ポジティブなリリックでリスナーの感情に訴える空音、18歳のリアルな“今”を語る

空音、18歳のリアルな“今”を語る

誰も傷つけたくないからこそ、ポジティブなことを歌にしたい


ーー本作のタイトル『Mr.mind』はどんな由来があるのですか?

空音:最初に表題曲「Mr.mind」を作っていたんですけど、これは自分の感情、つまり「mind」に対して敬意を込める意味で「Mr.」という敬称をつけているんです。感情があるからこそ、僕の中に喜怒哀楽が生まれ、それでリリックが書けるわけだし、それを聴いた人たちの感情に訴えかけることが出来る。つまり自分に「感情」がなくなってしまったらおしまいだと思うくらい大切なものなんですよね。

ーーアルバムの中で、「Mr.mind」や「Room 103」「planet tree」といったフレーズが、曲をまたいで繰り返し登場するじゃないですか。それによってアルバム全体の統一感が生まれているようにも思います。

空音:自分の楽曲から“セルフサンプリング”するのって、面白いなと思っていて。今回フィジカル盤には「Brighter」というボーナストラックを収録するんですが、それも自分がYouTubeに初めてアップした「yummy」というリリックビデオの続編的な内容なんです。「Love ya all」という曲の歌詞も、「Room 103」から抜粋しているし。

ーーちなみに「Room 103」と「planet tree」はどんな意味があるのですか?

空音:「Room 103」は、自分の初体験について歌った曲なんですよ(笑)。面白いと思うのは、こんな自分の超個人的体験が作品になったり、変な話だけどお金にもなったりすることなんですよね(笑)。ちなみに103は、お父さんがケータイのパスワードなどに設定していたこだわりのある数字なんです。それで何となく数字が頭の中に残っていたんですけど、繁華街を歩いていた時に目にした『ホテル103』という看板を見てインスピレーションが湧いてこのタイトルにしました。別に103号室で童貞を捨てたわけではないです(笑)。

 「planet tree」は「惑星の木」という想像上のものです。空を木に見立てていて、その木に惑星がまるで実のように成っているイメージですね。最初は特に深い意味はなかったんですけど、書き進めていくうちに空とか月とか、自分の知らない空間で起こっていることを形にしようと思って出来た1曲です。

ーーフィクションとノンフィクションが入り混じったリリックなのですね。

空音:そうですね。作り始めた頃は、自分の身の回りで起きた出来事をそのままリリックにしていたんですけど、最近は物語的な要素も入れながらリリックにすることが多いです。クボタカイくんとかも、そういう歌詞の書き方が上手い人やなと思って尊敬していますね。

 ただ、「Room 103」のような赤裸々な歌詞を書くと、自分の彼女が傷つくんじゃないかと思って心配になるですよね。「Love ya all」という曲は、今の彼女への思いと、地元の友達たちへの愛について歌っているんですけど、出来れば誰のことも傷つけたくないからこそ、さっきも言ったようにこういうポジティブなことをなるべく歌にしたくて。

ーーただ、誰一人傷つけずに表現者として自分をさらけ出すのは難しいことだと思うのですよね。そこには、それなりの覚悟が必要というか。

空音:確かにそうですね。「Rush」も割と宣戦布告的な、捉え方によっては誰かを攻撃しているリリックとも言えるし、誰かを傷つけることもあるかも知れない。でもこの道を選んだ以上、そこは覚悟して引き受けていくべきなのかなとも思っています。

ーーちなみに「Love ya all」には、〈i believe in future  きっと良くなるよ 良くなるよ〉というラインがありますが、これは皮肉でもなんでもなく、未来へのポジティブな気持ちを表現したもの?

