DJ泡沫×NICE73対談
韓国芸能界との向き合い方、ネクストトレンド、人気グループの秘訣……2020年代のK-POPを考える
BTSは『MAP OF THE SOUL:7』のリリースが決定、『PRODUCE 101』シリーズから誕生したX1は惜しまれつつも解散など、2020年も様々な動きがありそうなK-POPシーン。リアルサウンドでは“2020年以降のK-POPシーン”をテーマに、当サイトでK-POPに関する記事を執筆するDJ泡沫氏と、K-POPイベントのMCや作詞・作曲家として活躍するNICE73氏による対談を企画。前編ではBTSの弟分・TXT、TWICEの妹分・ITZYや、一世を風靡したオーディション番組『PRODUCE 101』シリーズについてなどを聞いた。後編では自殺やスキャンダルといった韓国芸能界の問題、“ガールクラッシュ”に次ぐトレンドの予想、さらに二人が考える、人気グループになる秘訣などを語ってもらった。(編集部)
韓国芸能界に蔓延る問題
――最近は韓国アイドルのスキャンダルや自殺など、悲しい出来事も続きました。ネットの書き込みが良くなかったという意見もありましたが、どう捉えていますか。
NICE73:以前から韓国では起こってきた問題で、ネチズン(編集部注:ネットユーザー)がどうとかいう問題ではないかな、と。もちろんもっとモラルを持とう、というのは小学校から教育していくべきです。でも、韓国芸能界のシステムは幼い時からアーティストやアイドルを育成していくというもので、アーティストになりたい子たちはその世界でしか生きていないから、社会のことを知らない状態。例えば、日本ではデビューして人気者になって、そのあとそうではなくなってしまっても、色々な選択肢があるし、気にしないじゃないですか。でも韓国は、罪人かのように「最近テレビで見ないよね」とか、ナイフのように言ってきたりするし、働く場所もない。売れなくなってしまったら、もう未来がないんですよね。
DJ泡沫:たしかに、自分で事業を起こすくらいしかないですよね。
NICE73:そう。売れなくなってしまうと、お金を持っている人におべっかを使って、お店とか事業をやらせてもらう、みたいなことしか選択肢がなくなってしまうんです。だから、芸能人や歌手という職業は上の世代の人からいまだに軽視されてしまう。保守的な親が子供に芸能活動をやらせたくないのはそれが大きな理由で。でも私は、みんなと同じ、それ以上に努力してきた人たちがどうして報われない社会なの? って思うから、そのシステムを変えなきゃいけないな、と。とは言え、1個のミスに対して、気が済むまで言うとか、売れなくなったことは罪でもなんでもないのに、罪を犯したかのように言うとか、そういう人の性質をすぐに変えるのは難しい。会社内で精神的な教育をするとか、もっと専門的な機関でちゃんとケアをするとか。いくらエンターテインメントのレベルが高くても、まずはそういうところが変わっていかないと。
DJ泡沫:ネットがというよりも、多分社会全体の問題ですよね。特に若年層の自殺の多さは、もちろん個人の問題も関係してきますが、社会の問題を映すものでしょうし。個人で防衛できることって、ネットの書き込みを見ないことくらいかも……。日本だと、最近は人気アイドルや有名スポーツ選手などの自殺報道はあまり見かけませんが、韓国では今でも珍しくないですよね。ネットに関するスタンスの違いというのもあるかもしれません。ネットが社会の全てではないはずですが、韓国って“ネット=社会”的な意識が日本よりも高い感じしますし。ネットが普及した時期が日本より早かったのもあるんでしょうけど。
NICE73:あと、ネットの書き込みで大統領を当選させた歴史があるというのも大きいです。その経験があるから、ネットに書けばなんとかなるっていう風潮がすごく強くなったんだと思います。
DJ泡沫:日本だと、 言ってもどうにもならないだろうなって飲み込んじゃう部分があってそれも良し悪しですけど、 なんでも声高に言えば正義になるわけではないし、100人に支持されていても1人に言われたら気になって何もできなくなっちゃう人もいる。今はSNSやファンとの距離が近すぎると思うので、 これからはもう少しだけ距離を取った方が良いんじゃないかと思います。あとは“ホームマスター(マスター/アイドルの写真を撮るファン)”文化ですよね。 あれも実際は相当ストレスフルな環境だと思うんですが。
NICE73:韓国って見栄っ張りな人も多いし、追っかけがたくさんいれば人気がある、良い服を着ていれば売れているって単純に考える傾向があるんです。例えば、美容室の下に出待ちがいれば売れていることになるから、マネージャーがオタクのリーダーに、みんな連れてきてね、って連絡する、みたいにファンを使って、グループが売れているという演出をしてきた歴史があって。それがSNSが台頭してきて、ファンがカメラを持って出待ちしてアイドルの写真をアップするようになっていった。最近は空港とかでも出待ちして撮影したり……。
