『米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃』幕張メッセ公演
米津玄師の求心力はどこから生まれるか? 最新ツアーに見た“変化し続けるカリスマ”の姿
一挙一動に注目が集まるという点で、今の米津玄師ほど強力な求心力を持つアーティストは稀だろう。特に「Lemon」ヒット以降の彼は国民的スターと呼べる存在となりつつある。では、米津玄師の求心力やカリスマ性はどこから生まれ、どんな特徴を持っているのだろうか。それに対するひとつの答えが、3月11日の幕張メッセ『米津玄師 2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃』最終公演のステージにあった。
「Flamingo」で幕を開けたこの日のライブ。鉄骨で組まれたステージセットは一見シンプルであるが、「LOSER」でステージ自体がゆっくりと上昇すると、会場の熱気は一気に高まった。米津がギターの中島宏士、ベースの須藤優、ドラムの堀正輝と生み出すのは、バンドサウンドと電子音が融合した幻惑的なサウンドである。まずは現在の米津のパフォーマンスと音楽性をダイレクトに伝えるオープニングといえるが、そこからステージはパーソナルな色彩を強めていく。米津がギターを手にした「飛燕」「かいじゅうのマーチ」あたりからは、卓越したシンガーソングライターとしての米津が強く印象付けられた。パーソナルな情景を哀切を込めて歌い上げる姿は、ある意味で古典的な才能と言っていいかもしれない。
もちろん、米津玄師への信頼はそうした「ギターと歌」で表現される情景によるところは大きい。しかし、それだけでは今の彼が発する表現の強さを示すことはできない。圧巻だったのは、2名のダンサーを伴って登場した「Moonlight」からの流れだ。光量を落とした会場内にアブストラクトな電子音が響き渡り、幻想的ながらも張り詰めた空気が生まれていく。10数名のダンサーがステージ中央で体を揺らした「amen」は、まるでひとつの聖なる儀式が立ち上がっていくかのようであった。それは確かに米津玄師の身体から生まれた音楽であるが、広がり方はもはや身体という制約を超えている。ファルセットとシャウトを巧みに使い分けた歌声、バンド演奏と電子音を重ねたサウンド、そしてシアトリカルなステージ演出。それらが一体となって巨大なペルソナのような存在となり、会場の空気を掌握していくのだ。ドラムパフォーマンス集団=鼓和-core-を率いて花道を歩いた「Undercover」で、その劇的なパフォーマンスは頂点を迎えた。
一方、そうした空間を作り上げつつも、バンド演奏の楽しさやダイナミズムを決して手放さないのが今の米津玄師でもある。「ピースサイン」「TEENAGE RIOT」といった楽曲ではパンクバンドのような直情的サウンドを展開し、ライブを重ねる中でバンド演奏の切れ味がさらに増していることを伝えていた。