ユーミン、aiko、大原櫻子……miwa以前/以降の女性シンガーソングライターにみる“王道”の系譜
シンガーソングライターのmiwaが、デビュー以来8年間の活動の集大成として、自身初となるベストアルバム『miwa THE BEST』をリリースする。2枚組全31曲の中には、デビュー曲の「don't cry anymore」をはじめ、初めて紅白歌合戦に出演した際にも歌唱した代表曲「ヒカリヘ」、ファンからの人気も高いバラード曲「片想い」など、これまで発表したすべてのシングルの表題曲と未発表の新曲も収録。miwaの現在までの歩みがあますところなく収められた作品となった。
デビュー曲がいきなりドラマ主題歌に抜擢され、1stアルバム『guitarissimo』は平成生まれのシンガーソングライターとして初のオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。新人アーティストとして異例づくしの実績は、同世代のミュージシャンの中にあっても頭ひとつ抜けた印象を与えるのに十分だった。私自身、初めて彼女を目にした際、“彗星の如く現れた”という表現がぴったりの歌い手だと思ったのをよく覚えている。そんな際立つ存在感を見るにつけ、J-POPシーンの中で輝くほかの女性シンガーたちとの共通点も不思議と浮かび上がってくる。
数多いる女性シンガーソングライターの中でも、ギターを抱え、エモーショナルな歌で勝負するmiwaはいわゆる“王道”と位置付けることができよう。その“王道”の系譜をたどると見えてくるのは松任谷由実、aiko、そしてYUI、阿部真央ら、シンプルな楽曲の中にも鮮烈な印象を残すアーティストたちだ。
その特徴のひとつが歌唱法。彼女たちの鼻にかかった歌い方は、「鼻腔反響法」というテクニックのひとつで、口と鼻の中で自分の声をいったん響かせてから発声する。一説によると乾燥した気候の下で暮らす欧米人は、喉を傷めないためにも自然とこの発声を身に付けられるが、高湿度な環境下にある日本人は意識してトレーニングしてこそモノにできる技術とも言われる。それぞれ魅力的な声質に定評のある彼女たちではあるが、“聴かせる”ために培った努力も相当なものだったのかもしれない。
また女子の気持ちを代弁したリアルな詞世界にも共通点がある。恋愛はもちろんのこと、時には友人や家族、自分自身の内面のことまで。歌詞のそこかしこに、耳に残る印象的なフレーズが散りばめられている。例えば女子スキージャンプで、平昌オリンピック銅メダリストの高梨沙羅選手はmiwaのファンを公言しているが、自身を鼓舞する曲として「chAngE」を挙げている。〈道なき道を行くの そこにいたって 待っていたって 何も始まらない〉という歌詞は、なるほど高梨選手のストイックな競技スタイルを表しているかのようで、試合前に聴いていたというのもうなずける。聴く者の心に寄り添う歌詞は、彼女たちの楽曲が世代を超えて共感を呼ぶ理由ともなっている。
さらにひとつのジャンルに囚われず、楽曲ごとに世界観を変えて、常に新鮮な驚きを与えてくれるところも似ている。弾き語りにはじまり、ポップスからバラード、ロック調のものまで、あらゆる楽曲に意欲的に取り組む姿勢は、音楽に対しての柔軟さがあってこそ。miwa自身、“枠にとらわれない”活動を目指しているというが、これもユーミンやaikoら先輩シンガーによって切り拓かれたスタイルであると言えよう。