空音:そうです。彼女が今、看護の専門学校に通っていて。結構しんどいことも多いと思うので、それを応援するような楽曲にしたかったんです。もちろん、彼女に対してだけでなく、地元である尼崎に住む友人たちに向けても「今より良くなるよ」っていう気持ちを伝えたくて書いたリリックですね。

ーーその一方で、〈なぁ my girl 君しかいないと思う 最近 だけどそうもいかない時は突然来る〉とも歌っていて。

空音:ここは彼女との「別れ」というよりは、「死」について歌っています。当たり前に明日が来るかと言われればわからないじゃないですか。そんなことを考えたときに、“何があっても きっと大丈夫”と言いたかったんですよね。

ーー〈あの道を歩くはずだった 辞めてからは スっと息が楽になった〉というラインは?

空音:高校を卒業するときに、僕は一度就職の内定をもらっていたのですが、2月の時点でその内定をお断りしたんです。音楽1本で頑張りたいという気持ちが、どうしても拭いきれなくて……。モヤモヤした気持ちのまま入社して、それで働くのもその会社に対して申し訳ないし、何より自分の生き方に嘘をつきたくなかったんですよね。

 もちろん、学校の先生にはバチボコに怒られました(笑)。「働きながら音楽を続ける」という選択肢もあったのですけど、自分と同世代の人たちが、僕が働いている間にも切磋琢磨してどんどんスキルを上げていくのかと思ったら、時間がもったいないし、できるときに全ての時間を音楽に注ぎ込みたいと思ったんですよね。

ーーところで今回、トラックメイカーはどのようにして選んだのですか?

空音:例えば、「Room 103」と「Love ya all」のトラックは、SHUNくんという福岡のトラックメイカーから送ってもらったものです。彼のTwitterアカウントは、最初フォロワー20名くらいだったんですけど、彼のヘッダー画像に惹かれたんですよね。「この人のこのセンス、もしかしたらすごいの作ってくれるんちゃうかな」と思って、メッセージを送ってコンタクトを取ってみたところ、最初に送られてきたトラックが「Room 103」だったんです。「やっぱりこの人、天才や!」って思いましたね。

ーーそれにしても、ヘッダーの画像だけでいいトラックメイカーかどうかを嗅ぎ分けられるなんて、すごい嗅覚ですよね。

空音:(笑)。ちなみに「Brighter」のトラックはRhymeTubeさんによるものです。彼はSUSHIBOYSの「DRUG」も作っていたり、踊Foot WorksのPecoriさんとも曲を作っていたりと、本当に交流関係も幅広くてすごいトラックを作る方なんですよね。Pri2mさんは、同じ関西圏のトラックメイカーで、僕と仲の良いラッパーの子がよく一緒に曲を作っているのを前から知っていて。お願いしたら、最初に送られてきたのが「planet tree」で。「これはすげえ!」ってなりました。

ーー同世代のラッパーで共感する人はいますか?

空音:昨日も一緒にご飯を食べたのですけど、同い年のMega Shinnosukeくんや、さっきも話したクボタカイくん。俺の周りにも天才はおるなと思いますね。ただ、純粋に楽曲だけで評価されているのは、『第14回高校生ラップ選手権』の中ではほんまに僕だけだと思っているので、そこはこれからも他と差をつけていきたいですね。

ーー今後、コラボしてみたいクリエイターはいますか?

空音:唾奇さんともコラボしているSweet Williamさん。まだまだ遠い存在なので、インタビューでは口にしたくなかったんですけど(笑)、今一番尊敬するトラックメイカーなので、いつかご一緒出来たら嬉しいです。それからhokutoさん。最近、念願叶って繋がることができたので、これから色々面白いことができたらいいなと思っていますね。

(取材・文=黒田隆憲/写真=はぎひさこ)

■リリース情報
『Mr.mind』
価格:¥1,500(税抜)
発売:7月3日(水)
発売元:SORANE

<トラックリスト>
01. Rush(Track:Pri2m)
02. Room 103(Track:SHUN)
03. Love ya all(Track:SHUN)
04. Selfish(Track:Pri2m)
05. planet tree(Track:Pri2m)
06. Mr.mind(Track:cheapWord)
07. Brighter(Track:RhymeTube)
※全国流通盤ボーナストラック(新曲)

空音 Twitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる