むしろ逆で、今アニソンや劇伴の方がスタジオを使っていたりする。劇伴は大変なんですよ。やっぱりちゃんと生で録らなきゃならないので。生のストリングスって必ずと言っていいほど入ってる。そのストリングスって実際にどれくらいの編成になるかっていうと、少なければ少ないでできますけど、だいたい基本6-4-2-2-1っていって、ファーストバイオリン6人、セカンド4人、ビオラ2人、チェロ2人、あとコントラバスが1人。で、15人じゃないですか。それで今このタイミングで15人集めるって、色々問題があるじゃないですか。しかも、時には難しいスコアアレンジを誰かに任せたりしなきゃならないので、クラムボンの作業以上に人手に委ねなきゃならないことが多い。従来はそれを1日のスタジオで一気に賄えたんですけど、やっぱインペグ(スタジオ・ミュージシャン等を斡旋する仕事)の方々に、「今コロナで自粛的な問題もあるので、あんまり人数は増やせないです」って言われちゃいますよね。

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