「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること
クラムボン ミトに聞く、バンドが危機的状況下で向き合うべき問題 「生活を守るために今の世界と戦わなければいけない」
仕事になるならとにかく手当たり次第に触ったらいい
ーーなるほど。『エレメンツ』シリーズはまだ一曲しか出してないですが、今後もコンスタントに出していくということですね。
ミト:そうですね、ストックだけはいっぱいあるので。
ーーでも現実問題として、今だけでなく当分ライブができないと。しかも今までのようなライブの形も成り立つかどうかわからないって状況で、総合的にクラムボンの今後の方向性はどういうことになりそうですか?
ミト:当面は『エレメント』的なものを出し続けたりすることで活動維持はできます。あとはクライアントさん周りでの仕事も引き続きあるので、そういった意味では活動維持はできると思うんですけど、やっぱり事務所の経営的な問題で言えばなかなか厳しいです。あとはYouTubeの重要性が今後確実に大きくなるんじゃないかなとは思いますね。と言って僕はチャンネルは持ってても、何もやってないんですけど。何を見せたらいいか考えたりしてます。
ーークラムボンはとりあえず全MVがYouTubeで解禁になったから、それを見るのにみんな忙しいんじゃないですか。
ミト:そうそう、だから僕はその辺りはクラムボンはある程度大丈夫だと思っています。なので僕がクラムボンとは別に個人でやるんだったら何がいいかなと。自分の作曲したものを自分で解釈したり、セッションデータを他のアーティストさんに迷惑がかからない程度に、可能な限り見せてあげたりとか。たとえば作家が人にあげた曲をカバーしたりってあんまりないいじゃないですか。だからそういうチャンネルをやってみるのはありかなぁと思って。実は今、システムをちょこちょこ組んではいるんです。もう自分の曲だけで何百曲以上あるので。
ーー何百曲! クラムボンで作ってる曲があり、かつ外部仕事で依頼されて作る曲があって、それ以外の自分の内面から出てくる、自分が作りたいと思って作る曲っていうのは、ストックの中でそれくらいあるんですか?
ミト:いっぱいありますよ。その辺りは本当に作ってる暇もないので、以前のインタビューのときも言いましたけど、ボイスメモに録っておいて。前の取材のときに言っていたスタンスはちゃんと引き継いではいるんですけど、もちろんそうじゃない部分もどんどん増えていて。だから、カードが増えているだけなんですよね。全然自分の作曲スタイルに順番を決めたりしていないので。自分が作りたいなぁと思ってること、もっと言ったらクラムボンでこれ作りたいと思ったこととかはボイスメモにメロを入れたりする。あとはリフとか、やったことないことをちょっとやってみたいなって思ったら『エレメント』でやってみたらいいし。『エレメント』は合間に作り続けてるので。
ーーじゃあ『エレメント』は、“ミトのソロ”的な意味合いも強いってことですか?
ミト:えっと、テクスチャー的に『エレメント』みたいなことをやろうってなったら、じゃあイニシアチブを取ったら? っていうふうに郁子さんには言われたので。そうですね、そういった意味ではサウンドプロデューサーは完全に僕です。
ーー3年前の2017年の取材では、いわゆるオールドスクールなシンガーソングライター的な作り方をするようになってきたと。ことヒットシングルというか歌モノに関しては、それに勝る作り方はないんじゃないかっていう見方を当時のミトさんはされてましたけど、そのあたりは変わらない認識ですか?
ミト:変わらないですね。「夜見人知らず」のサビのメロディが出てきたときにはもう、これを最初に出そうって直感的に思った。だから、この曲もポンと鼻歌で出て、でもテクスチャは打ち込みがいいのかなって思ったりして。
ーー要するにスパッと全部切り替わるんじゃなくて、色んなやり方をその都度自分で編み出していって、それを並行して進めてるっていうのがミトさんの作り方ってことですね。
ミト:今のスタイルはそうですね。やっぱりありがたいことに過去20年以上自分のスタイルとして、色々なことをやって来ているから、あんまり手本は気にしなくなってきている感がありますね。もちろん「苦手」って思うものはありますけども、着実に少なくはなってきました。
ーー苦手なモノってあるの?
ミト:ドラムは、生で叩けって言われたらすごい嫌です。
ーーいやいや、それはできるできないっていうのはあるだろうけど(笑)なんかもうミトさんって音楽に関することだったらなんでも知ってるしなんでもできるっていう、そんなことはないのかもしれないけれど、そういう印象だったりしますよね。
ミト:そうでありたいとは思いますし、聴いたりするのも好きだからこそ、そのディテールは全部把握したいと思ったりする、その自分の願望が音楽への衝動なので。
ーーだから、アーティストによっては、これは自分には必要のないモノだから知らなくていいって考える人もいるけど、ミトさんはそういう割り切りはしないでしょ。
ミト:ないですね。
ーー必要じゃなくても知りたいと思うでしょ。
ミト:そうそう(笑)。僕はもう、絶対必要ないでしょっていうものをむしろ好んで取り入れたりとかしますね。
ーーそうすることで、だんだんやれることが歳ごとに増えていって、自分の引き出しもどんどん増えていく。そうなると、歳をとればとるほどいい音楽ができるっていう。
ミト:それは証明したいですよね。あと音楽での自分のスタイルを決めつけないで、ちゃんと仕事としてお金になるものだったら、とにかく手当たり次第に触ったらいいと思いますけどね、みんなが。
ーー自分のスタイルを守ることが第一っていう人もきっといるだろうけど。
ミト:若い時は僕もそうでしたからね。でも若い子の世代の今と、私の若い頃は全然違いますし、価値観も違うし音楽を始める時点でアティチュードとか出し方とか見せ方も違うでしょうし。
ーーあと情報を遮断するのがほとんど不可能な状態ですからね。昔だったら色んなことを見ない聞かないっていう状態でものを作れたかもしれないけど、今は不可能でしょ。
ミト:まあ不可能でしょうね。だって、例えばバンドマンの会話上に若者のスラング的なものが出たとして、そのスラングがアニメ発信であることも少なくない。でも、アニメと関係ないバンドマンたちはその元ネタを全然知らなかったりする。知らず知らずのうちにその影響を受けている。だから、そんなに自身のアイデンティティに固執しなくてもいいのかなっていう気はしますけど。