「コロナ以降」のカルチャー 音楽の将来のためにできること
クラムボン ミトに聞く、バンドが危機的状況下で向き合うべき問題 「生活を守るために今の世界と戦わなければいけない」
僕は舐められるつもりも、馬鹿にされる気もまったくない
ーー若い人は色んなジャンルやカテゴリーを自由に動いて自分の表現みたいなものを作っていく。どんどん意識も更新されていくし、新しくなっていく。5年前にやったミトさんのインタビューは、そういう風にどんどん更新されていくーーあの時はボカロが革新的なものだったっていう話だったけどーーポップシーンの最前線みたいなものと、クラムボンが伍して戦っていくためにはそれなりの武器が必要なんだっていう話だったと思うんです。だからあの時のミトさんのインタビューを今読み返してもピリピリしててすごいんだけど。
ミト:久々に僕も読み返してみて。あの時そんなに苛立ってたのかなあって。ちょっともう自分でも思い出せない。
ーーでも苛立ってましたよ。「お前そんなこともわかんないのか!」って感じ。すいませんって謝りたくなるような感じだった(笑)。
ミト:多分当時は過渡期で、自分は武器やカードを増やしていかないとダメなんだって思っていて、それをみんなにも言っていて。自分も瀬戸際だなと思ってたんでしょうね。
ーーとにかく戦わなきゃっていう意識がすごく強かった時期だったと思うんですが、今もまだそういう意識はあるんですか?
ミト:うーん……あの頃に比べたらないですね。それはもう断言できます。理由は、一山越えたというか、やっぱり武道館が終わって『モメント』を出し始めてそれなりの成果があり、自分たちの手法もある程度は落ち着いた。潤ったという方がいいでしょうね。それを経たことによる安心感は絶対にあると思います。あれから5年経っても同じことにフラストレーションが溜まったりすることはあるんですけど、クリアしてるっていう実証があることが大きい。やっぱり5年経った今でも私たちの活動って独特だし。自分たちで言うのもあれだけど、僕らみたいな人たちって本当にいないので。で、そこを超えてくる人たちもいない分、周りの見晴らしがいい。新しい世代のバンドには彼らの流れがあるかもしれないですけど、僕らはもう、もはやその人たちがどれだけ頑張ってもできないことをやっちゃってるんで。今のところ敵がいないです。敵だと思う人間がいないです。
ーー5年前の段階ではそこまで自信が持ちきれなかった。
ミト:うん。それであの記事で言っていた方向にやっていかなきゃならないんだっていうことをやり続けて、結果それが正しかったっていうのがわかったので。
ーーあそこでミトさんが語っていたのは、バンドが今や時代遅れの形態であって、今のポップシーンの最前線にはまったく通用しないものになってると。その認識は今でもそんなに変わらないですか?
ミト:変わらないですね。例えばOfficial髭男dismの音だってそうですし、The 1975とかももうみんなそういう形になってる。今バンドで売れてる方々はみんな打ち込みというか、実演不可能なことも当然のようにやっている。そういう人たちなんですよ。それに近いことを僕は言いたかったんだけれども、実質そうでしたよねっていうことだし。例えば、米津氏(米津玄師)だったりじん氏(自然の敵P)だったりとか。米津氏って多分その頃はそんな売れてなくて、『紅白歌合戦』に出るなんて思われてなかったと思うんですけど。そうなっちゃったし。言ってみれば本当にキリないなと思うんですよね。
ーーなるほど。
ミト:あと、どんどん音楽と社会、音楽と経済が昔以上に密接になってきていると思うんですよ。ミュージシャン側が経済や社会のことを考えなきゃならないし。プロモーション的なこともやらなきゃならないし。自分のブランドも売らなきゃなんない。それはYouTuberの人がやってることと同じじゃないですか。そういうことも考えつつ音楽をやってるような時代なので。
ーーそうですね。
ミト:例えばライブハウスに対する支援金のためにグループを作って署名をしましたとか言うと大体外野から、「お前たちはこれまで楽して旨い飯食ってきたじゃん」っていうツッコミしか来ないんですよ。
ーー「好きでやってたんだから今更文句言うな」ってやつですね。
ミト:はたして僕がそれを言っていいのかはちょっとわかんないんですけど、やっぱり舐められてると思うんですよね。僕は舐められるつもりも、そんなことを言っている人間に馬鹿にされる気もまったくないので、そういうものに対して馬鹿野郎って言う音楽は作りたいですけどね。ふざけんな、と。
ーーうん、いいですね。
ミト:僕は政治的な発言をほとんどしないんですけど、じゃあ僕がどうやって生きているかっていうと、さっき言ったプロモーションだったり、社会的なことだったり。仕事に対して音楽とどう向き合っていくかみたいなことはずっと再三言ってるわけじゃないですか。『モメント』を始めた時からずっとお金の話もしてるし。で、そういうのって自分たちの音楽を良くするために、結果的には自分の作品のためにやってるわけで。政治と向き合うというよりは、政治といつも相対していかなければならないんですよ。そこは自分たちの音楽を作るために、自分の生活を守るために今の世界と戦わなきゃならないし、向き合わなきゃならない。
ーー誰もが自分の立場でしかものを言えないじゃないですか。音楽家は音楽家なりに、音楽ライターは音楽ライターなりにそれぞれの立場でものを言えばいいし、主張をすればいいと思う。
ミト:そうそう。すごく優秀なミュージシャンだったら、ちゃんと話もできるし、理解もできるのであれば、政治家を目指してもらっても全然問題ないって思っているので。
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