KREVAに聞く、“バンド録り直し”で表現された「ソウルミュージックとしてのKREVA」の成長

KREVA、“全曲バンドで録り直し”の狙い

 KREVAがアルバム『成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~』をリリースする。この記事はそれにまつわるインタビュー。なのだけれど、単に作品にまつわる話だけでなく、ループミュージックについて、グルーヴというものについての、一つの本質的なトークになったように思う。なので、彼のファン以外にも是非読んでみてほしい。

 タイトル通り、このアルバムは彼の代表曲の数々をツアーやライブを共にしているバンドメンバーと共にレコーディングした一枚。しかし、ただ単に「バンドで録り直したベスト盤」以上の意味が、ここには宿っている。

 KREVAはラッパーだし、彼の音楽のジャンルはヒップホップなのだが、このアルバムでは、アレンジも曲構成もほぼ同じなのに、その楽曲がソウルミュージックとして成立しているのだ。どういうことか。詳しくは以下を。(柴那典)

全部聴くことに意味がある 

ーー実は、アルバムを聴いてすごく驚いたんです。

KREVA:そうですか?

ーー「あれ? 全然違う?」って思って。で、改めて原曲を聴いてみたら、実は意外にそのまんまだった。そういう二重の驚きがあって。なので、これを聴く人には、今回のベストを聴いてから、改めて原曲を聴き直すということをオススメしたいと思ってるんですけど。

KREVA:ああ、それはいいですね。いい流れだと思う。

ーー自分の曲をバンドで録り直すというのは、いつぐらいに取り掛かりはじめたんですか?

KREVA:結構前からですね。KICK THE CAN CREWのアルバム(『KICK!』)を出したのが2017年だったんですけど、あのアルバムはその前の1年かけて作ってたんです。毎月スタジオに入って、そこで1曲できたら全部で12曲できるからって。そうやって長く期間をとっていたおかげで、曲もできたし、ギリギリで調整がきいたっていうのがあったので。バンドメンバーたちもいろんな仕事があって忙しいから、スタジオに入れるタイミングで早めに録っておこう、と。かなり長い期間をかけて、レコーディングさせてもらった感じです。

ーーということは、1年以上かけて作っていった?

KREVA:そうですね、かかってます。それこそタイトルは『成長の記録』なんで、15年の間に成長した自分のラップの上手さを見てほしいっていう意味だったんですけど、このアルバムの制作だけでも、バンドで録音物を作るという部分で成長できたなと思って。

ーーこれまで、配信とかいろんな形で1曲ずつ聴いてた人がほとんどだと思うんですけれど、17曲通して聴くと、腑に落ちる感じがあるんです。最初は「バンドでやってるんだな」「ライブの感じをレコーディングに落とし込んだんだな」とだけ思ってたんだけど、それだけじゃない説得力があるというか。

KREVA:ああ、ありがたいですね。

ーーというのも、まとめて聴くと「あ、これはソウルミュージックとしてのKREVA」なんだって気付く瞬間がある。

KREVA:そう! アツい!

ーーもちろん原曲は「ヒップホップとしてのKREVA」なんですよ。それと同じ曲の構造、同じフレーズを演奏してるのに、このアルバムはソウルだし、ファンクだし、ブラックミュージックになってるんですよね。だから、全部をまとめて聴いていると、途中で「あれ? これソウルミュージックだぞ?」って、意識のピントが切り替わるような感覚がある。そこが最初に聴いた「二重の驚き」の由来になっているという。

KREVA:ありがたい。確かにそうですね。「ソウルおじさん」たちがプレイしてるから(笑)。

ーーなので質問としては、KREVAさんとしても全曲まとまった感じの手応え、達成感みたいなものって、改めてあったんじゃないかと思うんですけれど。そのあたりはどうでしょう?

