DJ Mitsu the Beatsが語る、インスピレーションの源から昨今のビートシーンまで

DJ Mitsu the Beatsが語る、インスピレーションの源から昨今のビートシーンまで

 2月26日で10周忌を迎えたトラックメイカーの故Nujabesとともにタワーレコードの「NO MUSIC, NO LIFE.」ポスターに登場しているのは、仙台を拠点とするヒップホップユニット=GAGLEの守備陣の一人、DJ Mitsu the Beatsだ。2020年2月9日、JAZZY SPORT SHIMOKITAZAWAにて行われたインストアイベントに出演した彼は、イベント前に同店にて撮影を行っていた。撮影を終え、筆者が握手を求めると、予想以上に骨太な手の持ち主であることに気づく。

 その手は、これまでGAGLEや自身の作品のビートを作ってきた手であり、同時に、数年前に200曲ほどのデータが入ったファイルを誤って削除してしまった手でもある(MitsuのInstagramのプロフィールには「Mr. データロス」というユーモア溢れる文言がある)。「[command]+[delete]を押した直後に[command]+[shift]+[delete]で完全に消すっていうクセがついてて、それでProToolsのデータ入ってるフォルダを一瞬で消しちゃって、キャンセルを押したけど、全然(戻らず)。で、キャンセルを押したせいで逆に状況が悪くなったみたいで……変なエラーが起きて、復元もできなくなって」と、Mitsuは回想する。

 この「データロス事件」がGAGLEの『Vanta Black』(2018年)のリリースを遅らせたのは、一部では有名な話であるが、この影響はMitsu自身のソロ作『ALL THIS LOVE』にも及んでいた。「集中すれば2カ月くらいで作れたと思う」と謙遜するMitsuだが、予期せぬかたちで延びた制作期間は、同作に確かな変化をもたらした。

「もしかしたら、4年前だったらただワンループの上に乗っけてもらって終わりだったかもしれないけど、もっと展開も作って、ちょっと歌モノっぽくなったかなっていう感じ」

 GAGLEのMCでもあり実弟のHUNGERに比べると、近寄りがたい印象のあったMitsuだが、この日インタビューが始まると、彼の口からは、こちらが投げかけた質問への回答以上のものが毎回返ってきた。この度『ALL THIS LOVE』をリリースしたDJ Mitsu the Beatsに、同作の制作過程や自身のインスピレーション源、昨今のビートシーンについて話を聞いた。(奥田翔)

アルバム制作時のDJ的な曲順の決め方「起承転結をやっぱり考えてしまう」

ーー『ALL THIS LOVE』は、タイトルどおり“Love”が全体を貫くテーマになっているように感じますが、タイトルはどのように決められたのでしょうか?

DJ Mitsu the Beats(以下、Mitsu):“Love”をテーマにしたくて、最初は普通に分かりやすく『Love Is All』が候補に出てきたんです。でも、それだとちょっとポップすぎる印象があって。『ALL THIS LOVE』は聴こえも良かったしこの言葉に決めました。

ーー1曲目のMarterさんを迎えた「Togetherness feat. Marter」は、パーソナルな愛について歌われている他の曲とは毛色が違って、社会における愛や隣人愛など大きなテーマで歌われている感じがします。これはMitsuさんもビートを作るうえで意識されたことですか?

「Togetherness feat. Marter」

Mitsu:「Togetherness」がたしか最初に出来た曲で、もう3、4年前とかなんです。Marterさんも(曲のことを)忘れてたくらいで(笑)。この曲を作った時はアルバムのテーマはまったく定まってなくて、自由に歌を乗せてもらったんですが、やっぱりMarterさんの良さが出ていますね。壮大な感じの曲にしたかったんで意味を大きく持たせられたことは良かったなと思います。

ーーリリックに対してディレクションを出すことも無かったのですか?

Mitsu:まったく無いですね。今回は特に。基本的に僕は歌ってもらう方に任せています。もし書いてもらったものがイマイチだったら、もちろん言うと思うんですけど、自分の想像していた世界観にバッチリと仕上げてくれるので。今実はラップアルバムを制作しているんですが、それもみんな僕が口の出す必要がないものに仕上げてくれています。

ーー「Slalom feat. Mark de Clive-Lowe」は後ろのほうでポコポコ鳴っているドラムが印象的で、なんとなくアフリカっぽい音だなと感じます。一方GAGLEの『Vanta Black』ではヨーロッパっぽい無機質な感じをイメージされていたそうですが、いま音楽的に注目されている国や地域はありますか?

