西廣智一の新譜キュレーション
Russian Circles、Volbeat、Sacred Reich……西廣智一が選ぶ注目すべきHR/HM新作5作
この夏は話題性の高い新譜リリースが続いているハードロック/ヘヴィメタル(以下、HR/HM)およびエクストリームミュージック界隈。前回のキュレーション連載(Slipknot、Abbath、GYZE……西廣智一が選ぶ話題性の高いHR/HM新作6作)で紹介したSlipknotの5年ぶり新作『We Are Not Your Kind』が、全米&全英でそれぞれ1位を獲得するなど、まだまだその人気ぶりや注目度は衰えていないようです。
同作に続き、この8月も数々の力作がリリースされています。今回は日本でも注目度の高いアーティストの新作、およびこれから注目すべきアーティストの話題作を計5作品紹介したいと思います。
最初にピックアップするRussian Circles『Blood Year』は、メタル/エクストリームミュージックリスナーのみならず全音楽ファンがこの夏注目すべき1枚だと断言します。彼らはアメリカ・シカゴ出身の3ピースインストゥルメンタルバンド。今回紹介する『Blood Year』は前作『Guidance』(2016年)から3年ぶりとなる通算7作目のオリジナルアルバムで、前作から引き続きConvergeのカール・バルー(Gt)がプロデューサー&レコーディングエンジニアを担当しています。
ギターとベース、ドラムのみで構築されるインストナンバーはいわゆる“歌モノ”とは異なり、メロディが主軸となって進行するものとは異なります。が、それでも最初から最後まで飽きずに惹きつけられてしまうのは、彼らが構築する楽曲群のアレンジ力や演奏力&表現力の高さ、そして要所要所に散りばめられたトリッキーな味付けによるものが大きい。ポストロックやエクスペリメンタルミュージックの要素も感じさせつつ、メタルやエクストリームミュージック的な生々しく分厚い音像と楽器一つひとつの音の太さ、それらが折り重なることで生まれる不思議な調和と不調和からは、ジャンルの枠を超えた魅力が感じられるはずです。メタルリスナーはもちろんのこと、Deafheavenなどポストメタルのファン、MogwaiやExplosions In The Skyのようなバンドのファンにも存分にアピールすることでしょう。
続いては、2000年代のUSメタルコアシーンから誕生したKillswitch Engageのニューアルバム『Atonement』です。アメリカ・マサチューセッツ州出身の彼らは、今年で結成20周年。すでに大御所的存在の彼らが3年ぶりに発表した本作は、初代シンガーのジェシー・リーチ(Vo)がバンドに復帰してから3作目のアルバムにあたり、長らく在籍した<Roadrunner Records>を離れ、アメリカでは<Metal Blade Records>、イギリスでは<Music For Nations>、それ以外の海外は<Columbia / Sony>に移籍しての第1弾リリースとなります。
結成20周年ということもあるのか、本作の内容はある種の集大成感がにじみ出ており、かつ個々の楽曲も2〜3分台とコンパクトにまとめられ非常に聴きやすい内容となっています。また、ヘヴィさと同じくらいにメロディアスさも大切にされた楽曲群からは、メタルコアやルーツのひとつであるメロディックデスメタルから数歩抜きん出た印象を受け、もはや正統派ヘヴィメタルの枠に括られても不思議じゃないほどの王道さが感じられます。さらに、本作にはジェシー脱退後にKillswitch Engageのフロントマンを務めたハワード・ジョーンズ(現Light The Torch)や、Testamentのチャック・ビリー(Vo)といったゲストアーティストも参加。ジェシーと濃厚なボーカルバトルを繰り広げています。これは単なる記念碑というだけではなく、Slipknot同様に「これこそが今のUSヘヴィメタルの最高峰」と言いたくなるほどの傑作ではないでしょうか。