BTS、新アルバム『MAP OF THE SOUL:7』で葛藤と逡巡から抜け出せるか 先行公開された2曲を分析

 2月21日にフルアルバム『MAP OF THE SOUL:7』(以下『MOS:7』)をリリース予定のBTS。BigHitがリリースしたカムバック予定表によると、1カ月以上という長期間に渡り事前プロモーションを仕掛けるようだ。

BTS『MAP OF THE SOUL:PERSONA』

 まず、1月10日には2013年の楽曲「Intro: O!RUL8,2? 」をサンプリングした、SUGAのソロトラック「Interlude:Shadow」がMVとして発表された。Shadow=シャドウとは『MAP OF THE SOUL』シリーズのリファレンス元であるユングが提唱した定義で、「自分の中に抑圧されたもう1人の人格」を指す。韓国のアイドルシーンで当時のトレンドに乗り、ギャングスタラップを標榜してデビューしたBTSは、幾多の音楽的紆余曲折を経て世界的に人気の“ボーイバンド”となったが、この“ポップスター”としての大きな成功ゆえにSUGA個人がデビュー前に渇望していたであろう“ラップスター”として評価される機会は失われつつあるという現実がある。

BTS (방탄소년단) MAP OF THE SOUL : 7 'Interlude : Shadow' Comeback Trailer

 2017年前後にサウスサイドのラッパーを中心に自らを“ロックスター”だと名乗るムーブメントが起こったが、ここでの“ロックスター”はむしろ2003年のJAY-Z「Rock Star(Freestyle)」や、かつてのカニエ・ウエストの発言「We, the culture rap is the new rock and roll. We the rock stars.(俺たちのカルチャーであるラップが新しいロックンロールだ。俺たちがロックスターなんだ)」が意味していた、富や名声の象徴としての“ロックスター”の方が近いのだろう。ボーダレスな時代に音楽のジャンル的なラベリングを嫌い、あえて“ロックスター”を標榜したサウスサイドのラッパー達ーーマリリン・マンソンをリスペクトするLil Uzi Vert、ロックカルチャーで培った感性をラップとしてアウトプットしているポスト・マローンや、ギターリフなどロック的なエッセンスを楽曲に取り入れることを好むトラヴィス・スコットなどーーとは異なり、BTSの音楽的・カルチャー的なベースにはロックがあるわけではない。“アイドル”は最も楽曲のジャンルからは自由な存在であり、こういう曲をやるべきという制約が当てはまらない存在と言える。その点が、制作あるいはパフォーマンスする楽曲のジャンルでカテゴリー分けされる“アーティスト”とは根本的に異なる部分でもあり、同時に強みでもある。しかし、だからこそ冒頭のリリックの“ラップスターになりたい ロックスターになりたい”というつぶやきは、「楽曲でカテゴリーづけされるような存在になりたかった」という切実さを含んでいるようにも感じられる。また、“逃げたところで俺についてくる/あの光と比例する俺の影”という歌詞は、成功につきまとう影の部分をそのまま“シャドウ”と重ねているようだ。

BTS (방탄소년단) MAP OF THE SOUL : PERSONA 'Persona' Comeback Trailer

 前作『MAP OF THE SOUL :PERSONA』収録のRMによるソロトラック「Intro:Persona」での〈Do Yoy Wanna Fly?〉〈I just wanna fly〉というリリックに対し、今回は“高く跳ぶのが怖い”と言っている。“自分の跳躍が墜落になりうることはわかっている”というフレーズは、SUGAが参加したホールジーの楽曲「SUGA‘s Interlude」にも登場しており、過去のSUGAのソロ楽曲の中にもよく出てくる“自己嫌悪と慢心が自分の心の中に生きている”という表現のように、成功による自尊と同時に襲われる自己嫌悪や現状への恐怖といった相反する感情がシーソーのように現れる心の内を吐露した歌詞は、SUGAの楽曲らしさとも言える。MVでの無数のフラッシュに囲まれる表現はBLACKPINK「DDU−DU DDU−DU」でも見られたが、あちらが高いヒールで転ぶことで女性芸能人特有の問題を表現していた一方、こちらは熱狂的なファンドムと野次馬的マスコミや大衆によって、一挙一動の全てがあらゆる場所で注目されかねない彼らの現在を、よりストレートに表現しているようだ。

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