フジロックやサマソニも席巻のオーストラリア出身アーティスト、越境する音楽性と独自の海外戦略

オーストラリア在住ミュージシャンに聞く、豪州シーンの特徴

Elle Shimada Collective

 オーストラリア国内に目をやると、各都市にシーンが形成され、アーティスト間の交流が盛んだ。この点について、先ごろ日本ツアーを終えたばかりのメルボルン出身の4人組ユニット・Elle Shimada Collective(ESC)を率いるエル・シマダに話を聞いた。

ーーESCはどんな音楽ですか?

エル・シマダ:ひとことで言うと“ダンスフロア・アクティビズム”。ジャズなどインテレクチュアルな音楽とクラブカルチャーの融合した音楽で人をつないでお互いにエデュケートしあえる空間を作りたいと思っています。

ーーUSやUKの音楽とオーストラリアの音楽にはどんな違いがありますか?

エル・シマダ:地理的にUKやUSと離れているので、アンダーグラウンドの流行に敏感でいることは難しいです。その代わり、自分たちのオリジナルな音の追求に熱心でピュアな音楽家が多い印象があります。口コミだけでカルト的な人気があるコアなローカルミュージシャンもたくさんいて、その土地に来ないとわからない音楽がたくさん隠れているのがオーストラリアのおもしろさですね。最近はジャイルス・ピーターソンや<Rhythm Section International>などのUKのキーパーソンやレーベルがメルボルンの音楽シーンに目を向けているので、もっと距離が縮まるかもしれません。

エル・シマダ

ーーオーストラリア人が音楽好きと言われるのはなぜでしょう?

エル・シマダ:遊びに貪欲なオーストラリア人は、趣味を追求することが人生をリッチにするという考え方を持っています。メルボルンでは、平日でも無料または低価格で音楽を楽しめるので、仕事帰りに生音を聞く習慣が自然に生まれています。

ーーメルボルンと他の都市の音楽シーンにはどんな共通点がありますか?

エル・シマダ:それぞれの街にいろいろな特徴があるけど、共通するのはその小ささと濃さですね。各都市におすすめのミュージシャンがいて、アデレードにはESCのメンバーでもあるアビー・ハウレットがいますよ!

ーーESCやHiatus Kaiyoteなどのジャンルにとらわれないミクスチャー感覚は、メルボルンのバンドの特徴でしょうか?

エル・シマダ:先住民のアボリジニには長い歴史がありますが、入植者の歴史は200年と浅く、メルボルンの音楽家たちにとって、いまは自分たちのサウンドをつくっている過程。だから自由でおもしろい。

 小さなコミュニティのミュージシャンには、いろいろなジャンルに対応できるハイブリッドなスキルが求められます。そうやって培った経験や、伝統音楽を含む影響に自分の色を乗せるうちに現在の音ができあがりました。Hiatus Kaiyoteのメンバーとは一緒に住んでいることもあって影響は受けていますが、他にも多くの素晴らしいバンドがいます。毎晩のようにシェアハウスでセッションすることから生まれる音の一体感がメルボルンのサウンドの特徴かもしれません。

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 エル・シマダの言葉からは、都市ごとに存在するコミュニティで繰り広げられる濃密な音楽的交流の様子が伝わってきた。英米の影響を受けながら独自の進化を続けるオーストラリアの音楽シーン。日常的に音楽に触れる国民性がアーティストを支え、Sounds Australiaが世界への橋渡しをする。ある意味でアーティストにとって理想的な環境といえるが、日本にとっても参考になるだろう。グローバルでUS、UKに続く第三極を形成しつつあるオーストラリア出身アーティストたち。来日時にはぜひその勢いを体感してほしい。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

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