西廣智一が選ぶ、2019年ラウドロック年間ベスト10 BMTH、Russian Circles、Slipknotなど意欲作が気になる1年に

 3位はRussian Circles『Blood Year』です。彼らはインストバンドなので聴く者を選ぶ印象も無きにしも非ずですが、メタルやラウドロックといった枠では括りきれない独創性の強いそのサウンドは聴く者を強く惹きつける魅力が備わっており、“メタル村”の外側……オルタナティブロックやポストロックを愛聴するリスナーにもアピールする存在感を放っています(参照:Russian Circles、Volbeat、Sacred Reich……西廣智一が選ぶ注目すべきHR/HM新作5作)。それは4位に選んだLeprous『Pitfalls』、7位のBaroness『Gold & Grey』、9位のMamiffer『The Brilliant Tabernacle』、10位のAlcest『Spiritual Instinct』にも共通する要素だと思っており、「うるさいからメタル」「様式美だからメタル」なんて偏見を持って拒絶するには勿体ない存在が豊富なジャンルに成長していくことこそが、このシーンの新たな課題だと確信しています(参照:Alcest、Mamiffer、Leprous……エクストリームシーンから“個”を確立させたHR/HM5枚)。

 そんな中、5位にはKillswitch Engage『Atonement』、6位にはSlipknot『We Are Not Your Kind』をセレクト。旧来のHR/HMの要素をモダンな形に進化させた2000年代以降のUSメタルバンドたちが、今もなお革新的な新作を制作し続けている事実は感慨深いものがありますし、そういった作品がしっかり数字として結果を残していることにも驚きと安心を覚えます(参照:Slipknot、Abbath、GYZE……西廣智一が選ぶ話題性の高いHR/HM新作6作)。両作品とも過去に生み出してきたものを現在のスタイルで表現するだけではなく、メタルの未来を見据えた作品としてまとめられている。古き良きものとして伝統を守るのではなく、過去を受け継ぎながら未来へとバトンをつないでいく、その役目をしっかり果たそうとする両バンドの姿勢は尊敬に値するものです。今回は選外となりましたがKorn『The Nothing』、マーク・モートン(Lamb Of God)『Anesthetic』、そしてRammsteinの新作にも同じことが言えるのではないでしょうか。

 ベテランの域に入ったバンドのみならず、伝統を受け継ぎ未来へ進もうとする新勢力も存在します。8位に選出したGatecreeper『Deserted』はまさにそのひとつで、80年代のオリジナルUSデスメタルや90年代のユーロデスメタルからの影響にモダンなハードコアパンクのカラーをミックスさせた個性的な作品は、まさに2019年のエクストリームシーンの象徴といえるもの。かつてのDeafheavenやPower Tripと同等の輝きを感じさせる今だからこそ、本作をドロップしたタイミングでの来日公演に期待したいところです。

 2010年から始まった“テン年代”が幕を下ろし、新たなディケイドに突入する2020年。日本では先に紹介した『Download Festival Japan 2020』のほか、Slipknot主催フェス『KNOTFEST JAPAN 2020』開催(3月)も控えています。また、久しぶりのIron Maiden(5月)やWhitesnake(3月)、マイケル・シェンカー・フェスト(3月)、Dream Theater(5月)など大物のジャパンツアーも豊富。リリース面でもオジー・オズボーンやMegadeth、AC/DC、System Of A Downなどの新作に期待が寄せられています。Toolのようなリリースの仕方もあるものの、果たしてこれらのアーティストが過去と同様のリリース方針にこだわり続けるのか。CDセールスが減少傾向にある今だからこそ、パッケージの強さを誇るメタルシーンがこの先どう変化していくのかにも注目が集まりそうです。

RealSound_Best2019@Tomokazu Nishibiro

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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