緑黄色社会、ハルカミライ、マカロニえんぴつ、フレンズ……2020年さらなる飛躍に期待のバンドをピックアップ
3組目はマカロニえんぴつ。マクドナルド「500円バリューセット」のCMソングとして「青春と一瞬」を、ドラマ『びしょ濡れ探偵 水野羽衣』のオープニングテーマとして「Supernova」を書き下ろした。2曲の作詞・作曲を手掛けたはっとり(Vo/Gt)は、目の前のお題(=タイアップ元)に対してどう応えるか、そのうえでどう遊ぶか、という大喜利的な頭の使い方をするのが非常に上手い。例えば「Supernova」のこのフレーズ。
〈濡れ衣だって似合うなら/タグ取って泣く泣く着るか〉
〈濡れ衣〉というワードはドラマの重要なモチーフ“水”から発想したと考えられるが、そこから“濡れ衣を着せる”という慣用句を持ち出すだけでなく、“服ならばタグが付いているはず”と発展させるのが面白い。〈泣く〉もまた水を連想させる単語で、〈タグ〉と〈泣く〉で韻まで踏んでいる。工夫満載だ。こういうはっとり特有の節(ぶし)は、私立恵比寿中学へ提供した曲「愛のレンタル」でもばっちり効いている。そちらもぜひチェックしてみてほしい。そしてこのバンドのすごいところは、タイアップソング=人目に触れる機会の多かった前出2曲よりも、その後リリースされたノンタイアップソング「ヤングアダルト」の方が(ストリーミングサービスやYouTubeのMVにおける)再生数が多く、曲のクオリティ自体も右肩上がりであること。さらに、メンバー全員が曲を書けることも踏まえ、“絶好調なのにまだ伸びしろがある”と感じさせられたことが、今回ピックアップさせてもらった理由だ。
最後に紹介するのはフレンズ。2019年はドラマ『きのう何食べた?』エンディングテーマ「iをyou」が話題を呼んだ。インタビュー(参照)によると、歌詞は、原作の漫画を踏まえた内容でありつつも、えみそん(Vo)が生活のなかで拾ってきた単語も盛り込まれている様子。そんな制作背景に、「みんなで歌える曲」を志向し続けてきたバンドの道のりが掛け合わさることにより、“あのドラマの曲”の範疇を超えた、聴き手の日常に寄り添うポップソングが誕生した。フレンズの音楽は、幅広い年齢層にリーチする可能性を秘めている。まず、90年代のJ-POP、ファンクetc.を参照したサウンドは、その時期に青春を送ってきた世代にとって懐かしく思えるもの。ブラックビスケッツの「タイミング~Timing~」をカバーしていたのも絶妙だったというか、自分たちの音楽がどの辺りの人たちに引っかかりやすいのかを自覚したうえでの選曲だったように思う。また、メンバーのポップなキャラクターや、エンターテインメント性の高いライブの造りは、就学前の低年齢層でも楽しむことができるだろう。そんななか、2019年9月リリースの『HEARTS GIRL』では、関口塁(Dr)の作曲した曲が初めて収録される(これでメンバー全員の作った曲が世に出たことになる)、河田総一郎を作詞家として、大久保薫をアレンジャーとして迎えて楽曲制作を行うなど、新たな挑戦も見受けられた。バンド元来の持ち味とそこには留まらない開拓精神を武器に、2020年の彼らはどんな音楽を生み出すのか。そこに注目だ。
タイアップの有無や、“売れる/売れない”によって音楽そのものの価値が変わることはないが、“本来その音楽を必要とする人に正しく届くようになる確率が上がる”という意味では、バンドが認知を広げることは決して悪いことではない。むしろそれは喜ばしいことだ。今回紹介した4組、および紹介しきれなかったが素晴らしい音楽を生み出し続けているバンドたちが、2020年もまだ見ぬリスナーとの出会いに恵まれることを願いつつ、本稿を締め括りたい。
■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。