Mr.Childrenはなぜ今“普通のロックバンド”を謳歌? 25年のキャリアから考察

Mr.Childrenを通して振り返るJポップの歴史

 今年デビュー25周年を迎えたMr.Children(以下、ミスチル)が、5月10日にそれを記念したベストアルバム『Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25』『Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25』をリリースした。『Mr.Children 2001-2005 <micro>』『Mr.Children 2005-2010 <macro>』(2012年5月10日リリース)以来のベストアルバムとなる今作は、シングル曲を中心に2枚で計50曲を収録。配信のみの取り扱いで、1年間の限定発売となる。

 現時点でミスチルの音源はサブスクリプションサービスでは聴くことができず、また自身でも「I ♥ CD shops!」といったCDショップを支援するような取り組みを行うなど、彼らは今の音楽マーケットにおいては「フィジカルを重視する度合いが非常に強いアーティスト」と言える。そんなミスチルが配信のみでベストアルバムをリリースしたというのはなかなか興味深い事案である。『REFLECTION』(2015年6月リリース)では音質を落とさずにたくさんの楽曲を収録するためにUSBでのリリースを行ったり、『SENSE』(2010年12月リリース)では事前告知なしで作品を発売したりするなど、ミスチルは流通面においてもユニークなトライを継続して行っている。どういった手法が自分たちの肌に合うか、いろいろと模索している最中なのだろう。

 ここまで触れてきたとおり、今回のミスチルのベストアルバムには作品周辺においても語るべきポイントが多数含まれている。ただ、今作で特に注目したいのは、やはり25年分のシングル曲がずらりと並ぶ曲目である。「ミスチルのベスト盤」である以上、大半の楽曲がヒット曲であるというのは事前にわかっていたことでもある。しかしそれでも、今作を聴いてみると「ミスチルの楽曲は“単なるヒット曲”ではなくて、“リリースされた時代の空気が反映された音楽”だ」ということに改めて気づく。誰にでもあてはまる恋愛について歌うだけではなく、かと言ってその時々の社会問題を憂うだけでもない、個人のミクロな感情とマクロな社会の動きを密接に結び付けながら紡がれていく彼らの作品はいつの時代も多くの人の心を惹きつけてきた。

Mr.Children『GIFT』

 渋谷系的な文脈で語られることもあったデビュー当時の楽曲。タイアップの力を活用しながら支持を集め、Jポップの時代を呼び込んだ「CROSS ROAD」「innocent world」。自我のあり方や社会への不安・怒りをキャッチーなメロディに乗せて歌い上げることで大ヒットを連発し、「ミスチル現象」なる言葉も生み出した90年代半ばの数作。桜井和寿の小脳梗塞からの復帰を経てさらに国民的バンドとしての地位を盤石にしていく過程での2000年代前半の作品、およびそんな中で当時の世界情勢をタイムリーに楽曲に落とし込んだ「タガタメ」。NHK北京オリンピックの放送テーマ曲としてこの年を代表する楽曲となり、初出場となった紅白歌合戦でも歌われた「GIFT」。枚挙にいとまがないが、バンドとしてのキャリアの総括がそのまま時代の総括とリンクしているかのような今作は、90年代以降の日本のポップスの歴史を再体験できる作品と言っても過言ではない。こんなベストアルバムを作ることができるのは、あとにも先にもこの人たちだけではないだろうか? また、ボーカルが前面に出るように各楽器の音が配されるバランスや、バンドアレンジとストリングスの組み合わせの妙など、サウンド面における「Jポップらしさ」につながる要素が全編にわたって展開されているのも今作の聴きどころのひとつである。90年代のミスチルをリアルタイムで知っているオールドファンにとっても、そうでない若い層にとっても、今現在自分たちが愛しているJポップの根幹にあるものを知ることができるという点で非常に意義深い作品である。

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