Perfume、BABYMETAL、ももクロ、ZOC……アイドル×ミュージシャンによる“クロスオーバー”の歴史
21世紀のクロスオーバーの形:(3)スターダスト所属の女性グループ
過去からアイドルは専業作家からの楽曲提供がメインであり、現役ミュージシャンから楽曲提供を受ける際は、その「あのミュージシャンによる楽曲!」という点を強調してプロモーションに使用するというパターンがよく見受けられました。
現在もそのスタイルを用いているのがスターダスト所属の各グループです。特にももいろクローバーZは、その存在は極めて21世紀的ではありますが、KISS、布袋寅泰、中島みゆき等の大物ミュージシャンからの楽曲提供を受け、リリースの際にはその旨を前面に押し出してプロモーションを展開するという点においては、最も20世紀型のパターンに近い形で活動していると言えます。
一方、私立恵比寿中学などの後輩グループは、ももクロのように大物による楽曲提供というよりは、バンド等の若手ミュージシャンを、メジャーな存在になっていなくても積極的に起用して「コラボレーション」に近い形での楽曲を多く輩出しています。私立恵比寿中学の最新アルバム『playlist』は、全10曲中8曲が現役で自身の音楽活動を行っているミュージシャンによる楽曲になっていますが、なかにはまだメジャーデビューも果たしていないバンド、マカロニえんぴつのはっとりが名を連ねる等、その人選は独特のものです。
1988年、同様に当時の若手ミュージシャンを中心に起用する形で小泉今日子がリリースした『BEAT POP』の当時の位置付けが「小泉今日子スーパー・セッション」名義での企画盤的なものであったのと比較すると、私立恵比寿中学が当たり前のようにこのような形でオリジナルアルバムをリリースすることは、非常に「今」を感じさせる「クロスオーバー」であると言えます。
様々なクロスオーバーの形
「アイドルに楽曲提供していた作家が後にソロとして活動する」ケースも昨今増えてきました。代表例は、前山田健一=ヒャダインでしょう。彼は、楽曲の特異性が話題となり、その結果自身でもミュージシャンとして音源のリリースやタレントとしての活動を行うようになりました。connieも興味深い活動をしています。彼は一時Negiccoにまつわるほぼ全楽曲を担当し、現在はサウンドプロデューサーとして活動。そして今年になって初めて自身の名義でアルバムをリリースしました。
なお、アイドル黎明期に数々の名曲を残した作曲家であり、バンド活動もしている森田公一を「現役ミュージシャンがアイドルの楽曲を最初に手掛けた事例」から外したのは、作家としてのデビューが先だったこと、また作家活動がメインであったためです。
また、ミュージシャンとして活動しつつ、アイドルグループに自ら所属するアーティストの存在も。大森靖子は、ソロミュージシャンとして活動しながらアイドルに楽曲提供し、2018年には自らアイドルグループ・ZOCを立ち上げていますし、神聖かまってちゃんのドラマーみさこは、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIのメンバーであり、作詞もこなしています。
元々アイドルは芸能プロダクションやレーベルが主導する形で生まれたものであり、今も多くのグループがそのような形で活動しています。しかし、2000年代のアイドルブーム以降、女の子が自らアイドルとして名乗りを上げ、インターネット、特にSNSを駆使したファンとのコミュニケーション、そしてプロモーションをしながら活動を行うことが増えてきました。ミュージシャンがアイドルとして活動する事例は、ミュージシャンがアイドルシーンに触れ、自主的なアイドルのDIY的な活動に共鳴する形で生まれたり、育ったりしたものと言えるでしょう。
一方、既存メディア経由で知名度を上げていくことが今も多いバンド等と比較して、完全にネット内で知名度を上げていく所謂「ボカロP」出身のミュージシャンも、その音楽性でもって運営からフックアップされる形でアイドルグループへの楽曲提供を行うようになっています。
先述の、BABYMETALをはじめとして数多くのアイドルに楽曲提供するゆよゆっぺ、私立恵比寿中学に多数の楽曲を提供しているさつき が てんこもり、わーすたや虹のコンキスタドール等のグループに楽曲提供しているみきとP。また、現在PENGUIN RESEARCHのベーシストの堀江晶太は、元々kemu名義でボカロPとして活動し、その後ベイビーレイズの楽曲を作詞作曲、さらに彼女たちのライブ時のバックバンドのメンバーに参加するなど、様々な側面から活動を行っています。
様々な媒体で自身が気軽に発信することもできるし、楽器ができなくてもクリエイターとして能力を発揮できる時代。バンド、シンガーソングライター、ボカロP、そしてアイドル。どんな肩書きであっても、才能がありそれを発信して多くの人に知られることができれば、他のクリエイターと交わることができ、「クロスオーバー」が起こりうる時代であるということでしょうか。
おわりに
現在の大衆音楽は、音楽番組の減少やYouTube等の動画サービスやストリーミングでの視聴機会の増加、SNSでのコミュニティ形成などにより、自分の好きなジャンルを深く知ることは容易になったものの、他ジャンルを知ることの「壁」は以前より高くなっているように感じています。
しかし、J-POPやボーカロイドとアイドル、そしてその他のジャンルも含めて「クロスオーバー」することで、それぞれのファンが相互にその存在を知り、興味を持つことができるようになります。
できるだけ多くの音楽ファンができるだけ広く音楽を知り、楽しむことができればきっとシーン全体が今以上に活性化すると思うのです。そのためにもさらに「クロスオーバー」が進んでいけばいいなと思います。
個人的には、意外なミュージシャンが意外なアイドルに楽曲提供すると、それらはかなりの確率で「面白い楽曲」になるので、そういった作品をできるだけたくさん聴けることを期待しています。
■O.D.A.
「WASTE OF POPS 80s-90s」「CDレコード販売・レンタル店 開店閉店メモ」運営。
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