乃木坂46、東京ドーム初単独公演特別配信での“ライブ感の共有” コロナ禍で変化みせるアイドルの発信

 他方、今日の女性アイドルシーンの中心にいる「坂道シリーズ」は、上述したようなグループアイドルの趨勢と対照的に、メンバー個別レベルでのSNS発信が最も抑制された組織といっていい。755や限定的なInstagramの展開などはあれども、個々が日常的に開かれた場で発信する頻度は相対的にずっと少ない。自然、この時期の独自コンテンツ発信もグループ名義のアカウント、ウェブサイトが中心になってゆく。

 欅坂46がファンクラブ内でWEBラジオ『けやみみ』を継続展開、日向坂46がSNS上で「STAY HOME」を謳う動画をアップする等の発信を行なうなか、5月に入って大きな注目を集めたのは、乃木坂46がYouTube上で2017年開催の『真夏の全国ツアー2017 FINAL! IN TOKYO DOME』の特別配信を5~7日の3日間にわたって実施したことだった。

乃木坂46『真夏の全国ツアー2017 FINAL! IN TOKYO DOME』(通常盤)

 この過去公演映像の配信が実現したのは、いわば「ライブ感の共有」である。

 生配信を用いてアーカイブを残さない形式で行なわれたこの東京ドーム公演の公開は、連日同時視聴数30万人を超える盛況をみせた。生配信というスタイルの性格上、SNSでのリアルタイムの盛り上がりを促すことになるが、さらにポジティブな効果を生んだのは、乃木坂46の公式Twitterアカウントを使ってメンバーが入れ替わるように実況ツイートを多数投稿したことだった。この投稿形式は、乃木坂46のメンバー個々がTwitterアカウントをもたないゆえのものだが、結果としてメンバーたちが単一のアカウントのもとに集うように言葉を投じたことで、ファンと地平を同じくするソーシャルメディア上に、乃木坂46がグループ単位で擬似的に現出し、乃木坂46の節目の公演をともに振り返るような時間が生まれた。

 ライブを観ながらメンバーとファンがリアルタイムで言葉を積み重ね、ひとつの公演を共有してゆくという光景は、コンサートが通常開催されている折にはむしろ実現することのないものである。実際には「現場」を作り出すことがいまだ不可能な現在において、送り手と受け手がライブ感を分かち合う仕方のひとつを、この東京ドーム公演配信は体現していた。今般において過去公演の映像をいかに機能させてゆくのか、その可能性を考える好例をみせたといえるだろう。

■香月孝史
1980年生まれ。アイドルカルチャーほかポピュラー文化を中心にライティング・批評を手がける。著書『乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟』『「アイドル」の読み方 混乱する「語り」を問う』、共著『社会学用語図鑑』など。

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