UNCHAIN、自由を追求して到達した“境地” 最新作『LIBYAN GLASS』を紐解く
過去のインタビュー記事によれば、UNCHAINというバンド名には、三つの由来があるらしい。一つ目は、板垣恵介の漫画『グラップラー刃牙』の登場人物、ビスケット・オリバの“ミスター・アンチェイン(繫がれざる者)”という異名から。二つ目は、レイ・チャールズの1961年の名曲「Unchain My Heart」から。三つ目は、その「Unchain My Heart」をもとにリングネームを付けたボクサー、アンチェイン梶のドキュメンタリー映画『アンチェイン』(2001年、豊田利晃監督)から。しかしながら、たとえバンド名の由来など知らなくとも、彼らの新作『LIBYAN GLASS』を聴けば、その言葉の意味はとてもしっくりくる。“UNCHAIN”、すなわち“鎖から解き放たれた状態”。『LIBYAN GLASS』は、自由を求めて歩き続けたバンドが辿り着いたひとつの境地ともいうべき、素晴らしいアルバムだ。
前作『from Zero to “F”』以来、アコースティックアルバム『Get Acoustic Soul』を挟み、約1年3カ月ぶりのオリジナルアルバムとなる『LIBYAN GLASS』。リード曲としてMVも公開された1曲目「Libyan Glass」は、結成から22年のキャリアを経て初めて、吉田昇吾(Dr)が作曲を担当した楽曲だという。22年経った今なお、バンドに新しいコンポーザーが生まれるという事実にまず驚かされるが、そのサウンドもまた新鮮だ。プロデューサーにはカバーアルバム『Love & Groove Delivery』も手掛けた名村武を迎えた本曲で聴こえてくるのは、ホーンやピアノも加わった、しなやかに躍動するバンドアンサンブル。トラップ以降のヒップホップやR&Bに馴染んだ耳にもフィットする緩急のある曲展開の中で、全ての楽器の音が一切殺し合うことなく見事な調和を保ちながらグルーヴを形成している。
ロサンゼルスでトップライナー(分業制曲作りにおいて、メロディを作る役割のスタッフ)と曲作りを行ったという前作『from Zero to “F”』は、隙間の多いミニマルで軽やかなアンサンブルが風通しのいいサウンドを生んでいたが、『LIBYAN GLASS』に収録された全12曲に広がるのは、様々な音が重層的に響き合いながらも、決して重たさはない、まるで聴き手を踊らせながらも抱きしめるような、激しさと穏やかさが混ざり合った音世界だ。“ジャズやファンク、ソウルなど、ブラックミュージックを昇華したロックサウンド”と簡単に言葉にしてしまえばこれまでのUNCHAINと変わらないが、しかし、この繊細なアレンジメントによって生み出されたバンドアンサンブルは、円熟の域に達していると言っていいだろう。