KREVA:作業自体はほんとにいろんな方向に行きながらやらせてもらってたので、まとめにかかったのは、「そろそろ曲順決めてください!」ってなってからで。で、答えとずれちゃってるかもしれないけど、その時に思ったのは「ちゃんと流れ作らないといけないぞ」ってことでしたね。最初のイメージでは、ベストアルバムだし、プレイリストみたいに曲が並んでれば俺の成長の記録になると思ってたんです。でも、ちゃんと流れを考えて作らないと、それこそただバンドで録り直しただけの集まりになっちゃうな、と思って。改めてしっかり、一つのまとまりになるように流れを考えて作ったんですよね。だから、全部聴くことに意味がある、聴き応えが出てくるって言ってもらえたなら、それはすごく嬉しい。

ーーなるほど。じゃあ、どういう流れをイメージしてこの曲順を作っていったんでしょうか。

KREVA:ひとつは疑似ライブですね。1曲ずつレコーディングしていったから、最初は並べてみたら「♪ジャーン! タカタトン!」ってドラムで締めて終わる曲ばっかりだったんですよ。でも、それをフェードアウトにしたり、打ちっぱなしにしたりして、毎回締めないように編集して曲順を考えていった。で、「♪タカタトン!」って終わる曲は、ライブでひとつのブロックの締めになるような感じに置いた。それで、飽きないように曲順を決めていった感じです。

ーーなるほど。ということは、この17曲は実はいくつかのブロックにわかれている。

KREVA:そうですね、感覚的には。だいたいライブをやってると、ダレない、気持ちいい流れになる3、4曲のまとまりっていうのがあるんです。それを意識した感じですかね。

ーーアルバムを聴いていると、前半はアグレッシブで勢いのある曲が並んでいて、中盤からメロウな曲が入ってきて、後半になってバンドが自由度を増すというか、プレイヤーの解釈を出してくるようになっている感があるんです。

KREVA:確かに、そうですね。よりバンドらしくなっているものは後半が多い。

ーーそういう流れも最後の編集作業で生まれたってことなんですね。

KREVA:そう。自分でまとめました。曲順だけじゃなく、一つ一つ整えたりしてね。

ーーバンドメンバーの話も聞ければと思うんですけれど、さっき「ソウルおじさん」って言ってたメンバーたちはライブではずっとお馴染みのメンツになっているわけですよね。

KREVA:そうですね。

ーーキーボードの柿崎洋一郎さん、ギターの近田潔人さん、ドラムの白根佳尚さん、ベースの岡雄三さん、MPCとDJの熊井吾郎さんという面々は、どういう経緯で集まってバンドになっていったんでしょう?

KREVA:きっかけは『MTV Unplugged』かなぁ。あとは久保田利伸 meets KREVAで久保田さんとご一緒させていただいた流れでバックバンドを務めていた柿崎さんと知り合ったのもあるし、その時さかいゆうがバンドにいたんですけど、さかいゆうの意見で集まったメンバーっていう感じもある。

ーーそうなんですね。実はさかいゆうさんがキーパーソンだった。

KREVA:はい。白根はさかいゆうが連れてきたんです。最初の時、ツインドラムでやろうって言ったのも、屋敷豪太さんと白根のツインドラムだったんですけど、それもさかいゆうが「クレさんのラップだったら、それくらい強い方がいいんじゃない?」みたいに言ってくれて。

ーー白根佳尚さんと屋敷豪太さんのツインドラムは相当強力ですね。

KREVA:そうですね。さかいゆうに言わせれば、白根はリズムに関しては俺とやったことでだいぶ鍛えられた、と。自分もそこに関してはずっと言ってたし。ドラム以外のことはあまりわからないけど、ドラムに関しての体感はとにかくあるので。白根にはタイミングとかの話をすごくしました。

ーー白根さんって、ヒップホップを生バンドでやる経験はあったんでしょうか?

KREVA:いや、後から聞いた話しだと、もともとはフュージョンのドラマーだったらしくて。白根が参加してたバンドはドラムの音を機械に差し替えて作品にしたりしてたので、何でもできるって感じなんです。ただ、今はいろんなところで叩いてるけど、もともとそういうタイプではなかったと思う。

ーーKREVAさんの音楽を生バンドでやるうえで、ドラムってめちゃめちゃ重要ですよね。

KREVA:そうなんですよ。

ーーどういうところが大変でした?

