緑黄色社会、ハルカミライ、マカロニえんぴつ、フレンズ……2020年さらなる飛躍に期待のバンドをピックアップ
2019年、日本のバンドシーンにおける重大なトピックはたくさんあったが、Official髭男dismとKing Gnuの飛躍的な活躍についてはやはり語らずにはいられない。2組が、彼ら自身の持ち味を削ぐことなく、むしろその魅力を輝かせた状態のまま大きく飛躍していったこと。1年の締めくくりとして2組が揃って『第70回紅白歌合戦』(NHK総合)に出演したこと。その事実にワクワクさせられた人、大きな勇気をもらった人はきっと私だけではないはずだ。彼らの活躍によって“売れ線”という言葉・概念はもはや時代遅れのものになったといって差し支えないだろう。さて、本稿では、2019年の活動を踏まえ、2020年における飛躍が期待できるバンドを4組紹介したい。なお、ここで言う「飛躍」とは、元々バンド界隈の音楽が好きで、ニューカマーのことも積極的にチェックするようなリスナーだけではなく、そうではない層にまで認知されるようになる状態と定義する。
まずは緑黄色社会。ドラマ『G線上のあなたと私』の主題歌「sabotage」をきっかけに、バンドの名前がさらに広まった。元々聴く人を選ばない音楽を志向してきたバンドだが、それでもここまでポップセンスを爆発させた曲は初めてだったように思う。しかしこの曲、ただ溌溂としているだけではない。例えばサビ4小節目、〈愛されるより〉の「あ」の音。そのまま進行すればAになるはずだがA♭になっている。ボーカルがロングトーンした直後の、次への展開が期待されるところであえてマイナーコードにしているのだ。歌詞に描かれる〈私〉の葛藤が、言葉そのものだけでなく作曲・編曲面においても表現されている。だからこそ聴き手がグッと曲に移入できるのだろう。そして、この曲を語るうえで無視してはならないのが、長屋晴子(Vo/Gt)のボーカル。技術的な「上手い」を大前提としつつ(この時点で如何にハードルが高いことか)、これだけエネルギッシュで、感情の乗った歌を歌うことのできる人は他になかなかいない。ちなみに、長屋は、昨年12月にリリースされたBIGMAMAの新曲「LEMONADE feat. Haruko Nagaya(緑黄色社会) 」にゲストボーカルとして参加。BIGMAMAのメンバーは各所インタビューで、ファーストテイクからバンドのオーダーを汲んでいた長屋のすごさについて語っているし、実際この曲も素敵な仕上がりになっている。今後、いちボーカリストとしてオファーを受ける機会も増えそうだ。
続いてはハルカミライ。EMI Recordsよりメジャーデビューした2019年は“ライブハウスでロックファンに愛されてきたバンドがいよいよ多くの人に見つかった”という意味で転機だったように思う。それを象徴する出来事が、映画『凜-りん-』の主題歌・挿入歌を担当したことだ。一般的にバンドが映画音楽を手掛ける場合、映画の制作スタッフからの依頼を受け、新たに曲を作ることも多い(書き下ろしと呼ばれるスタイル)。しかし今回はそうではない。主題歌の「ヨーロービル、朝」は、2017年2月リリースのアルバム『センスオブワンダー』の収録曲で、挿入歌の「俺達を待っている」は、未発表の新曲。ここから先は推測になってしまうが、なぜ『凜-りん-』の制作陣が書き下ろしを求めなかったかというと、映画の作品性に寄せていない状態の、無添加のバンドの魅力を拝借したいという気持ちが強かったからなのでは、と思う。客席とステージを自由に行き来し、拳と本音を突き合わせながら、大きな声で歌い、大きな音を鳴らす――彼らのライブにある、あの眩しさが欲しかったからなのでは、と思う。「HRKMRI IS ALWAYS AT THE LIVE HOUSE」の精神のまま突き進む彼らの姿を見て、ロックバンドの美しさを初めて知ってしまう人、これからもどんどん増えていくはず。そういう力がこのバンドにはあるのだ。2020年も引き続き彼らに夢を託したい。