ニューアルバム『バタフライ・アフェクツ』インタビュー
ソウル・フラワー・ユニオン 中川敬、ロックンロールを続ける意義「一人ひとりの物語を歌いたい」
ソウル・フラワー・ユニオンが、ニューアルバム『バタフライ・アフェクツ』をリリースした。前作『アンダーグラウンド・レイルロード』より約4年。前回に続き、リアルサウンドでは音楽評論家の小野島大氏を迎え、中川敬にインタビューを行った。今作は、ドラムにJah-Rahが加入した、新生ソウル・フラワー・ユニオンとしての作品。新体制の経緯から制作について話を聞く中で、改めて中川が考える自身の歌、バンド、ロックンロールについての思いを聞くことができた。(編集部)
音楽がより日常化した
ーー4年ぶりの新作です。
中川敬(以下、中川):去年、自分の4作目のソロアルバム『豊穣なる闇のバラッド』(2017年)を作り終わって、腰を痛めたりしながら最後の3カ月で40本くらいライブをやってる最中、とにかく来年、2018年1月から、まったく白紙からソウル・フラワー・ユニオンの曲を書き始めよう、と。一切、録り溜めたり、書き溜めたりしてた歌詞やメロディを使わずに。
ーーじゃあストックは一切なし?
中川:ストック使用は今回一切なし。で、年内にアルバムを出すと。これが達成できたら、そういうタイムスパンでバンドのフルアルバムを出すのはニューエスト・モデルの『クロスブリード・パーク』(1990年)以来やな、と。これを自分に課そうっていう感じで作ってきたから、今完成したところで、今作がどんな作品なのか自分でも客観的によくわかってないところがある。
ーーなぜそういう作り方にしようと思ったんですか?
中川:2011年以降、自分のソロアルバムを4作作って、その間にソウル・フラワー・ユニオンとしては『アンダーグラウンド・レイルロード』(2014年)しか出してなくて。その間にメンバーも変わったしね。なので、違う意気込みで、新しいバンドを作ったみたいな気持ちで取り掛かろうかな、と。だから曲をまったく白紙から、一から書こう、と。新バンドのファーストアルバムを作るような気概の中に自分を置いてみる、という感じ。
ーー前作の話を聞いたときも、心機一転というか、ここから新しいソウル・フラワーが始まるみたいな話を聞いたような気がする。
中川:あの頃はベースの阿部光一郎が入ったところでね。あそこから始まってるような気はすんねんけど、ただ、さあ始めるぞ! と思ったらメンバーが抜けてしまったからね(伊藤考喜(Dr)が脱退)。田舎の親の面倒をちゃんとみたいから抜けたいと。
ーーなるほど。そこから立て直しに少し時間がかかった?
中川:でもまあ、若い頃のメンバーチェンジほどバタバタはしなかったよ。俺も弾き語りで全国を回りながら、どこかにいいドラマー落ちてないかな~みたいな感じで下を見ながら歩いてたから(笑)。考喜も後任が見つかるまではちゃんとやるって言ってくれて。考喜には、辞めるって言い出してから2年ぐらい叩いてもらったかな。で、Jah-Rahと出会った。
ーー彼が入って変わりました?
中川:かなり大きく。最高のロックンロールドラマーやった。
ーーああ。そういうドラマーだから雇ったんじゃなくて?
