由薫、“自分にしかできないこと”と向き合う今 EP『Wild Nights』で対峙した過去と原点を語る

由薫が対峙した過去と原点

 由薫がEP『Wild Nights』をリリースした。海外クリエイターとの共作、スウェーデンでの制作、Netflixシリーズ『BEASTARS FINAL SEASON』Part 1のエンディング主題歌、それらを経てたどり着いた自分との対峙……さまざまな要因がひとつとなり、完成したのが『Wild Nights』だ。

 アーティストとして貪欲になった瞬間に“傷つく”ということも逆にインスピレーションになる――そんな自覚を手にした彼女は、今何を思うのか。「暗いEPだけど、すごく元気」と話していたが、まさに晴れやかな顔で、澄んだ空気をまといながら1時間にわたって話をしてくれた。(編集部)

J-POPを奏でた『Sunshade』を経て完成した『Wild Nights』

由薫(撮影=木村篤史)

――去年9月にリリースされたEP『Sunshade』は、サウンドや歌詞も含めてJ-POPと向き合った作品でしたよね。今回リリースされる新作EP『Wild Nights』は、前作とは真逆のアプローチに感じました。

由薫:そうですね。前作は、私が今まで積み重ねてきたことの結晶を形にしたいと思って作った一枚で。『Wild Nights』は、“自分らしさ”というよりも、新しいサウンド感を探求する作品になっています。そういう意味では、この2作はコントラストがはっきり出ていると思います。

――2枚のEPは対になっていると。

由薫:そうなんです。陰と陽というわけじゃないですけど、今までの私の結晶である『Sunshade』のあとに『Wild Nights』をリリースすることで、次のフェーズに進んでまた新しいことをやろうとしている姿勢を見せることに繋がるかなと思って。あえて毛色の全然違う作品を出しました。

――『Wild Nights』全体を通して、どんなことを歌おうと考えていましたか?

由薫:デビューしたのが2022年で、そこから約3年が経って、その間に『Brighter』というアルバムを出したり、『Sunshade』を出したりして。夜が明けたり沈んだりしているんです。そのなかで今回意識したのは、自分のカラーとしての原点。アートワークも白黒になっているように、もともとの自分は陰の部分が強いのかなと思っています。それはネガティブな意味ではないんですけど、曲も最初のほうは暗い曲ばかりを作っていて。そこから楽曲の幅を広げていって、「gold」で初めて明るいベクトルにチャレンジした。明るい曲を書くことが“チャレンジ”になっている時点で、そもそもの要素は陰が強いと思うんです。そして“夜が明ける”という意味の『Brighter』を作ったことによって、自分のなかで節目を迎えられた気がしています。そこから「新しい章を迎えよう!」と思った時に、そもそも自分が持っているカラーに向き合いたいと思って、原点回帰としてモノトーンな作品を制作することにしました。

――それが今回のEPなんですね。

由薫:声に関しても、ボイトレの先生や知り合いのミュージシャンの方にも「陰りを感じる」と言われるんですけど、それってひとつの個性というか、特徴なのかなと思って。そこから夜に集中した作品をもう一度作ってみようということで、『Wild Nights』の5曲を収録することになりました。

“自分が好きな曲を作る”だけを意識した「Feel Like This」

由薫(撮影=木村篤史)

――ここから収録曲についてお聞きしたいと思います。1曲目「Feel Like This」は、去年12月にNetflixで配信されたアニメ『BEASTARS FINAL SEASON』Part 1のエンディング主題歌 。こちらはどのように制作されたのでしょうか?

由薫:今回の楽曲はすべてスウェーデンで作りました。その制作期間中にたくさん曲が生まれて、今回の5曲ができあがりました。

――ということは「Feel Like This」もスウェーデンにいた時にできていた?

由薫:はい。そのあとにエンディング主題歌のお話をいただき、作品に合わせて歌詞を調整していきました。でも、曲のタイトルはデモの段階から決まっていて、あまり根本的なメッセージは変わっていないです。

由薫(YU-KA) - Feel Like This(Acoustic ver.)

――この曲に関して「難しいことは置いておいて、“自分が好きな曲を作る”だけを意識してできた曲」とコメントされていましたね。

由薫:そうなんです。スウェーデンにいた時、毎日曲を書いていて。それも終盤に差し掛かって、ちょっと疲れも溜まっていたなかで書いたのが「Feel Like This」でした。音楽を作るのは、苦しみを伴うわけじゃないですか。スウェーデンの短い期間中にもあらためてそういうことを感じて。「うわ、しんどいな」と思う瞬間がきても、私は音楽を手放さずに今までやってきたし、苦しみながら曲を作るという行為自体をどうしても楽しんでしまっているような節があった。スウェーデンの最終日に出た結論が、「それを感じて生きていきたいんだな、私は」ということだったんです。

――ああ、なるほど。時として痛みは生きていることを実感させられますからね。

由薫:このEPに収録されているほかの4曲って、実は「Feel Like This」ができるまでのあいだに書いていた曲たちで。シリアスな曲があるように、いろいろと考えた夜があったけど、結局は今を愛している自分がいるんだな、って。その答えが出た瞬間にすごくすっきりして。その感情とリンクしてできたのが、この「Feel Like This」。スウェーデン在住のアーティスト・David(Fremberg)さんと一緒に制作したんですけど、それがとても新鮮でした。普通であれば、いい曲を書こうと頑張ってくださる分、メロディの運び方とか細かい部分を緻密に作業していくんですよね。「ここの音はもっと違う方向に行ったほうがオリジナリティが出るんじゃないか」というふうに、論理的に突き詰めていく。でも、Davidさんは違ったんです。楽曲制作の終盤で私が疲れていたのを察知していたのか、「好きなように歌ってみなよ!」と言ってくれて。ただただ自然にメロディを紡いでいった。そうしたら、何も考えずに〈And I just wanna feel like this〉と歌っていて。

――気づいたら、そのフレーズが出てきたと。

由薫:はい。私があまりにも楽しそうに歌っていたから、Davidさんも「音を変えよう」とかはあまり言わず、そのまま自由にやらせてくれたんです。楽曲制作も楽しかったですし、できあがった曲を聴いて、良し悪し関係なく心から満足できました。自分のやりたかったことを具現化できた一曲になった気がます。洋楽的なスケール感のある曲だけど、あんまり難しいことは考えずに作れたし、歌っていても自分らしいなと思いますし。「こんなふうに感じていたいな」って。そのフレーズをキーワードに、アニメの楽曲に寄せて歌詞を書いていったんですけど、(デモから)あんまり変わっていないかなと思います。どんなお仕事をしていても、どんなことを頑張っていたとしても、何かに向かって歩んでいくことはみんな同じ。そういう意味を込めて「Feel Like This」を書きました。

由薫(撮影=木村篤史)

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