奇妙礼太郎が語る、アルバム制作過程で見えた自分の役割 「強迫観念みたいなものから解放された」

奇妙礼太郎、新AL制作で見えた役割

 奇妙礼太郎が、メジャー2ndアルバム『More Music』を9月26日にリリースした。

 同作は、前作『YOU ARE SEXY』から約1年振りのリリース作品となっており、過去に「君はセクシー 」や「Nobody knows 」を作詞作曲した田渕徹(グラサンズ)、京都を拠点にソロで活動する吉田省念が参加。現在公開中の映画『愛しのアイリーン』(𠮷田恵輔監督作)の主題歌「水面の輪舞曲」(作詞作曲:田渕徹 編曲:岩城一彦 )をはじめ、奇妙礼太郎、田渕、吉田の共同作業から生まれた彩り豊かな全11曲が収録されている。

 なぜ奇妙礼太郎が田渕と吉田というミュージシャンをパートナーに迎えたのか、そして3人の気鋭のシンガーソングライターがどのようなやりとりから『More Music』が紡がれていったのか。奇妙礼太郎に、『More Music』の全貌を深く語ってもらった。(編集部)

『More Music』のはじまり

奇妙礼太郎

――奇妙さんは、アニメーションズ、TENSAI BAND Ⅱなど、さまざまな形態で活動されていますが、ソロとしては『YOU ARE SEXY』以来約1年ぶりとなるアルバム『More Music』が、順調に完成しましたね。

奇妙礼太郎(以下、奇妙):そうですね。順調に完成したのは、ほとんど一緒に作業をしてくれた人たちのおかげなんですけど(笑)。

――(笑)。今回のアルバム制作は、どんなところからスタートしたのですか?

奇妙:一応、9月の下旬頃にアルバムを出すっていうのを決めて、今年の春ぐらいから、どんなふうにしようかなっていうのを考え始めたんですけど、まるっきりひとりで何かを作ったりするっていうのをやり始めたら、多分100年ぐらい掛かりそうやなって思って……。

――以前から、ひとりで作詞作曲をしたりするのは苦手だって言っていましたよね。

奇妙:そうなんですよ。そういうのが自分は苦手なので、まずは誰と一緒に作業したいかっていうのを、ふんわり考え始めたりしていたんですけど、その頃に映画の主題歌の話がきて……。

――𠮷田恵輔監督の『愛しのアイリーン』(9月14日公開)ですね。

奇妙:はい。それで台本をいただいて、原作漫画も読んでみて。『愛しのアイリーン』は、自分のまわりにもファンの人がいっぱいいますし、すごい漫画ですよね。普通に生きていたらちょっと会わないぐらい激しい感じの人ばかり出てくるというか。「この人、自分に似てるな」みたいな感じの人が、ほとんど出てこないじゃないですか。何か“幸せ”っていう強迫観念みたいなものに突き動かされている人たちの話というか。そういうものを読みながら、これは田渕(徹)くんに書いてもらったほうが、いいなあと思ったんですよね。田渕くんは、前のソロアルバムでも2曲書いてもらっているんですけど。

――「君はセクシー」と「Nobody knows」の作詞作曲を担当されていましたよね。

奇妙:そうなんです。田渕くんは、シンガーソングライターであり、グラサンズっていうバンドのフロントマンでもある人で、昔からの知り合いなんですけど、僕は彼の書く曲が大好きで、彼の書く歌詞とかも、すごい好きなんですよね。自分に無いものを持っているというか、自分が書くと、どうしても“思ったまんま”みたいな歌詞になっちゃうんですけど、田渕くんの歌詞は、すごい言葉がちゃんとしてるなって、いつも思っていて。

――なぜ『愛しのアイリーン』の主題歌は、田渕さんが書いたほうがいいと思ったのですか?

奇妙:何て言うか、田渕くんが持っている、苦しい人とか弱い人とか、そういう状態にある人に対する姿勢とか目線が僕は好きなので、自分が書くよりも何か良いものができるんじゃないかなって思ったんです。で、「こういう話が来ていて、一緒に仕事したいんですけど、どうですか?」って連絡したら、「いいですよ」っていう話になって。で、一緒にスタジオに入って、歌ってみたりしながらできたのが、この「水面の輪舞曲」という曲なんですけど。

――実際、できあがってみて、どうでしたか?