「Slalom feat. Mark de Clive-Lowe」

Mitsu:パーカッションとかアフリカンリズムとかにはハマっていますね。とあるプロジェクトでこれからアルバムを作るんですけど、つい先日その打合せでもアフリカのリズムとテクノ的な要素とヒップホップの要素を混ぜたようなアルバムにしていこうっていう話をしたばっかりで。引き続きヨーロッパの音質の良さと、アフリカ的なパーカッションの独特なリズムには注目しています。ヒップホップは最近ピンとくるものが出ないんですよね……あ、でもサンパ(・ザ・グレイト)はすごくよかった。やっぱり今はアフリカっぽいのが好きなのかもしれないです。

ーー「It’s Time」では、ビートが明らかに転調する瞬間が印象的です。これはどのように着想したのでしょうか?

「It’s Time」

Mitsu:曲を作ってたら、インスト曲を単純に終わらせたくなくなって。前は、抜きも作らずただ単純にワンループで3分とかの曲を作っていたんです。もちろん今でもそんな曲もいいと思うんですけど、「この曲のこの部分が好きだな」「このフレーズが好きだな」と感じてもらえる部分を増やしていきたくなって。「It’s Time」はベースをMarterさんにお願いして、cro-magnonのタクさん(金子巧)にも参加してもらいました。タクさんは、今回のアルバムで7曲くらい参加してもらっていて、タクさんと作るなら、普通にループで終わらしたくないなという思いもありましたね。

ーーアルバムを締めくくる「Promise in Love feat. José James」はハッピーエンド感がありますね。『Vanta Black』でも最後に「Always」を配していましたし、『3PEAT』(2007年)で「若き匠たちへ」を最後にしていたりとか、アルバムを通して聴き終わったあとの空気感を大事にされているのかなと思いました。

Mitsu:前にDJ Mu-Rとも話したんですが、アルバム制作の時は結局DJ的な感じが曲順を決めるときに出てしまうんですよね。(GAGLEの制作時は)曲順ジャンケンをするんですけど、ソロは起承転結をやっぱり考えてしまう。今回も、最初タクさんのピアノの演奏でゆっくり「Togetherness」が始まって、上がり下がりがあって、後半のほうに速い曲を持ってきて、最後終わるときにまたピアノのソロで終わる。作品全体が繋がるようにしたいんです。それはGAGLEでもずっとそうで、ワッと突き抜けたままでは終われないですし、一定のテンションではなく流れをまとめたくなるんですよね。

今のように配信が主流になっている世の中でアルバムを通して聴いてもらえるなら、そういう流れを作りたいっていう思いはより強いかもしれない。でも「Togetherness」みたいなゆっくりした曲を最初に入れたことってあんまりなかったので、スローな曲から始めることに対して実は迷いもあったんです。なので、流れ的には珍しい仕上がりかもしれないですね。終わりに入っていてもおかしくないような曲なので。

ーー「Promise in Love」はホセ・ジェイムズとの共作曲でありMitsuさんの作品の中でも人気の高い楽曲のリミックスですが、本作では「Promise in Love」から繋がるコンセプトもあったのでしょうか。

「Promise in Love feat. José James」

Mitsu:そうですね、やっぱり「Promise in Love」は自分の曲の中で世界的にも一番知名度があるんです。ホセのアルバムにも入ってたからというのもありますが、皆あの曲に近いものを期待してくれているんですよね。実は「Promise in Love」もデータが飛んでて、2ミックスしか存在しないんです。家で作ったデモ状態で何もできなくて。でも、あの雰囲気を再現するのは無理だから、デモ状態で入れてあるので(曲中の)スネアがデカいんですよ。家でもある程度のミックスは自分でしますが、あの曲はマスタリングだけでリミックスができていない状態のまま。それでもどうしても今回のアルバムに入れたかった曲です。

José James「Promise in Love」

ーー家、車、クラブ、バー……など、音楽を聴くシーンはいろいろ考えられますが、自身の楽曲を「このシーンで聴いてほしい」と思うシチュエーションはありますか。

Mitsu:なんとなくはありますね。車の中や、外に出るときに聴いてほしいというイメージは常に持っていて。カフェなんかでもよくかけてくれていて、それももちろん嬉しいですが、自分も曲を作ったらまず自分の車でチェックするので、ドライブ中に聴いてほしいなとは思いますね。

ーー今作でいうと「Mellow Curves」は、ドライブを意識されたのかなと感じました。曲のタイトルどおりメロウだけど、ベースの音に存在感があって。ドクター・ドレーとか、Top Dawg Entertainmentのサウンウェイヴなんかも、車での鳴りを試すために車で試聴するらしいです。同じようなステップを踏まれてるんですね。

Mitsu:自分も必ずそうですね。その日に作った音を車で聴くのが楽しみです。それで翌朝聴いたら「こんなしょうもないものに1日掛けてたのか……」って落ち込むことが3回に1回くらいあります(笑)。作る時は自分ですごくいいと思って作ってるのに後で聴くと「何これ?」みたいな。

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