DJ泡沫:最近も、日本の空港に入って、写真だけ撮って出ようとしたファンが捕まったことが問題になっていましたよね。個人情報である出入国情報をどこかから手に入れて、出発や到着の何時間も前から競って場所取りしたりで一般の人の邪魔になってるのは以前から問題になってますし。最近はK-POPグローバル化で韓国だけでなく、日本も含む海外ファンのおっかけも増えてますもんね。特に韓国のアーティストが中国でライブができなくなって、中国のファンは国外に行くしかなくなったから追っかけが過激になってきてるとも聞きます。日本でのライブのグッズ列の徹夜なども、今はプロの転売屋が入ったりしてきていて対策も難しいらしく。今の中国では近くで見る機会も減ったから、何としても近くで見たいとか、公演グッズも直接買えないから転売屋から買ったりするしかない、とか。
ーー国同士の課題も絡んできますし、難しい問題ですね。そんな中、日本では音楽だけでなく、メイクやファッション、文学など韓国カルチャーが一気に広まったように感じます。
NICE73:今後はもう普通になっていくんじゃないでしょうか。小さい地方のお祭りでもBLACKPINKが流れて、小さい子が踊っているのもよく見かけます。
DJ泡沫:テレビでもBGMでよく流れていますし、幼稚園のお遊戯会でTWICEが使われたりしてますね。学校の授業でヒップホップダンスが必須になって、他の洋楽やJ-POPと同じようにK-POPに触れる機会が増えているのもありますよね。音楽のジャンルの一種として定着しているように感じます。
NICE73:1回その文化を受け入れたら、それぞれが自然に好みを判断して、普通に存在するようになる、というのは日本の良いところですよね。
DJ泡沫:各ファッション誌にも韓国のメイク用品や洋服が普通に載っていますしね。映画やドラマにはアイドルが出ていることも多いから、それがきっかけでアイドルが好きになる人もいるみたいです。
“ガールクラッシュ”に次ぐトレンドは?
――音楽で言うと、“ガールクラッシュ”が一つのトレンドでしたが、今後の流行はどうなりそうですか?
NICE73:“不思議ちゃん”かな。ビリー・アイリッシュは去年韓国では多くのアーティストがロールモデルにしていました。ソンミさんがそれをファッショナブルかつカラフルに表現したのも大きいですよね。Red Velvetの「Psycho」もすごいですよね。韓国の人ってよく「あの人サイコ(=ちょっと変)だよ」って言うんですけど、まさかサビで「Psycho」と歌うとは思わなくて。もちろんサウンド的にも格好良いですけど、新しいというより、今この時期のRed Velvetだから出来るスタイルだと思います。前は、男性に対して私についてこいとか、私は振られる方じゃなくて振る方よみたいな歌詞が多かったけど、今の世代には当たり前のこと。その次のフェーズに入ってきているのではないでしょうか。ソルリさんの亡くなる前の作品『Goblin』の世界観もそうですが、こういう“不思議ちゃん”コンセプトができる市場になってきたんだなと思いました。
DJ泡沫:“ガールクラッシュ”は、女性上位というわけではなくて女性像の典型から自由になる、いわゆる女性らしい格好やセクシーな服装をしたい人すればいいし、したくない人はそうすればいい、というところに行き着くのが理想だと思うんですが、そこまでたどり着けるかどうかがまだわからないですね。今の“ガールクラッシュ”はトレンドとして画一的になってしまっている面もある気がします。メンバーの個性やオリジナリティをさておいて、ファンの願望を受ける事が第一になってしまうと、外部から良しとされる像を演じているだけになり兼ねないですよね。そういう意味では新人だと(G)I-DLEは、恋愛の曲もあるけどちょっと変わった表現も多くて新しさを感じます。
前はグループの数が少なかったから、1つのグループが曲によって様々なコンセプトを求められたんでしょうけど、今は数が多いので、グループ自体のイメージを作ってそこから外れすぎない程度の冒険をする、グループ別のコンセプトを作るのが重要なのかなと思います。今人気のあるグループは、男女問わず他のグループにはできないことをやっているグループばかりなので。アイドルってその時代を映すもので、そのコンセプトには社会情勢が反映されると思います。今はフェミニズムが注目されているのもあり、男女関係のことを歌う詞は表現が色々難しいのかもしれません。でも恋愛や広義の愛にしても表現の仕方はいろいろあると思うので、そういう変化や、もっと内面的だったり日常的なことを歌うようになっていくのかもしれませんね。
NICE73:男性グループに比べて、女性グループはある程度尖っていないと狭き門に入っていけないというのはありますよね。
DJ泡沫:サウンドで尖ると楽曲派のリスナーはたくさん反応しますけど、メンバーに関わることなら何でもお金を出してくれるような、いわゆるオタクがつくとは限らないのは難しいところかもですね。曲やパフォーマンスだけでいいという楽曲派のファンばかりだと、リアルのビジネス的には厳しそうですし。
NICE73:MAMAMOOくらい、女性がお金を出してまで見に行きたい憧れの女性にならないと。それかLOVELYZみたいに思いっきり振り切っちゃうか。
DJ泡沫:LOVELYZは潔いですよね。MAMAMOOの良いところはどこかユーモアがあって、憧れっていうよりは、ツレみたいな感覚で男女関係なくみんな一緒にわちゃわちゃしたい、という感じで楽しめるところかなと。売れ方としては男性グループに近い感じで、巨大な規模ではなくても支持の熱い手堅いファンダムがついているような、安定した人気を感じます。