AA= 上田剛士が先駆的存在としてロックシーンに与え続けた影響 小野島大が徹底解説

AA= 上田剛士が先駆的存在としてロックシーンに与え続けた影響 小野島大が徹底解説

 上田剛士のソロプロジェクトAA=が今年デビュー10周年を迎え、初のベスト盤『(re:Rec)』(リレック)をリリースする。これまで基本的に上田剛士の自宅作業で作られていたAA=の過去楽曲19曲を、4人編成(マニュピレーター込みで5人)のバンドで再レコーディングしたものだ。いくつかの曲はオリジナルからアレンジを大きく変えて生まれ変わっている。単独CDのほか、同作にTシャツ、オリジナル・ベアブリック、豪華ブックレット『AA= BIBLE』などを同梱した完全受注生産のボックスセット『(re:Rec) – SPECIAL BOX「OIO」』も同時発売される。

 AA=はソロプロジェクトではあるが、ライブでは、上田剛士(Ba/Vo)、白川貴善(Vo/BACK DROP BOMB)、児島実(Gt/元THE MAD CAPSULE MARKETS)、草間敬(マニュピレーター)を中心としたバンド形態で活動しており、金子ノブアキ(Dr/RIZE)、ZAX(Dr/Pay money To my Pain,The BONEZ、POLPO)、YOUTH-K!!!(Dr/元BATCAVE)という3人のドラマーが各々のスケジュールに応じてライブ毎に入れ替わり叩くという体制になっている。今回のレコーディングはそのライブバンドのメンバーが初めて一堂に会して行われたのである(今回ドラムスはZAXが担当)。3日間で19曲という驚異的なスピードでリズム録りが完了し、上田自身による入念なポストプロダクションとミックスが施されたサウンドは、まさに圧巻の一言。

 AA=は、デビュー以来シーケンサーなどによる打ち込みと生演奏を同期するスタイルのハードコア〜ラウドロックを徹底追求、最新オリジナルアルバム『#5』では、ほぼ上田1人によるワンマンレコーディングで、AA=流テクノロック〜デジタルハードコアの完成型ともいうべきサウンドを披露していたが、今回の『(re:Rec)』では、それをさらに一歩先に進めた、バンドレコーディングならではのフィジカルなエネルギーと熱気溢れるグルーヴ、緻密で構築性の高いサウンドの高次な融合を実現している。それは、上田がTHE MAD CAPSULE MARKETS以降、追求してきた音楽性の到達点とも言うべき領域だ。

上田剛士の作る音楽の新しさとオリジナリティ

 上田は周知の通り、90年代以降のハードコア〜ラウドロックシーンに絶大な影響を与え続けたTHE MAD CAPSULE MARKETS(マッド)のメインソングライターであり中心人物だった。マッドは、パンク〜ハードコア〜ラウドロックのバンドサウンドに、打ち込みによる同期サウンドを大幅に導入したオリジネイターとして、日本のみならず海外でも高い評価を受けていたバンドである。

 日本のポップ/ロックシーンにおいて、シンセサイザー、コンピューターなどの電子楽器/テクノロジーを大幅に導入し大きなポピュラリティを得た先駆といえばイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)だった。70〜80年代のサブカルチャー黎明期において音楽の領域を超え小学生まで巻き込んだ未曾有の社会現象を巻き起こしたYMOの存在が、日本にテクノカルチャーを根付かせる大きなきっかけとなったのは間違いない。TM NETWORK/小室哲哉や電気グルーヴ、Ken Ishii、さらには中田ヤスタカといったアーティストの台頭は、YMOが地ならしした土壌なしには考えにくかったはずだ。平たく言ってしまえば、「テクノポリス」「ライディーン」といったYMOの大ヒット曲がテレビから日常的に流れ、ミリオンセールスを上げるような「現象」があったからこそ、日本人はシンセサイザーやコンピューターがポップミュージックに導入されることに慣れた、とも言える。そして、メタルやハードコア、ラウドロックといった領域で、YMOと同様の影響力をもったのが上田であり、彼のやってきたマッドやAA=と言えるのではないか。つまり日本の音楽リスナーはマッドのサウンドを体験しているため、パンク/ハードコア/メタルといったラウドロックのバンドが打ち込みやエレクトロニクスや同期を導入することを、そのサウンドを抵抗なく受け入れることができる。「ナマこそが最高」「機械の作る音楽は非人間的」という保守的なフィジカル至上主義から、いい意味から自由である。それは間違いなく上田剛士の功績なのだ。

