SARD UNDERGROUNDの醍醐味はライブでこそ体感できる 神野友亜、ZARDカバー&オリジナル曲で放つボーカルとしての魅力

SARD UNDERGROUND神野友亜、ボーカルの魅力

 2019年にZARDのトリビュートバンドとしてデビュー、昨年9月に杉岡泉美(Ba)、坂本ひろ美(Key)の2名が脱退し、現在はボーカル 神野友亜のソロプロジェクトとして活動を続けているSARD UNDERGROUND。2月22日に初のスタジオライブの映像を公式YouTubeチャンネルにアップし、ZARDのカバー「揺れる想い」と、神野が作詞を手がけたオリジナル曲「夢で逢いましょう」の2曲をそれぞれ披露。さらに今月1日にZARDのカバー「心を開いて」、8日にオリジナル曲「空っぽの心」のスタジオライブ映像をアップして話題を集め、「坂井泉水さんの遺伝子を継承している」「ライブが今から楽しみ」「最高の演奏」などの賞賛のコメントが多数寄せられ、再生回数を伸ばしている。

 SARD UNDERGROUNDは3rdシングル「ブラックコーヒー」以降、表題曲はオリジナル曲、カップリング曲はZARDのカバーというかたちでリリースを続け、ライブでもZARDのカバーを交えながら、オリジナル曲を聴かせていくという構成で行ってきた。ZARDのトリビュートバンドとしてZARDの名曲を余すことなく後世に伝えることをアイデンティティーとしながら、SARD UNDERGROUNDとしてのオリジナリティーも忘れてはいけない。SARD UNDERGROUNDはそんな2つの側面が常に二人三脚をしており、目指すべき対象がいつでもすぐ隣にいることは心強い一方で、比較されてしまうことは避けられない。そうした矛盾が、SARD UNDERGROUNDが持つ独特の魅力に繫がっているのかもしれない。

SARD UNDERGROUND 神野友亜
SARD UNDERGROUND 神野友亜

 そうしたSARD UNDERGROUNDの似ているようで異なる2つの魅力を最大限に発揮するのが、ライブという場だ。一つテーマを掲げながら、オリジナル曲とZARDのカバーを配したライブは、平成から令和という時代を自由に行き来するような、独特の空気感が秀逸だ。会場に足を運ぶ年齢層も実に幅広く、平成の時代にZARDのファンであった人から、その時代をネットに残るデータでしか知らない若い世代まで、“ZARD”という共通言語によって一つに繫がり、親子で足を運ぶファンも多い。昨年のツアーではアツいバンドサウンドに会場からは手拍子が沸き起こり、観客とのコール&レスポンスや掛け合いで会場を沸かせたかと思えば、アコースティックコーナーではしっとりとした歌声を聴かせるなど、実に多彩な構成でファンを楽しませた。

 今回公開されたスタジオライブの映像においても、そんなライブ特有の魅力を感じ取ることができる。

SARD UNDERGROUND「揺れる想い [tribute 2023]」First Studio Live

 まず「揺れる想い」はZARDが1993年にリリースした8thシングル表題曲で、同シングルは「負けないで」に続く2度目のチャート1位とミリオンヒットを記録した、ZARDの代表曲の1つ。原曲は坂井泉水の優しく包み込むようなボーカルが印象的だ。運命の出会いによるこの上ない歓びと幸せを表現した歌ではあるが、まるでオレンジの果実を丸かじりしたときに感じる、爽やかな酸味と甘みの中にあるほのかな苦みのように、数パーセントの不安や迷いが“揺れ”として表現されている。誰かと一緒に歩むことを選ぶということは、同時に出会う前のひとりであった自分を失うことでもある。幸せの裏返しとして、一抹の寂しさも孕んでいるのが、坂井のボーカルの絶妙さで、人を惹きつける魅力だろう。

 神野によるカバーは、非常に肩の力の抜けた、リラックスしたボーカルを聴かせている。あまりにも有名な楽曲をどう解釈して歌うか、非常にプレッシャーを感じるところだが、坂井のボーカルと比べるとふくよかな響きが特徴的で、あくまでも神野節として表現している印象ではある。ところどころの節回しには坂井からの影響を感じ、ところによっては声がオリジナルと重なるところがあって驚かされるが、そこはさすがZARDのトリビュートバンドのボーカルに選ばれただけのことはある。坂井のボーカルの特徴である、言葉をはっきり歌うところなどもしっかり踏襲され、ZARDの「揺れる想い」を、さながら原曲とオリジナルの間で揺れるように、見事にSARD UNDERGROUNDとしての「揺れる想い」が表現されていると言えるだろう。

SARD UNDERGROUND「夢で逢いましょう」First Studio Live

 「夢で逢いましょう」は、作詞:神野友亜、作曲・編曲:小澤正澄によるSARD UNDERGROUNDのオリジナル曲。昨年8月にリリースされた楽曲で、アニメ『名探偵コナン』エンディングテーマとして好評を得た。歌詞は『名探偵コナン』の毛利蘭の目線で、工藤新一への思いが表現されている。今や携帯で通話することでしか叶わない2人の逢瀬を、夢の中と置き換えたのが絶妙。また蘭の強さを、太陽の光にも負けずに輝く〈昼の空に浮かぶ月〉と神秘的に表現した他、工藤新一が言いそうなキザな言葉を〈「気が済むまで隣で泣き叫べばいいさ」〉とカギカッコでくくってセリフのように表現しているなど、歌詞には神野の“コナン愛”があふれている。

 楽曲はミディアムテンポのしっとりとしたムードのナンバーで、イントロの頭のキーボードをはじめ、独特の暗さを持ったコードが異彩を放つ。神野はリズムに身を委ねて体を揺らし、ときには目を閉じながら、歌詞に込めた思いを歌に乗せている。人に思いを伝えるとき、力強く叫ぶばかりでは伝わらず、あえて一歩引くことで伝わる思いもある。神野のボーカルはそこに込められた感情を無理に押し出すわけではなく、どこか物語を歌い継ぐような目線が感じられ、それゆえにかえって引き込まれてしまう魅力がある。転調するDメロ以降、現場の雰囲気を楽しんでいるかのような、少し見せるはにかんだ笑顔も素敵だ。

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