北野創の新譜キュレーション
ReoNa、EXiNA、halca、Tielle、結城萌子……新進気鋭の女性シンガーによる新作5選
halca『white disc +++』
3組目は、スウィートかつ伸びやかな歌声と愛らしいキャラクターで注目を集めるhalca。2018年にTVアニメ『ヲタクに恋は難しい』のエンディングテーマ「キミの隣」でメジャーデビューした彼女ですが、実はそれ以前から同じ事務所のミュージックレインに所属するCHiCO with HoneyWorksのライブのオープニングアクトを務めるなど、シンガーとしての経験を積んできたことで知られます。その時代にライブ会場で販売していたインディーズ盤『white disc』(現在は入手困難)に新曲を4曲加えてリパッケージしたのが、ここで紹介するミニアルバム『white disc +++』。彼女のルーツと新たな挑戦をまとめてコンパイルした、入門編にもピッタリの作品になっています。
切々とした歌を聴かせる名バラード「キミの空」、kz(livetune)が提供したポップなエレクトロハウス「Hail to the world!!」といった『white disc』収録曲が気軽に聴けるようになったのもうれしいですが、やはり注目したいのは彼女の新しい一面を知ることができる新曲群。「Distortionary」「朽葉色の音」といったアップテンポなロックチューンでは、かつてなくクールで情熱的な歌い口を披露。halca自身がファンだというシンガーソングライターのコレサワが書き下ろした「君だけ」では、“めんどくさい女子”のワガママなかわいらしさをキュートに表現しています。さらに松隈ケンタがプロデュース/作曲を担当、その松隈とJxSxK(渡辺淳之介)が作詞したロックバラード「GOING CRAZY NIGHT」が絶品と言える出来栄え。ゆったりじわじわとエモさを増していくその歌声には、デビューからの成長の度合いがしっかりと刻まれています。
Tielle『BETWEEN』
そして配信シングル『BETWEEN』でソロアーティストとしての活動をスタートさせたのが、劇伴作家の澤野弘之によるボーカルプロジェクト=SawanoHiroyuki[nZk]のゲストボーカリストとして知られるTielle(チエル)。澤野が2015年に行ったオーディションで彼の目に留まり、2016年に『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』のオープニングテーマ「Into the Sky」で世に出た彼女は、その後もGemieと一緒に「gravityWall」や「sh0ut」(『Re:CREATORS』オープニングテーマ)を歌ったほか、「VV-ALK」「CRYst-Alise」「Cage」などの楽曲で歌唱を担当。SawanoHiroyuki[nZk]の壮大な世界観を表現する歌い手のひとりとして、ライブなどを含め活躍してきました。
そんなTielleの初ソロ作品となる『BETWEEN』には、彼女と同じくSawanoHiroyuki[nZk]で歌っているYosh(Survive Said The Prophet)とトラックメイカーのDAIKIが楽曲制作で参加。繊細かつエモーショナルな美しさを湛えたバラード「good girl」と、現行のアフロポップに通じるリズミカルでスケール感のあるトラックが切なさを引き立てる「trying」の2曲を収録しています。かつてニューヨークで生活していた経験を持つ彼女だけに、どちらの楽曲も歌詞は英語が中心。ドラマティックに歌い上げる前者、ハーモニーを重ねたスムースな聴き心地の後者と、それぞれの曲調に合った歌唱アプローチでシンガーとしての表現の幅をアピールしています。彼女は自身のYouTube公式チャンネルにビヨンセ「Halo」やアデル「All I Ask」のカバー動画をアップしているのですが、そういった洋楽のポップスを好んで聴く人にこそ、ぜひ届いてほしい作品です。
結城萌子『innocent moon』
最後にピックアップするのは、声優の結城萌子によるメジャーデビューEP『innocent moon』。子供の頃からアニメ好きで、今年1月に劇場アニメ『あした世界が終わるとしても』で本格的に声優デビューしたばかりという彼女。その一方で幼少期から様々な楽器に触れて育ち、音楽学校ではフルートを専攻するなど、音楽的にも豊かな素養を持っているようです。実はかつて綿めぐみという名義でアーティスト活動を行っていたことがあり(参照:音楽ナタリー)、そのときは小袋成彬(OBKR)らが運営するインディーレーベルの<Tokyo Recordings>に所属。2014年にフリー配信された楽曲「災難だわ」などで注目を集めました。
そんな彼女の新たなデビュー作には錚々たる作家陣が参加しています。まず、4曲の収録曲全ての作詞・作曲を手がけたのは川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la Endなど)。アレンジャーには菅野よう子、ミト(クラムボン)、Tom-H@ck、ちゃんMARI(ゲスの極み乙女。)という豪華な顔ぶれが揃い、それぞれのやり方で結城の歌手としての魅力に新たな光を当てています。オープニングを飾る「さよなら私の青春」は、熱の入ったバンドアンサンブルと優雅なストリングスが景色を広げる、菅野らしいアレンジが冴える一曲。他にも、柏倉隆史(the HIATUS、toe)の奔放極まりないドラムプレイが牽引する「幸福雨」など、サウンド面の主張の強い楽曲が並びますが、それが結城のふんわり可憐なボーカルと合わさることで、エッジーだけど絶妙にポップな塩梅に着地しています。今後、声優として、歌手として、その声を求められる機会が増えていくことは間違いないでしょう。
■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。