BTS、新アルバム『MAP OF THE SOUL:7』で葛藤と逡巡から抜け出せるか 先行公開された2曲を分析

BTS (방탄소년단) 'Black Swan' Art Film performed by MN Dance Company

 一方、1月17日に先行リリースされた「Black Swan」は、アメリカの伝説のモダンダンサー、マーサ・グラハムの「ダンサーは二度死ぬ。一度目の死は踊ることをやめる時、そしてその死はより痛ましい」という発言からインスパイアされた、トラップベースのトラックだ。今作は22組のアーティストとコラボレーションをする企画「CONNECT:BTS」の一環として、スロベニアの舞踏団・MNダンスカンパニーがパフォーマンスするというスタイルでお披露目された。タイトルの「Black Swan」は「想像できないことが現実に起こった場合、大きな衝撃を与えること」を意味する「ブラックスワン理論」を含んでいると思われる。「Interlude:Shadow」にサンプリングされている「Intro: O!RUL8,2? 」には“他人の人生ではなく自分の人生を生きろ”というメッセージが含まれていたが、ここでは“Do your thang(筆者注:thangは概ねthingと同じだが、主にアフリカ系が使うスラング)with me(=自分のやりたいことをやろう、一緒に)”と語りかける・あるいは語りかけられるものの、同時に「自分のやりたいことがわからない」「教えてくれ」とも言っている。一方、『LOVE YOURSELF 承 'Her'』収録の「Sea」では“砂漠が血汗涙で満たされた海になった”と成功の象徴だった「海」が、本楽曲では“全ての光が沈黙する海”というネガティブとも取れる表現がされている。“音楽を聴いても何も感じない”“これが俺の初めての死か”という過去の歌詞とは反転するかのような状況が起こったことそのものが「ブラックスワン」であり、同時にその背景にある予想もしていないあったレベルの成功自体も「ブラックスワン」とも言えるだろう。

 BTSの近年の楽曲には“暗闇の中の星”“自分の求めるものは暗闇の中でこそ最も輝くことを忘れるな”というような表現が、ネガポジ両方の意味で出てくることが多い。韓国の男性アイドルの歌詞のバリエーションに関しては昨年に筆者が参加した対談でも出たトピックだったが、BTSも成り上がりや自由への渇望を超えた成功の後には、成功ゆえの孤独やバーンアウトなど、内面的な逡巡を描くしかなくなるのかもしれない、という指摘の通りの道を歩んでいるように見える。しかし、「Shadow」の最後には“そう俺はお前/お前は俺/もう分かるだろう俺たちは一体であることも/時にはぶつかるだろう/お前は絶対俺を引き離せない”“お前が何をしたのか/認めた方がもっと楽だろう”“逃げられないどこへ行っても/俺はお前でお前は俺”という、“その先”を示唆するような表現が出てくる。自我の中で白鳥と黒鳥が衝突するかのようなバレリーナの壮絶な精神的葛藤を描写した映画『ブラック・スワン』は、白鳥と黒鳥の統合による精神的な昇華と成長を示唆しているかのようなラストでもあったが、今作でのBTSも葛藤と逡巡から抜け出し、新たな次元へ向かうのだろうか。フルアルバムの公開が待たれるところである。

■DJ泡沫
ただの音楽好き。リアルDJではない。2014年から韓国の音楽やカルチャー関係の記事を紹介するブログを細々とやっています。
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