KREVA:これは白根だけじゃなく、初めて一緒にやる人には大抵言うことなんですけど、みんな、ラップについてきちゃうんですよ。俺はリズムの後ろにアプローチをしていきたいんですね。それがソウルっぽさというか、俗に言う黒い感じになる。ドラムの後ろに粘るようについていこうとすると、そっちに合わせてきちゃう。

ーーなるほど。ドラムのリズムに対してラップが後ろに入る。

KREVA:そう、もたってるような感じで、レイドバックしてくっついていきたい。でも、ドラムがラップに合わせちゃうと、ダダ滑りになっちゃう。だから「俺についてくんな」って言うんです。特に最初の『MTV Unplugged』の時はそうだったかな。クリックを聴いてたらその基準に対してアプローチしていくと思うんですけど、それがない生演奏だと特にそうなりがちで。たとえば、フェスとかイベントのハウスバンドでやるときも、よくそういう話をしてますね。

ーー白根さんはそこの感覚を鍛えられた、と。

KREVA:ほんとに。今は自分でノリをキープしつつ、俺のラップを感じて強弱で合わせてくれたりするので、それはすごく楽しくやれてます。ストレスはないですね。

ーー柿崎さんもキーパーソンですよね。彼は久保田利伸さんのバンドにいるし、ブラックミュージックの素養を踏まえてアレンジャー、サウンドプロデューサーとしても活躍している。彼はKREVAさんのバンドにおいてはどういう存在なんでしょうか。

KREVA:ザキさんはね、マスコットみたいな感じ(笑)。柿崎さんの鍵盤のタイミングが最高に好きなんですよ。いろんな鍵盤の人と一緒にやったことはないんだけど、ほんとに上手いなってわかる。でも、上手すぎて、あまりみんな上手いって言わないんですよ。だからいつも「ザキさんは上手いよね」って言って盛り上げてる(笑)。ただ、ザキさんはバンマスやるような人じゃないんですよね。バンマスは岡さんで、岡さんは全体を見てくれる。岡さんも上手いですね。柿崎さんと岡さんは大きいノリを持っている。

ーー近田さんはどうですか?

KREVA:コンちゃんは同い年なんですよ。俺の曲ってもともとギターが入ってないのが多いんですね。そこでフレーズを考えてくれて「それはいいね」「それはないね」って俺がジャッジしていくんですけれど、いいフレーズをたくさん出してくれますね。

ーー確かに、今回のアルバムに関しても、たとえば「基準」とか、ギターが主張している曲は多いですよね。他の曲でもわりとオリジナリティを出してきてる。

KREVA:そうですね、出してきてる。

ーーそのあたりはどうですか?

KREVA:そうだな、これはコンちゃんだけの話じゃないけど、ループミュージックの人間って、スタックというか、積み重ねで音楽を作っていくんですけど、ベースとドラムだけのところにピアノが入ってきて、サビでギターが出てくる、みたいな。でもミュージシャンって何かしら弾きたがるんだよね。だから「そこは弾かなくていい」って言うんですけど。そういうところでいうと、ザキさんは喜んで弾かない(笑)。そういう黒さというか、ゆとりがある。

ーーバンドメンバーはそれぞれ世代やバックグラウンドの違う人ですけれど、基本、ブラックミュージックの素養とか呼吸とかノリを掴んでいる方なんですよね。

KREVA:そうだね。

ーーそうじゃないと、この楽曲をバンドでやるのキツいと思うんです。

KREVA:そうですね。間違いない。

ーーで、加えて言うと、このメンバーはKREVAさんがサンプリングのネタ、ループミュージックの素材として捉えていた音楽を、演奏の対象として捉えていたメンツっていう感じがするんです。

KREVA:まさにそう! 正解! だって、ほっとくと、すぐThe Isley Brothers演奏するんですよ(笑)。曲の中でも、毎回入れてくるんですよ。で、みんないろんな仕事やってるから、誰も反応してくれない現場とかもあるみたいで。でも、ウチの現場は全員反応する(笑)。ニヤニヤしてますね。ソウルおじさんです(笑)。

ーーそれがKREVAさんのクリエイティビティに影響を与えたりもしています?

KREVA:それもまさにですね。これはKICK THE CAN CREWの話だけど、「千%」だって、そういう風にできた曲なんですよ。あれはザキさんと一緒に演奏したのを俺がサンプリングしてできてるんです。

ーーなるほど。やっぱりそこの音楽言語が共通してるっていうのがデカい。

KREVA:いやあ、めちゃめちゃデカいですね。自分はソウルミュージックとして聴いていないんですよ。あくまでサンプリングソースとして自分なりに掘って知ってるんです。それでも、知識はちゃんとある。そこが重なってるのは大きいですね。もちろん、そこはクマ(熊井吾郎)も含めて。だから、自分が初期のヒップホップ、サンプリングベースのヒップホップを通ってきてるのはデカいと思います。

KREVA 「音色 ~2019 Ver.~」Music Video short ver.

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