悠木碧、竹達彩奈、高橋李依......声優たちの”朗読”を通して実感する多彩な表現方法の数々
新型コロナウイルスの影響で外出自粛を余儀なくされる状況が続く中、声優界では本の朗読を録音して配信する動きが広がっている。経緯などについてはこちらの記事(リアルサウンドテック:自宅で頑張るあなたへ――声優・悠木碧から広まった、やさしい朗読の輪)を参照のこと。
本稿では、これらの朗読コンテンツを通して、改めて声優というプロフェッショナルが生み出すものの素晴らしさを再確認してみたい。
悠木碧が見せた演じ分けの巧みさ
まずは、ハッシュタグ「#せいゆうろうどくかい」の発起人である悠木碧の投稿作を味わい尽くしていこう。
悠木は、傾向としてはハイティーン以下程度の少女役を演じる機会が多い役者である。しかし一口に“少女”といってもタイプはさまざまで、内向的で気弱な少女、カリスマ性のある強気な少女、ミステリアスなサイコパス、常軌を逸した能天気な女子高生など、かなり幅広い役柄を違和感なく演じ分けてきた。予備知識なしに作品を鑑賞していて「このキャラの声、悠木碧だったの!?」と驚かされた経験が誰しも一度はあるだろう。
ときには少年や架空の生物など少女以外の役を務めることもあるが、その都度「むしろ悠木碧の真骨頂はこちらなのではないか」といった声も上がるほどに高い対応能力を発揮している。そんな彼女にとって、1人で複数の役柄をこなす必要のある“読み聞かせ”というジャンルは、自らの特徴を最大限に生かせる分野と言ってもあながち過言ではなかろう。
声色の変化については言うまでもないが、とくに注目すべきポイントは“タイム感”だ。人間が100人いれば100通りの固有テンポがあるのと同じように、演じるキャラクターによって話すスピードやリズム感、呼吸の深さおよびタイミングなどの“正解”は違ってくる。これらを総合的にコントロールすることで別人格を演じ分ける妙味は、1人2役(以上)という演技スタイルで味わうのが一番わかりやすい。
最初に公開された朗読『手袋を買いに』にて、悠木はナレーション、狐の子、狐の母親などを巧みに演じ分けている。
地の文を読み上げるナレーションは比較的ナチュラルなテイストで、おおむね地声ではあるが、やや実音を抑えたウィスパー寄りの発声。ゆったりしたテンポを一定にキープすることでオーセンティックかつ落ち着いたムードを作り出す一方、適度な抑揚を明確に付けるなど単調にならない工夫も抜かりない。
狐の子を演じる際は輪郭を強調した声色を高めの音域で使い、タイム感をあえて不ぞろいにすることでたどたどしさを、舌っ足らずな発音で幼さを表現。母狐のセリフでは、やや中低音にエッジを効かせて年齢感を上げ、早口気味によどみなく言いきるテンポ感で芯の強さや聡明さを演出している。
ほかにも、『LE PETIT PRINCE①』では、TVアニメ『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』で演じた主人公・キノを彷彿とさせる落ち着いたトーンの少年ボイスを披露している。さらに幼い少年をあどけなく演じるシーンも含まれており、貴重な少年役を存分に楽しめるという意味でもファン必聴の1本だ。
この『LE PETIT PRINCE』は、悠木と同い年で親交の深い声優仲間の寿美菜子、早見沙織との3人リレー形式で制作されるとのこと。本稿執筆時点ではイギリス在住の寿が朗読を務めた2本目がすでに公開されている。