星野源が『おげんさんといっしょ』で表現したこと 『紅白歌合戦』5分間のインパクトを振り返る

星野源が『おげんさんといっしょ』で表現したこと 『紅白歌合戦』5分間のインパクトを振り返る

 昨年12月31日に放送された『第69回NHK紅白歌合戦』。

 ピアノを奏でるYOSHIKIの後方からサラ・ブライトマンが荘厳な雰囲気を身にまとって登場するとNHKホールに大きなどよめきが起こった。

 「Miracle」を歌い上げる彼女の歌声は神々しさすら漂っていた。

 そんな壮大なステージから一転、「ある方のおうちに中継が繋がっていますー」と映し出されたのが、こじんまりとしたキッチンだった。

 そこにところ狭しとギュウギュウに入っていたのが『おげんさんといっしょ』の「おげんさん」一家。星野源扮する「おげんさん」はカメラを向けられると「温度差すごすぎない?」と笑った。

 一家は、お父さん(高畑充希)、長女の「隆子」(藤井隆)、おげんさんちのねずみ(宮野真守)といういつものメンバーに加え、2回目のゲストだった次男の庭師(三浦大知)も参加し、さらにはバンドメンバーも集合。途中からは“酒屋さんのバイト帰り”の雅マモルまで登場した。

 台本のない自由なやり取りから始まり、おげんさんの「日本のみんな、一緒に歌うぞー!」という呼び掛けで一家みんなで「SUN」を歌う。“余所行き”のような形ではなく、“実家”に帰ってきたかのように、全力で力を抜いた番組そのままの形での“出場”は極めて異例だ。

 米津玄師の初出場、北島三郎の再登場、サザンオールスターズの会場全体を巻き込んだステージからの桑田佳祐とユーミン(松任谷由実)のキス……など盛りだくさんで大いに盛り上がった『第69回NHK紅白歌合戦』。基本的にはお祭り騒ぎの中にも常に緊張感を漂わせている『紅白』だが、今回は、どこか緩やかな雰囲気があってバランスが良かったのも番組としての満足度を高めていた。その要因は内村光良の安定した司会など様々あるだろうが、そのひとつに、「おげんさん」一家の約5分間があったから、というのは言いすぎだろうか。

 星野源自身も『紅白』後に放送されたラジオで、かつて山下達郎に言われた「NHKホールっていうのは『紅白歌合戦』に出場してきた名だたる先輩たちの血が滲んでる場所なんだ。『紅白歌合戦』というのは本当に一生かけて、命をかけて歌う場所である」という言葉を紹介しつつ、過去出場した『紅白』でのいい緊張感を振り返っていた。しかし、今回は少し違っていたようだ。「緊張感を背負うというよりかは、非常に楽しい感じ。なんか、よい波に乗れた」とリアラックスできて臨めたのだという。なぜならそれは「『おげんさん』があったおかげ」だと(『星野源のオールナイトニッポン』2019年1月8日)。

 そもそも「おげんさん」一家が登場する番組『おげんさんといっしょ』(NHK総合)は、2017年5月4日に第1弾、翌年8月20日に第2弾が放送された星野源による音楽バラエティだ。第1弾は、ギャラクシー賞の月間賞に選ばれた上、年間でも奨励賞を受賞。23時台のわずか1時間の放送にもかかわらず、Twitter上では「#おげんさん」のハッシュタグ付きツイートがあふれ、その数は4時間を超える『紅白』に匹敵する約30万件にのぼる大反響を巻き起こした。第2弾ではさらにその倍の60万ツイートを超え、Twitterのトレンドの世界1位にもなるほどだった。

 音楽バラエティはいまではあまり作られなくなってしまっているが、テレビ史的にいえば、『夢であいましょう』や『シャボン玉ホリデー』から『今夜は最高!』などを例に出すまでもなく、決して珍しいものではない(前述の桑田佳祐とユーミンの組み合わせでいえば、『メリー・クリスマス・ショー』という伝説の番組もある)。というよりは、むしろ音楽バラエティの歴史はそのままテレビバラエティ史でもあるともいえるほど、テレビの王道だった。いまは、バラエティ=お笑い芸人のもの、という風潮があるが、そうなったのは、せいぜい80年代に起こった「MANZAIブーム」から。それまでは、文字通りバラエティ。ミュージシャンを中心に、アイドル、芸人、放送作家、俳優、文化人が入り乱れて番組を作っていた。

 植木等(クレイジーキャッツ)、堺正章、ザ・ドリフターズ……と、脈々と続くテレビタレントの王道もまた多くがミュージシャン出身だ。そう考えれば、星野源もまたその系譜のひとりだといえるだろう。

 星野が『おげんさんといっしょ』のコンセプトとして掲げたのは「ダラダラしたリハーサルのような番組」。

 星野がリハーサル感にこだわったのは、いま主流の音楽番組とは違うものにしたいと思ったからだという。いまの番組は、ミュージシャンの一番いい演奏、一番いい表情を撮ろうとする。そのために環境を整え、カメラワークをしっかり決める。おのずと緊張感が高まり、それ故、完成度の高い音楽を見せることができる。それも音楽の魅力の一つだろう。『紅白』は、その最高峰といえる。

 だけど、音楽の魅力はそれだけではない。星野は言う。

 「リハーサルスタジオとかで生まれる、『もう本番じゃないからいろいろやっちゃってみよう』みたいな感じで適当にみんながやっているんだけど、なぜかそこにはそこにしかないグルーヴみたいなものが生まれる時があって。そこに音楽のもう1種類の喜びみたいなものがある」(『星野源のオールナイトニッポン』2017年5月9日)

 まさに『紅白』で「おげんさん」一家によって歌われた「SUN」は、そんないい意味での力の抜けた「適当」さがあった。

 4時間半の中の、唯一台本のないわずか5分間。けれど、その5分弱の時間で、『紅白』の価値観とはまったく別方向のそれを表現したインパクトは大きかった。音楽はどんな風にでも楽しめる。それを『紅白』という国民的な舞台で軽やかに見せつけたのだ。

 『おげんさんといっしょ』が特異なのは音楽番組としてだけではない。バラエティ番組としてもいまの主流の番組とは一線を画している。

 いまのテレビは、時に過剰と批判されるほど、サービスが行き届いている。象徴的なのはテロップだろう。いかにわかりやすく、また途中から見てもわかるように説明されている。“ムダな部分”は排除され、面白かったり、衝撃的だったりする部分が隙なく連なっている。少しでも飽きさせないように秒単位で作り込まれているのだ。だけど、本当はムダな余白にこそ、人間味が宿っているものなのだ。そこが排除されているから何だか味気なく感じてしまう。

 よく生放送の醍醐味は、何が起こるかわからないハプニング性だと言われる。だけどそれだけではない。もうひとつの大事な要素として、編集ができないためにそのまま“ムダな部分”が放送されることも魅力の一つだ。 

 「怖すぎるわよ、この番組!」と藤井扮する隆子がしきりに言っていたように、番組ではテレビ的な決め事を極力排していた。段取りが増えれば増えるほど、ムダな時間が入る余地が少なくなってしまう。「ダラダラしたリハーサルのような番組」を目指した『おげんさんといっしょ』はまさにそうした魅力的なムダが心地よく流れていた。『紅白』でも取り入れられた冒頭の台本のないやり取りは「おげんさん」一家にとって欠かせないものなのだ。

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