 上田もまた、少年期にYMOの洗礼を受けた音楽家だ。1990年に彼が高校の友人たちと組んだマッドは、当初はザ・スターリンの影響大な攻撃的で激しいパンクロックを演奏していたが、その後90年代のオルタナティブ〜ミクスチャーロックのムーブメントやストリートカルチャーに触発されて、ラップメタルやラウドロック的な方向性に転じ、さらに1992年のミニアルバム『カプセル・スープ』あたりからサンプラーを導入しエレクトロニックな要素を加えた新しいラウドロックの方法論を模索し始める。そして1997年のアルバム『DIGIDOGHEADLOCK』で、ついにシーケンサーによる打ち込みと生演奏のラウドロックを完全に同期するプレイスタイルを全面導入。直接的にはNine Inch NailsやMinistry、Fear Factoryなどのインダストリアルメタル、Atari Teenage Riotなどのテクノ/デジタルハードコア、あるいはThe Prodigyなどのビッグビートなどとシンクロしたものと思われるが、それをストリート直系のハードコア〜ミクスチャーロックの荒々しいスタイルで展開・実現したのが上田剛士の作る音楽の新しさとオリジナリティだった。

 その打ち込みの全面導入において極めて重要な役割を果たしたのがマニュピレイターの草間敬で、マッド活動休止を経て現在のAA=に至るまで上田の右腕として欠かせぬ存在となり、今回のベスト盤『(re:Rec)』にも参加している。彼の参加したマッドの音楽は『OSC-DIS』(1999年)で完成の域に到達した。同作について草間はこう語っている。

 「1970〜80年代のレコーディングって“欧米ではこうしてる”とか、みんな凄く気になってたんですけど、なんだか人の真似ばかりしてるような気がして、そういう風潮から脱却したいと思ってました。「OSC-DIS」レコーディングの頃、MADのみんな、そして小西(康司。レコーディング・エンジニア=引用者注)さんと僕で作り上げたものは、海外の音楽を参考にしつつも、今までに聴いた事が無いようなサウンドになった。そのMADが海外でも評価され、ロンドンでの公演が大成功に終わった時、タケシさんから『僕らの音楽は間違ってなかったです』とメールが来たのは本当に嬉しかったです」(参照:KURID INTERNATIONAL

 coldrain、Crossfaithといった人たちを始め、現在のラウドロックシーンの中核を担うバンドの間で、上田剛士への支持は驚くほど高い。coldrainのMasatoやCrossfaithのKoieは実際にAA=の楽曲にゲスト参加しているし、またcoldrainやCrossfaithがテクノやエレクトロニカを大幅に取り入れたラウドロックを展開しているのは、PendulumやTHE QEMISTSといった海外のバンドというよりも、上田剛士が作ってきた音楽の影響抜きには考えにくいだろう。Dragon AshのKj(降谷建志)は、AA=始動後、上田に「AA=やる時、なんで俺ヴォーカルにしなかったの?」と詰め寄ったほどのファンで(参照:rockinon.com)、AA=でも「M SPECIES」(Mの遺伝子)という曲で共演もしているほどだ。AA=の3人のドラマー(金子、ZAX、YOUTH-K!!!)はそれぞれまったく異なる音楽的背景とプレイスタイルを持っているが、いずれも中高時代の多感な時期にマッドにのめり込み、バンドでコピーした経験もあるという。そんな例はほかに掃いて捨てるほどあるはずだ。ことに現在30代〜40代でラウドなロックをやっている連中の中で、マッドそして上田剛士はHi-STANDARDに匹敵する影響力を持っていたのではないか。

 また現在、coldrainやCrossfaithといったバンドが積極的に海外進出を図り成果をあげつつあるが、その面においても上田は先駆的存在だった。マッド時代からアルバムが完成するたびにひたすら海外レーベルに音源を送り続けるという草の根的アプローチを続け、認められるという形で海外での活動が始まり、1998年にアルバムがリリースされたあたりから本格化。英米ツアーをことごとくソールドアウトさせ、英国のメタル専門誌『KERRANG!』で高い評価を受け、「Ozzfest UK」や英「Download Festival」のメインステージで数万人を前にプレイするという大成功を収めた。その時点でマッドは日本でもオリコンチャートのトップ5にアルバムを送り込むほどの人気バンドになっていたが、よくある日本人アーティストの「海外進出」のように、所属レーベルの政治力や金にモノを言わせたりファンクラブを動員するのではなく、純粋に音だけで勝負し、音を評価されての成功は、後進に大きな勇気と刺激を与えたはずだ。2014年にCrossfaithが「Download Festival」のメインステージでプレイしたが、日本人バンドとしては2005年のマッド以来9年ぶりのことだった。

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