中川:基本的にうちのリズムはハチロク(6/8拍子)が多くて。あと、2ビートや4ビート系であったり。そういうのをずっとやってるドラマーって俺らの同世代ではあんまりいないんよね。奥野(真哉)なんか俺よりもセッション仕事をたくさんやってて、東京のミュージシャンも多く知ってるから、ドラマーの名前をガンガン出してくれるかなと思ったんやけど、ソウル・フラワー・ユニオンでやれるドラマーは日本にはいないんじゃないか、とか言ってるし、全然名前も挙がらないし、正直、始めの1年ぐらいはかなり困っててね。かといって、歴々たるベテラン勢、10ぐらい年上の小野島くんぐらいの世代の人って何かややこしいやん(笑)。そういう世代の熟練ドラマーとやるのもしんどいなと思って、気ばっかり使わなあかん、この俺が(笑)。地方を弾き語りで回ってね、各地の友人にぼやくわけですよ。どっかにええドラマーいいひんかな? ソウル・フラワーで叩けそうなヤツ、知らん? みたいな。そこで2、3回、Jah-Rahの名前が出てきてね。そんな中、あるとき、CHABOさんの麗蘭を見に行ったらJah-Rahが叩いてて、ふーん、ええドラマーやん、みたいな。ピアスちょっと入れすぎやけど(笑)。それで各地で出てくるその名前と、ドラムスタイルが一致した。元THE EASY WALKERSっていうことで、元SHADY DOLLSの高木克に、一回会ってくれって言って。「どうせツレやろ?」「うん、友達だよ~」(笑)。金にならへんバンドやけど夢があるバンドなんだよね、ってちょっとJah-Rahに言ってみてくれへん?みたいな。
ーー(笑)。なるほど。
中川:で、高木克がJah-Rahに会ってみると、Jah-Rahのほうも興味を持ってるみたいな感じがあったから、じゃあ1回セッションしましょうかと。それが2016年の春。そこから徐々に。正式に入ったのは去年2017の年始やったね
ーー私が新生ソウル・フラワーのライブを初めて見たのが2017年の7月でしたが、確かに彼が入ってバンドがぐっとエネルギッシュに、開放的になった印象です。彼のスタイルにバンド全体が引きずられたっていうところもあるわけですか?
中川:そうやね。2017年は、ベースの(阿部)光一郎も入ってまだ3年ぐらいやし、俺はリズム隊の傾向を見定めてるみたいな1年間。その1年前の2016年がニューエスト・モデルの30周年で、ニューエスト・モデルの曲をたくさんやったりとかしてた。新しいリズム隊になってからも、ソウル・フラワー・ユニオンの代表曲をやったりとか、期せずして2016年と2017年がこの30年強の間に俺が書いてきた楽曲をたくさんやる2年間になったんよね。そういう中で、Jah-Rahは一体どういうタイプの楽曲で光るんやろうな、っていうのをずっと探ってた。
ーー彼ができることとできないことみたいな?
中川:もちろんじっくりと取り組めば何でもできるとは思うけど、パッとやりたいからさ。あと「見定める」っていうのは、「出来る出来ない」の話じゃなくて、クセやスイング感のような部分で。そんな中、自然と俺の中でも、10代の頃にかなり聞いてたロックミュージックやノーザンソウルのほうに立ち戻ることにもなったというか。
ーーでもそれは正解だったというか、かえって焦点が絞れたかんじ。
中川:それもあるし、考え方もシンプルになってる、今、俺は
ーーみんな感じると思うけど、今作はニューエスト的な音になってる。前作もちょっとニューエストっぽいところがあって、中川敬自身がそういうモードになってるのかなと。
中川:あんまり考えないと、こうなるみたいな部分もあるねんけどね。結局自分のオハコというか、お里が知れるというか。モッズミュージックが大好きで、ソウルミュージック大好きやねんけど、バンドでやったらパンクっぽくなってしまう、みたいな(笑)。初期ニューエスト・モデル的な。自分の、演奏するうえでの原風景みたいなものは変わらないからね。
ーー前インタビューやったときに話に出たのが、アウトプットがソロとかソウル・フラワーとかモノノケ(ソウル・フラワー・モノノケ・サミット)とか、いろいろできてきたから、以前みたいにソウル・フラワーに全部ぶち込まなきゃいけないって、そういうのがなくなってきたんじゃないかと。
中川:うん、それはある。なんせ一週間に1日か2日は必ず全国のどこかで歌ってるわけやからね。今までのどの時期よりも歌ってる。あんまり深く考えることもなくなった。その時やりたいことをサクサクやっていく。
ーー頭は完全に切り替わっちゃう。
中川:なんか知らんうちに切り替わっちゃったんかも。ほんと歌いまくってるよね~。その一方で3カ月に一度の、東京・大阪中心の(ソウル・フラワー・ユニオンの)ツアーはもう20年続いてる。音楽が、より日常化したっていうか。