奇妙:いやあ、何かやっぱりいいなあと思いました。〈夜の河原で 愛が溺れた〉という出だしの一行で、はっきりイメージできるというか、僕は何かすごい、“三途の川”っぽいなと思って。そうやって、自分からは絶対出てこないような単語がいっぱいあって、すごくいいなあと思いました。

――曲調も含めて、どこか昔の歌謡曲的なところがありますよね。

奇妙:ああ、そうですね。カタカナ英語とかも、いっさい出てこないので。

――それを歌う奇妙さんの声も、ちょっとこれまでとは違うように思いました。

奇妙:ああ……この曲は、京都のPirates Canoeっていう、僕の知り合いのバンドにアレンジと演奏をお願いしたんですけど、歌入れに関しては、声とかで過剰な装飾をつけたりするのは嫌やなあと思って。単純に、その曲の良さが伝わったらいいなあっていう感じで、何かそういうのに気をつけて歌いましたね。必要以上に大きい声を出したり、高い音を出したりするのはやめようって。

――映画のほうも拝見させていただきましたが、壮絶な終わり方をする物語の登場人物に対する“たむけ”のように、この曲が静かに響いてきて……それがすごく合っているように思いました。

奇妙:ああ……それ、いいですね。確かに、たむけているような感じの歌ですよね。

田渕徹、吉田省念との制作風景

――で、この曲が完成して、そのままアルバム制作に突入するのですか?

奇妙:そうですね。そのまんま何か2人でというか、この感じで作業していくのがいいなあと思って。僕は、書いた歌詞とかを2人で見ながら、「ここがいい」とか「ここは別の言葉のほうがいいなあ」とか、そういうやりとりをしながら作っていくのが、すごい好きなので。

――そういえば、前回のソロは、中込陽大さん(gomes)と共同作業で作っていったんですよね?

奇妙:そうですね。ただ、前作のときは、曲とか歌詞を一緒に作りながらっていうのではなくて、楽器を持って一緒にスタジオに入って、即興でいろいろやりながら、それをそのまま録っていくみたいな感じだったんです。で、それをgomesさんが、編集してくれるっていう。だから、誰かと一緒にやるのは同じでも、やり方としては、今回だいぶ違うんですよね。田渕くんとは、録音とかする前の段階から、一緒にスタジオに入って作業をしていたので。

――なるほど。そうやって、田渕さんと一緒に作業をしながら……まずは、どのあたりの曲ができていったのでしょう?

奇妙:ええと、何からできたかなあ……そういうの、すぐ忘れてしまうんですよね(笑)。あ、最初に「エロい関係」っていう1曲目に入っている曲をやり始めました。この曲は、もう曲と歌詞が全部あって、ライブとかでもひとりで歌ったりしていて、そこまではできていたんですけど、田渕くんと「アレンジと演奏は、どうしようか?」っていう話になって……そのとき、(吉田)省念くんのことを思い出したんですよね。

――あ、そこで吉田さんが出てくるわけですね。

奇妙:ええ。田渕くんと同じ感じで、省念くんとも、一緒に仕事したいなあってずっと思っていたんですよね。で、聞いてみたら、「いいよ」って言ってくれたので、そこから省念くんの京都のスタジオに田渕くんと一緒に行って、3人でいろいろ話したりして。で、そのあと、省念くんが京都のスタジオで作った、ドラムとかベースとか、いろんな楽器が入ったオケを東京に送ってもらって、それをスタジオで聴きながら歌を入れて、それをまた京都に送り返して……みたいな作業も、今回は割としましたね。

――今、話に出た「エロい関係」をはじめ、今回のアルバムは、バンド一発ではない、細やかなアレンジが施された楽曲が多いですよね。

奇妙:そうですね。それはもう、省念くんが、アレンジはもちろん、ほとんどすべての楽器を演奏してくれていることが大きいと思うんですけど……。

――そう、クレジットを見ると、アレンジはもちろん、ギター、ベース、ドラム、キーボードに至るまで、ほとんどの楽器を吉田さんが担当している楽曲も多くて……奇妙さんから見て、吉田さんというのは、どういうミュージシャンなのですか?

奇妙:省念くんも、出会ってから10年以上経ちますけど、大体のバンドマンって……自分がそうなんですけど、自分のバンドの曲を、自分のパートだけを演奏するって感じじゃないですか。だけど、省念くんは、弾ける楽器の種類の多さはもちろん、その技術とか知識みたいなものが、もう段違いにすごいんですよね。たとえば、モータウン調の曲をやりたいなって思ったときに、僕やったら何とかしたい気持ちだけがあって、実際どうしたらいいかわからないんですけど、省念くんやと、そういう音楽のドラムとかベースとか鍵盤とか、あと管楽器がどうなってるのかっていうのが全部わかっていて、それをわかった上で、自分でドラムを叩いて、自分でベースとギターを入れて、「こんな感じだよね?」っていうことができるので……もう、魔法みたいやなと思っていて。そんなことできる人、僕は他に知らないですから。

――なるほど。

奇妙:ホント、めちゃくちゃすごいんですよ。だけど、省念くんは、自分でそれを言うとか無いんですよ。今回のアルバムには、省念くんが弾いてるチェロの音とかもいっぱい入っているんですけど、僕、自分がチェロとか弾けたら、めっちゃ他人に言うと思うんですよね。

――(笑)。

奇妙:そういうところが、省念くんの素晴らしいところなんです。

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