大根仁×ISHIYA『ちょっとの雨ならがまん』上映を機に振り返った、ハードコアパンクの黎明期

『ちょっとの雨ならがまん』が伝えるカルチャー

 安田監督が、本作を撮ったきっかけについて、「東京ロッカーズにはそれほど同時代性を感じなかったんだけれど、ハードコアパンクが出てきて『これはすごい!』と完全にのめり込んだ。単に海外のシーンをパクっているのではなく、シーン自体に特有のエネルギーがあって、当時のバンドは被写体として魅力があった」と語ると、海外でもライブを行なっているISHIYAは「世界中を見ても、あんなシーンはない」と続けた。また、大根監督は本作がインタビューを中心に構成されていることについて、「あの時代にしかなかったモヤモヤした空気感が捉えられている」と、ドキュメンタリー映画としての側面を評するとともに、「フィルムの質感がたまらない」と、本作の生々しいタッチについても触れた。安田監督は、本作について「21歳の時に趣味で撮った映像だから、観ていて痛々しい気持ちになる(笑)」と照れながらも、「次世代の人に、アーカイヴとして残していければ」と、今回の上映を行った狙いを明かした。

『ファー・イースト・ベイビーズ』より

 同時上映される『ファー・イースト・ベイビーズ』は、『ちょっとの雨ならがまん』から約10年後に安田監督が撮った、自身初の長編劇映画だ。東京グランギニョル、M.M.M.、テクノクラートと続く活動で、東京の演劇シーンを塗り替えた飴屋法水とその劇団メンバーが集結している。石川成俊、棚橋ナッツ、上野仁、佐野秀介ら役者陣が、本人役として出演しているほか、劇中ではテクノクラートのマシンや、美術家の三上晴子のオブジェが登場しており、現代アートと映画が類を見ない形で融合した作品となっている。

左から、安田潤司監督、吉田アミ

 安田監督はもともと飴屋法水や出演の役者たちのファンで、とある作品の撮影が急遽中止となり、そのために用意されていた白黒のフィルムを譲り受けたことから、本作の制作を思い立ったという。モノクロの映像に加え、テクノクラートのマシンが動く音などがそのまま同録されていることで、独特の鮮烈さが生まれているのが、本作の大きな特徴である。吉田アミは、本作のサウンドや登場人物たちの声の質感について「鳥肌が立った」と評し、少年たちの暴力性をテーマに据えた作風に、「世紀末思想みたいなものは80年代後半からあったけれど、この映画が公開された1994年くらいになると、その感覚はさらに現実味を増していた。少年たちが馬鹿騒ぎしながら人を殺すという刹那的なイメージから、あの時代の空気を思い出した。少年たちにとってそれは一時的な、過ぎ去っていく季節のようなもので、観ていて切ない気持ちになった」と感想を述べた。

 また、『ちょっとの雨ならがまん』との共通項として、吉田アミは、「インタビュアーなどは女性だけれど、両作品ともに、基本的には女性が登場しない世界を描いている。少年たちの世界を覗き見しているようで、エロティックな感覚があった」と指摘。安田監督はこれに対し、「(両作において)女性は少年たちを俯瞰している立場」と同意した。

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