UNCHAIN、自由を追求して到達した“境地” 最新作『LIBYAN GLASS』を紐解く

UNCHAIN、新ALで達した“独自の境地”

 バンドの公式ブログによれば、アルバムの全体像は「Libyan Glass」からイメージを膨らませることで生み出されていったという。細かく見てみれば、「FLASH」や「Miracle」、「 Da,Da,Da,Da,」といったUNCHAINらしいファンクネスが光る楽曲はもちろんだが、新機軸も見られる。細かく刻まれるギターとベースの狭間を滑らかに流れていくコーラスが心地いい「Traveling Without Moving」や、流麗なシンセと絶妙に配置されたエレクトロニクスがロマンチシズムを演出する「butterfly effect」、さらに、浮遊感のあるバックトラックが印象的なUNCHAIN流ヒップホップ「アイスクリーム」、インダストリアルなビートと、ピッチを下げたと思しき谷川正憲(Vo/Gt)の不穏な歌声が響く、Jam Cityあたりが作ったと言われてもしっくりくるエレクトロトラック「33」、そして、開放感溢れるゴスペルコーラスが美しい「I Am」など、楽曲のレンジはかなり広い。

 この文章を書いている時点で詳細なクレジットはわからないが、「Libyan Glass」や「FLASH」などのホーンには元BRADIOの田邊有希が関わっているようだ。他にも現時点でわかっている範囲では、「Traveling Without Moving」や「-Beyond The World-」、「I Am」のコーラスには中ノ森文子が、「FLASH」の作詞にはねごとの蒼山幸子が参加している。

 恐らく本作の制作において、彼らの中に禁じ手はなかっただろう。ここにはファンクがあり、ロックがあり、歌謡があり、ヒップホップがあり、エレクトロがあり、ゴスペルがある。ただ、UNCHAINがUNCHAINであろうとして生まれたアルバム……『LIBYAN GLASS』は、そんなアルバムだ。

 今の時代、“ミクスチャー”という言葉で音楽を説明することが成立しなくなるほどに、様々な音楽性が“ミクスチャー”されていることは、特にポップスの世界においては当たり前のことだ。しかし、そんなミクスチャーが前提の時代だからこそ、あらゆる要素が混ぜ合わされた上で立ち上がってくるアーティストの“個性”や“自我”のようなものに、聴き手は惹かれるものだ。

 ソリッドなロックスタイルに、ブラックミュージックのエッセンスを昇華するところから始まったUNCHAINの“自我”の探求は、椎名林檎やスピッツ、少女時代からマイケル・ジャクソン、アデル、ブルーノ・マーズにまで波及したカバーアルバム『Love & Groove Delivery』シリーズの制作や、鬼束ちひろやオーイシマサヨシなどとコラボレーションした『20th Sessions』などを経て、他に似た者のいない、あまりに独自な境地に達している。

 この『LIBYAN GLASS』には、『Love & Groove Delivery』でカバーした山下達郎や岡村靖幸にも通じるブラックミュージックへの愛情があり、カニエ・ウェストやチャンス・ザ・ラッパーといった、今世界に向けてポップスを生み出し続けているアーティストたちへのシンパシーがあり、そして、ロックバンドとしての原初的な喜びがある。それらの全てを、彼らにしか鳴らせない音像で包み込んだUNCHAINの“自我”を、このアルバムでは堪能することができる。

 最後に、歌詞にも触れよう。特に 「33」、「I Am」という谷川が作詞をしたラスト2曲が印象的だ。「33」は谷川が33歳の時に作ったという曲。アルバムの中でも異色なダークなサウンドの中で、〈I'm 33 and I struggle to be free〉という当時の谷川の苦悩が、まるで独白のように歌われる。そして、続く「I Am」では、雄大なゴスペルコーラスと共に〈I am, 代わりはいない 変えられはしない   I am, 私でなければ 私を成し得ない〉と、人が“自分自身”であることの強さが歌われる。両極端な2曲だが、この2曲を続けて聴いた時に感じるのは、“自分自身であること”とは決して、いつでも幸せを謳歌することではないのだ、ということ。自由を求めて苦しむ、その姿もまた、自分自身のあるべき姿であり、否定すべきものではない。「33」と「I Am」を最後に並べることで、谷川は苦しみすら自分自身であることの誇りに変えている。

 “自由である”ということは、痛みや悲しみも含めた、全ての感情を“それが自分なのだ”と受け止めた先に生まれるものなのだと、『LIBYAN GLASS』は伝えているようだ。

■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。Twitter

UNCHAIN『LIBYAN GLASS』

■リリース情報
ALBUM『LIBYAN GLASS』
2018年9月26日(水)発売 
CRCP-40561 ¥2,963+tax

※初回生産分のみスリーブケース付き

<収録楽曲>
1.Libyan Glass
2.FLASH
3.Traveling Without Moving
4.butterfly effect
5.Miracle
6.-Beyond The World-
7.Behind The Moon
8.アイスクリーム
9.Just Marry Me
10.Da,Da,Da,Da,
11.33
12.I Am

■ツアー情報
『Finding "LIBYAN GLASS" Tour 2018』
2018年9月28日(金) 札幌 BESSIE HALL 
2018年10月5日(金) 福岡 Queblick
2018年10月8日(月・祝) 岡山 CRAZYMAMA 2ndRoom
2018年10月12日(金) 仙台 enn 2nd
2018年10月13日(土) 新潟Live Hall GOLDEN PIGS BLACK STAGE
2018年10月19日(金) 名古屋 CLUB UPSET
2018年10月21日(日) 心斎橋 Music Club JANUS
2018年10月26日(金) SHIBUYA STREAM HALL ※ファイナル

『UNCHAIN presents You & U ~4 to 1000~』
2018年12月22日(土) 有楽町 HULIC HALL TOKYO

UNCHAIN 公式サイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる