アーティストが語る“ミュージックヒストリー” 第十五回:チャラン・ポ・ランタン
松浦亜弥、シルク・ドゥ・ソレイユ、ミスチル……チャラン・ポ・ランタンが明かす“多彩なルーツ”
隔週木曜日の20時~21時にInterFM897でオンエアされているラジオ番組『KKBOX presents 897 Selectors』(以下、『897 Selectors』)。一夜限りのゲストが登場し、その人の音楽のバックボーンや、100年後にも受け継いでいきたい音楽を紹介する同番組では、ゲストがセレクションし、放送した楽曲をプレイリスト化。定額制音楽サービスKKBOXでも試聴できるという、ラジオと音楽ストリーミングサービスの新たな関係を提示していく。11月2日の放送には、チャラン・ポ・ランタンのももと小春が登場。“自身が影響を受けた音楽”と“100年後に残したい音楽”を紹介した。今回はそのプレイリストから彼女たちの音楽性を掘り下げるべく、同回の収録現場に立ち会った模様の一部をレポートしたい。
ももがまず、自身のルーツとして挙げたのは、松浦亜弥「Yeah! めっちゃホリディ」(アルバム『T・W・O』収録)。彼女はこの曲と小学生の時に出会い、「コンポの目覚まし設定にこの曲を入れて、毎朝目覚めていた」と語る一方、姉の小春は「私のほうがシュッと起きてたよね」と、姉妹ならではのエピソードが飛び出した。また、小春はこの曲について「シタール感、アラビア感は引き継いでいる感じがありますよね」とコメント。確かに、この頃のハロプロにはインド音楽やアラブ音楽など、民族音楽の要素が少なからず入っていたが、それが彼女たちのルーツの一つになっていたというのは驚きだ。
続けて、小春はシルク・ドゥ・ソレイユ「Jeux D'Enfants」(アルバム『アレグリア』収録)を紹介。彼女がアコーディオンと出会ったのは、母に連れて行ってもらったシルク・ドゥ・ソレイユの『アレグリア』だったそうで、「派手な演目も色々あったのに、白塗りのアコーディオン弾きが一番印象に残っていて。終わってから、『あの伸び縮みしているピアノが欲しい』と母にお願いした」ことから、その年のクリスマスにサンタクロースから小さいアコーディオンをもらったことで、小春の今があるという。「シルク・ドゥ・ソレイユがなかったらチャラン・ポ・ランタンもなかった」と語る彼女たちだが、いまや『シルク・ドゥ・ソレイユ』が2018年2月より開催する『ダイハツ キュリオス』のスペシャルサポーターに任命されるなど、着実にかつての自分たちが憧れた舞台へと近づいている。
また、17歳のころから大道芸として音楽を始めた2人は、同じく大道芸から始まったシルク・ドゥ・ソレイユにシンパシーを感じていると話す場面も。小春の「おどろおどろしいところもあれば華やかなところもある。そういうもので人々に感動を与えたい」というコメントは、そんな彼女たちの音楽性を的確に表した一言だろう。
番組中盤、ももは「音楽を始めてから影響を与えられた曲」として黒猫チェルシーwith チャラン・ポ・ランタン もも「抱きしめさせて~THE HEAD WINDS ver.~」(TBS系ドラマ『毒島ゆり子のせきらら日記』劇中歌)をピックアップ。もも自身も同ドラマに出演したり、先日はひとり芝居『あのさ、生まれ変わったら』を上演するなど、役者としての活躍も著しく、その才能は留まるところを知らない。
ももはこの曲について「いつも姉と活動していて、バンド編成でも全員女性なんですけど、黒猫チェルシーのなかでレコーディングして、歌ってみて気付いたことが色々あって。電子楽器に囲まれながら歌っていると、自分のボーカルの色も変わっていくと気づけた」と、歌手として一段階上のレベルへと到達したことを明かし、「自分のボーカルがキラッとポップに聴こえるようなことを意識するようになった。今回のアルバムでもそれが活かされている」と、11月1日リリースのアルバム『ミラージュ・コラージュ』にもフィードバックされていると話す。たしかに、ここ数年で彼女のボーカルはどんどんポップに、歌の表情もキャリアを重ねるごとに豊かになった。そのターニングポイントがこの曲だったというのだから、コラボの意義は大いにあったということだろう。
小春は同じテーマでMr.Childrenの「くるみ」(アルバム『シフクノオト』収録)を挙げ、「中学生のときは、海外の民族音楽に興味があって、クレズマーやシャンソンが好きだったんですけど、邦楽にもアコーディオンが入っているんだと気付いて、最初に買ったのがこの曲の入ったシングルでした」と楽曲との出会いを振り返った。そんな小春は、いまやMr.Childrenのホールツアー『Mr.Children Hall Tour 2016 虹』にサポートメンバーとして全公演へ参加するほどに。自身も「そんな風に出会った曲を、まさかステージの上で演奏できるとは思っていなかった」と感慨深げにコメント。シルク・ドゥ・ソレイユやミスチルなど、自分たちの原体験をしっかり活動に繋げ、対等な立場でコラボレーションするまでになった彼女たちの姿は、夢を追いかける人にとって勇気をもらえるものだろう。
なお、番組ではほかにも、彼女たちの“100年後に残したい音楽”として、誰もが知る演歌の名曲、歴史的な民族音楽・クレズマーの名曲や、11月1日リリースのアルバム『ミラージュ・コラージュ』についてのトークも行われた。
アコーディオンとボーカルという一見変わったユニットだが、その音楽性は深く広く、しかし歌声やメロディはポップなチャラン・ポ・ランタン。今回の放送を通して、そんな彼女たちの幅広いルーツが伝わってくれることを願う。
(文=中村拓海)
■番組情報
KKBOX presents『897 Selectors』
DJ:野村雅夫
放送日:毎月第一・第三週木曜20:00からInterFM897でオンエア
番組ホームページ
■連載「アーティストが語る“ミュージックヒストリー”」バックナンバー
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